第22話 魔法少女再び

ピンポーン


ドアのチャイムが鳴る。どうやら来てしまったようだ。

憂鬱だな。居留守でもするか?

そんな事を考えていると再びチャイムが鳴り響く。


ドアを開けずにぼーっとしていると、三度チャイムが鳴る。

それもまた無視するが。当然チャイムが鳴らされる。

そして段々とチャイムを鳴らす間隔が短くなり、もはや連打状態になった所で諦めてドアを開け放つ。


「せんせー!おはようございます!」

「ああ、おはよう」


朝からテンションの高い奴だ。

これだからガキは困る。


目の前に佇む、白とピンクの花をテーマにしたワンピースを着ている、ツインテールの彼女の名前は鷹目円華たかめまどか

御年10歳の小学四年生だ。

何でも名前は、昔流行った魔法少女から付けられたものらしい。

まったく親の正気を疑うぜ。


「上がってもいいですか?」


たまの休日にこんなガキの相手をしたくはないのだが、帰れと言ったら大声で叫ばれそうなので仕方なく促す。

死ねばいいのに。


「ああ、入れ」

「お邪魔しまーす!あ!先生部屋が汚いです!!!」

「魔法使いの部屋は皆大体こんなもんだ」

「えー、私汚い部屋は嫌いです!片づけますね!」


ファック!何言ってんだこのクソガキは!!

齢10にして我が聖域サンクチュアリに手を出すつもりか!断固阻止する!


「子供に掃除などされてしまっては、俺の面子が丸潰れだ。手は出すな」

「こんなに部屋が汚いままの方が面子は潰れますよ、先生。だから片付けますね」


なんてこった。子供の緩いおつむなら難しい単語を出せば引くと思ったのに。

魔法少女になりたいとか痛い事言ってる割に、おつむの出来はそこまで悪くないだと!

大失態だ!

何とかリカバーせねば!!


「あー、実はこの部屋の配置には魔法的に意味があってだな…」

「先生、嘘を吐くんならもうちょっとましな嘘を吐いた方がいいですよ?」


まどかはこちらの攻撃をバッサリと切り返しつつ、どんどんと部屋を片付けていく。

こいつ本当に10歳か?いくら何でも手際良すぎだろう。

だがこれ以上の進軍を許すわけには行かない。

何故なら、奴は今にも俺の聖域中の聖域、トップシークレットへとその魔の手を伸ばそうとしているからだ。

此処を破られれば、俺に明日は無いと言ってもいいだろう。


「わかった!こっちは自分で片づけるから。お前は台所で洗いものでもしてくれ」

「はーい」


そう元気よく返事したまどかは俺の横を素早く通り過ぎ、滑り込むようにベッドの下に手を突っ込む。

その間約3秒。あまりの早業に動く事すらできなかった。


「Hな本発見!」

「子供がそんなもん高々と掲げんな!!」


いったいどんな教育受けたらこんな破廉恥に育つんだ?

親の顔が見たいもんだ。


するとまどかはH本のページをパラパラとめくりだす。

えええええええ!?

こいつ正気か!?


「ふむふむ、おっぱい大きいのばっかですね。安心しました」

「はぁ?」

「えっと、お母さんが部屋に行ったら、まずはHな本を探して確認しなさいって。もし子供が写ってる様なら、すぐに部屋を出ないと危ないからって」


なんちゅう親だ。

確かに子供の写ってる本を持っていたら一発レッドカード物だが、そんなに心配なら最初から来させなければいいだろうに。

ん?ちょっと待て?お母さん?


「え?親に言って来てるのか?」

「はい、勿論です。魔法少女になる為の修行に行きますって、ちゃんと伝えてあります」


よくそれでOKだしたな、こいつの親は。


「あ、そうだ。これ、お母さんから先生へ手土産です」


そう言いながら、背中に背負っている、白い獣の顔を象ったリュックから取り出し、手渡してくる。

まどかのリュックと同じ顔をした獣顔の饅頭だ。


「あ、こりゃどうもご丁寧に」

「さあ、それじゃあささっと部屋を片しちゃいましょう!」


ああ、うん。もう好きにしてくれ。

トップシークレットを暴かれた今、もはや俺に抗う気力は無かった。

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