第百二十一話 さあ作戦開始だ。

「やあこんばんは。

 今日も始めていくよ」


「うん。

 昨日の呼炎灼こえんしゃくは何だったの?」


「まあまあ慌てないで。

 今から話してあげるよ」


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「繰り返す……

 我が名は呼炎灼こえんしゃく……」


 僕は画面に釘付けだった。

 数回名乗りを繰り返した後内容を話し始める呼炎灼こえんしゃく


「起てよっっ!!

 竜河岸よっっ!!」


 呼炎灼こえんしゃくの演説はこの檄から始まる。


「高い技能を持ちながら虐げられている竜河岸はいないかっっ!

 友好の意思を示そうとも隣に居る竜、及び自身が竜の言語を理解できる事により敬遠されている竜河岸はいないかっ!」


 テレビ越しでも伝わる物凄い圧。


「吾輩が決起した訳は余りにも消極的な竜に対する日本政府の対応を憂いての事であるっ!

 未だ偏った竜分布。

 地方に丸投げの竜河岸への対応っ!

 こんな腐敗した日本政府に任せておいて我々が幸福を得られるのだろうか?


 否っ!

 断じて否っ!


 幸福とは行動にある。

 幸福とは流れる川であって澱んだ水溜まりではないっ!

 我々陸竜大隊六十名と宗徒二十名はここに新国家の樹立を宣言するっっ!」


 は?


 それを聞いた僕の頭に浮かんだ素直な感想だ。


「国名は晨竜しんりゅうっっ!

 竜の夜明けと言う意味っっ!

 我々は全都道府県にいる竜河岸五千人の未来を照らす光になる事を約束しようっっ!」


 蒙昧な誇大妄想も甚だしい。


「我々は無能な旧人には見切りをつけ行動するっっ!

 この放送を聞いている竜河岸達はどうする?

 事なかれ主義を貫き、現状を生き続けるのか?

 旧人の対応は変わるわけでは無いのにっっ!

 現状に満足していない竜河岸は起てっっ!

 怒りを礎に変えて起ち上がれっっ!

 そして晨竜国しんりゅうこくに来いっっ!

 富士芝桜展望広場にて我々は待っているっっ!

 尚国境など細部については随時放送していく……

 では芝桜広場で待っているぞっっ!」


 ブウン……

 ザザーザザー


 砂嵐の後、すぐに画面は真っ暗になり一般放送に戻った。


 ガヤガヤ


 一般放送内のキャスターは突然の事に慌てふためいている。


 僕は狐に摘ままれた様な心境だった。

 ちらりと隣を見るとげんも蓮も同じ様な面持ち。


「…………ワイの場合……

 気に喰わん奴はぶっ飛ばしてきたからなあ……」


「私も…………

 ママも…………

 凄く周りの人間は冷たかった……」


 二人とも呼炎灼こえんしゃくの演説に思う所がある様だ。


 プルルルルル


 携帯が鳴る。

 ディスプレイを見る。


 皇豪輝すめらぎごうき


 兄さんだ。

 おそらく今の放送を見ていたな。


「もしもし」


「竜司か。

 今の放送見たか?」


「うん」


「俺も見た。

 呼炎灼こえんしゃくが動き出した。

 新国家だと?

 全くふざけやがって……」


「うん。

 僕もそう思うよ」


「俺達も動く。

 すぐに県警本部に来てくれ」


「わかった」


 プツッ


げん、蓮。

 行こう。

 県警本部に」


「おう、やったるでぇ……」


「わかった」


 僕らは家を後にする。


 県警本部 十階 刑事課


 ガヤガヤザワザワ


 一階はいつも通りだったのに十階に上がるとうって変わって戦場のようになっていた。


(だからっ!

 人が足りないんですよっ!)


(本庁の指示ィッ!?

 今皇警視正が居ますからっ!

 その点は問題無いでしょぉっ!)


 刑事が電話を片手に怒鳴っている。

 ピリピリした雰囲気が伝わって来る。

 僕は何となく話しかけづらくなり何も言わずそろりと第三会議室へ。


 第三会議室


 中から話し声が聞こえる。


 トントン


「来たか」


 ドアの向こうから兄さんの声が聞こえる。


 ガチャ


「さあ入れ。

 みんな」


 挨拶もせず僕らを招き入れる兄さん。

 中に入ると地図のプリント紙がホワイトボードに張られていた。

 そしてマジックで色々書き込みされていた。


 〇国境(推定)右:神奈川県 酒匂川さかわがわ 左:静岡県 富士川 伊豆半島を含む。


 〇コード608


 〇発砲許可


 〇宗徒二十人とは一般人?


 こんな事が書いてある。

 殴り書きで書いてある所を見ると喫緊してる様子が伺える。


「座ってくれ」


「うん」


 僕らは席に着く。


「まず、先程も言った通り長期戦になるとこちらが不利になる。

 理由は晨竜国しんりゅうこくに入るという竜河岸が増える可能性があるからだ。

 だから挑むのは短期戦。

 出し惜しみは無しだ。

 あと向こうが一番嫌がる事は国土の減少だ。

 となると国境に指定した箇所にはある程度の手練れの大隊員を配置するだろう。

 だからこちらも戦線を目一杯広げて対応する。

 コード608も打診した。

 永田町の連中も全力で止めたいはずだ。

 すぐに返信は来るだろう。

 特殊交通警ら隊全員集まりゃあちょっとしたも……」


 コンコン


 誰かが訪ねてきた。

 兄さんがニヤリと笑う。


「……と言ってる内から来たな」


 ガチャ


 ドアを開け、兄さんが対応する。


「…………んだとぉっっ!?

 何でっっ!?」


「…………科玉条っっ…………!?

 やられた……」


 ガチャ


 さっきとはうって変わって力無く扉を閉める兄さん。


「ど……

 どうしたの……?」


 僕は恐る恐る聞いてみる。


「やられた…………

 コード608は施行されない……」


「どうして?」


 僕はまだこの段階では事の重大さを理解できなかった。


「今連絡が入った……

 さっきの放送直後に都心を含む道府県で竜関連の事件が発生……

 日本の竜河岸警官のほとんどが駆り出された……」


 段々僕は事の重大さが解ってきた。

 顔が青ざめる。


「…………え……

 って事は……」


「あぁ……

 この場に居る連中だけで対処しないといけない……」


 僕は思いついた。


「でっっ!

 でもっ!

 確か静岡県警には滝さん二人が居たじゃないっ!」


「…………二人とも事件で出て行った……」


 僕は絶句した。

 となると増援なんかは期待出来ない。

 下手をしたら陸竜大隊VS人間の軍隊なんかにまで発展するかも。


 ブルッ


 身震いをする僕。

 トボトボ戻って来る兄さん。


「えー…………

 みんな……

 予定が変わった……

 作戦をもう一度考え直すから少し時間をくれ……

 一時間程したらまた再開だ……」


「了解」


 と、カズさんとつづりさん。


「へぇ~い……」


 とリッチーさん。


 小休止を告げた兄さんはショックが抜けきれない状態で部屋を後にする。

 僕らはとりあえず飲み物を買いに行くことに。


 ゴトン


 自販機から飲み物を散り出す。


 ペコッ


 プルタブを持ち上げ飲み物を一口。


「ふう……」


 少し落ち着いた。


「んで竜司。

 にいやん、どないしたんや?」


「うん……

 僕も詳しくは知らないけど、何か増援が期待できないんだって」


「ん……

 何や?

 ほしたらワイらだけでやるんかい」


「うん……

 みたいだよ」


 それを聞いたげんがニヤリと笑う。


「ええやないかっ!

 兵力差は圧倒的……

 まともにやったら負け戦確実かいっ!」


「何が良いの……?」


「竜司知らんのかい?

 ケンカってなあ負け戦程おもろいもんやで?

 勿論、そこから勝ち戦に代わったらもっとおもろいけどな」


 そこへカズさんとつづりさんがやって来る。


げんくん、やる気だねえ」


「う~~ん……

 ワイルド系は余り好みじゃないのよねぇ……

 血も何か角張った味するし……

 六十五点」


「おいエロいねーちゃん、誰が六十五点やねん」


 誰に言ったとは言って無いのに敏感だなあげんは。


「ウフン……

 やっぱりアタシは竜司くんの方がカワイくて好みだわんっ!」


 ギュッ


 つづりさんが抱きしめてきた。


「モガーーッ!」


 つづりさんの巨乳に顔を押し付けられる。

 この人会う度にエロさが増してないか?


「ちょっ……!

 ちょっとっ!

 何してるんですかっ!?」


 蓮が僕を引っぺがす。

 僕は多分鼻血を出していたのだろう。


「あぁっっ!?

 ムムム~~……

 竜司の…………

 スケベーーーッッッ!」


 バッチーーーンッッッ!


「ぶべらっっ!」


 僕の頬を蓮の強烈な平手打ちが襲う。

 妙な声が出た僕は倒れ込む。


 でも今回は気を失わなかった。

 僕も成長したのかな?


「いてて……」


 僕はゆっくりと半身を起こす。


「竜司、大丈夫?」


 隣で暮葉くれはがしゃがんで様子を伺う。

 ここで違和感。


「あぁ……

 大丈夫だよ。

 でも暮葉くれは、何でつづりさんだと大丈夫なの?」


「ん?

 大丈夫って?」


 暮葉くれは、キョトン顔。


「だって蓮の時は嫌ーーーっとかわーーーっとか言って間に入って来るじゃん」


「あれ?

 そう言えば何でだろ?

 よくわかんない」


「あ……

 そう」


 僕はこれでこの会話を流そうとしたが暮葉くれはは何か考え込んでいる様子。


「う~んう~ん…………

 つづりさんは友達だから……?」


「それを言ったら蓮も友達じゃないの?」


「えっ?

 あれっ?

 そう言えばそうダナ…………

 ムムムム」


 腕組みしながら訝し気な顔を見せる暮葉くれは

 頭を左右に振っている。

 そんな様子を見て蓮が声を掛けてきた。


「竜司、どうしたの?」


「いや……

 実は……」


 事の経緯を蓮に話した。


「ふうん……

 なるほどね……」


 蓮はしゃがみ、暮葉くれはと同じ目線へ。


「いい……?

 暮葉くれは……

 その……

 つづりさんと私の差は恋のライバルって言う点よ。

 私、前に言ったよね?

 貴方と私は恋のライバルだって」


「う……

 うん……

 言ってた……」


 何か蓮の真剣な表情を説教されているとでも取っているのか何かションボリしている暮葉くれは

 その様子を蓮も察した様だ。


暮葉くれは…………

 私は何も怒ってる訳じゃ無いの……

 どちらかというと嬉しいぐらい」


「嬉しい?

 何で?」


 暮葉くれはキョトン顔。


「私と竜司が近づくと嫉妬するって事は私を恋のライバルと認めてるって事だもん。

 負けないわよ暮葉くれは

 今は貴女の方が前に行ってるかもしれないけど私だっていつかは……」


 チクリ


 僕の胸が痛む。

 罪悪感の棘が僕の胸を刺す。


 僕はもう暮葉くれはに決めたんだ。

 僕だって生半可な気持ちで暮葉くれはにプロポーズしたんじゃないんだ。


 暮葉くれはと添い遂げると決めたんだ。

 これはどこまで行っても変わらない。


 ズキリ


 ここまで考えた所で更に僕の胸を罪悪感の刃が突き刺さる。

 やはり蓮とは関係を断つべきだったのだろうか。

 

 僕は暮葉くれはと結婚するけど親友で居て欲しい。


 と、いうのはやはり虫の良い話なのだろうか。

 頭の中を思考がグルグル回る。


「竜司、どうしたの?」


 蓮が僕の様子に気付いて声を掛けてくる。


「いいいいやっっ……!

 何でも無いよっっ!」


 僕はすっくと立ちあがる。

 前を見るとげんとカズさん、つづりさんが話している。

 何か珍しい取り合わせだなあ。


あんちゃん、そんなもやしみたいな身体でケンカ出来んのかいな?」


「おっ言ってくれるねぇ。

 確かに僕のスキルは荒事寄りと言うよりは捜査寄りのものだけど、伊達に僕も特殊交通警ら隊の一員じゃないんだ」


「ほほう……

 なら何か隠し持っとんのかい」


「まあね。

 僕だけじゃない。

 つづりだってそうだし、リッチーだってそうさ」


「へえ、ねーちゃんだけやのうて中におるネクラもあるんかい」


「ネクラってリッチーの事かい……

 タハハ……

 そうさ、僕ら特殊交通警ら隊は大なり小なり絶対荒事に関わるからね。

 単体でも取り押さえる事が出来るスキルを隠し持ってるものなのさ。

 いわば“奥の手”ってやつだね」


「ウフゥン。

 そうよぉん」


「ほんだらネーチャンの奥の手ってどんなんやねん」


「ウフフフ……

 貴方……

 その純粋に力を求める感じは嫌いじゃないわぁん……

 で・も…………

 ごめんなさぁい……

 ここじゃあ見せらんないのぉ……」


「何や出し惜しみかい。

 まあ奥の手ゆうとるししゃあないか」


「いや……

 そう言う訳じゃ無いのぉん。

 単純に勿体ないのよ……」


「勿体ない?

 何がや?」


「カズの輸血パックよぉん」


「輸血パック?

 そんなモン何に使うんや」


「あらん…………

 そう言えば貴方達に自己紹介してなかったわねぇん…………

 アタシの名前は飛縁間綴ひえんまつづり、吸血鬼よぉん。

 よろしくねぇん」


「え……?

 吸血鬼……?」


 気になるワードが聞こえた為、蓮も話に加わる。


「あーあー……

 びっくりしないでぇん……

 吸血鬼って言っても正確にはレンフィールド症候群って病気なのォ……

 別にアタシニンニク好きだし、十字架見せられても平気よぉん……」


「昨日もラーメンにニンニクドサドサいれるんだもの。

 ホントに吸血鬼なのかって疑いたくなるよ」


「何や二人、付きおうとんかい」


「そぉよぉん……

 そしてカズがアタシの血液提供者ドナーなのよぉ……

 それでね……

 さっきの話だけどぉ、アタシの奥の手って輸血パック三つも使うのよお」


「何や吸血鬼が輸血パック使うんかい。

 えらい現実的やのう。

 もっとこう……

 首筋にカプっといかんのかい」


「普段ならそおするわよぉ。

 でも一気に千二百mlも吸血しちゃったらカズ死んじゃうわぁん」


「ふうん……

 なるほどのう…………

 のうアンチャン、多分奥の手含めたら特殊交通警ら隊ん中で一番力強いんネーチャンとちゃうか?」


 それを聞いたカズさんが少し驚いた顔でニヤリと笑う。


げんくん……

 君、外見に似合わず賢いね……

 いや鋭いのか……

 その通りだよ」


「外見に似合わんって何やねん。

 まあ大体どんなんかわかったわ」


 そんな話をしている内に一時間は直ぐに経つ。

 僕らは会議室に戻る。

 席に座り待っていると直に兄さんがやってくる。


「お前ら待たせたな……

 これから変更した作戦を伝える……」


 それを聞いたカズさんが手を上げる。


「隊長、その前に何があったのか説明して下さい」


「わかった。

 呼炎灼こえんしゃくに先手を打たれた……

 竜河岸配属の都道府県全てで竜を使って事件を起こしやがった…………

 ご丁寧に犯行声明迄出してな……

 だからコード608は施行出来ない……」


「あ……

 金科玉条か……」


 カズさんは何かを察した様だ。


「そうだ……

 自身の担当している事案は解決してから次の事案に臨むべし……

 これがある限り他県からの増援は無理だ……」


 何か色々ツッコみたい。

 そもそも国家転覆クラスの事件が起きているのに金科玉条もクソも無いと思うのだが。


「兄さん……

 ちょっと聞きたいんだけど……

 犯罪犯した竜河岸ってどうなるの?」


「基本は一般人と変わらないぞ。

 事件にもよるが民事や刑事裁判にかけられて判決によって懲役だったり書類送検だったり。

 竜河岸独特の所は竜が強制送還される所だな。

 ただこれもおかしな所があって竜の意向に沿うと言うのも付いていたり」


「意向に沿う?

 どういう事?」


「竜が帰りたきゃマザーに打診するし、帰りたくなきゃ主と同じ罪状を背負う事になる。

 書類送検だったらいいんだけど懲役の場合がややこしくてな結局マザーに打診せにゃならん」


 なるほど。

 地球じゃあ竜を収監しておく場所なんかないからか。


 と考えると結構忙しいんじゃないか?

 マザーって。

 火サス見てる場合じゃないだろ。


「隊長……

 話、脱線してますよ……」


「あぁすまん……

 それでだ……」


 また兄さんが作戦の事について話し出す。


 僕が何故こんな質問をしたかと言うと他県で事件を起こした竜河岸達(未確認だが竜が駆り出された所からの推測)は捕まった時のリスクを考えないのだろうかと考えたからだ。


 それを上回るメリットの提示があったのか、呼炎灼こえんしゃくの信奉者なのだろうか。

 多分国家樹立するって言う極めて重要な時に自戦力を削ぐと言うのは考えにくい。


 削いだとしても一人か二人。

 竜も入れて四人ぐらいだろう。


「……おい竜司、聞いているか?」


「あっあぁ……

 何?

 兄さん」


「全くしっかりしろよ……

 作戦は各個殲滅戦から主要人物だけを狙った電撃作戦に切り替えるって話だ」


「あ、そうなの?

 主要人物って?」


「今のところ解っているのは六人だ」


 そう言えば前に資料見せてもらったな。

 兄さんが挙げた人物はこの六人


 〇呼炎灼こえんしゃく


 陸竜大隊隊長。

 階級は一等陸佐。

 岩漿自在フリーリーマグマータと呼ばれ、マグマを自在に操る。

 ガレアがマグマに変えられた経緯がある。


 〇三条辰砂さんじょうしんしゃ


 陸竜大隊副長(副官)。

 階級は三等陸佐。

 蛟竜毒蛇コラプトと呼ばれ、銀を操る。


 〇呂比須ロペス・トーマス


 陸竜大隊隊員。

 一等陸尉。

 炎を操る。

 呼炎灼こえんしゃくの劣化版みたいなのかな?


 〇裏辻湯女うらつじゆな


 陸竜大隊隊員。

 三等陸尉。

 竜の名前はデクラで乳白色。

 スキルは分子運動モレキュラーモーション

 物質の分子運動を操る。


 このひとだけ割と情報が多いんだよなあ。


 何でだろ?

 女性だからかな?

 それとも直属の部下だったのかな?


 〇電田張梁でんだばりばり


 陸竜大隊隊員。

 あだ名はデンデンバリバリ バリバリ。

 三等陸尉。

 竜の色はレモン色。

 スキルは電気を操るらしい。


 何でこの人だけあだ名がわかってるんだろ?


 あとは久我真緒里こがまおり医官。

 この人を押さえない限りどんなに倒しても復活してしまう。


 とりあえず今はこの六人。

 他にも居るかも知れないけど。


「まずは竜司の全方位オールレンジで相手の全容を把握。

 そして出来れば散って各個撃破に持って行って欲しい」


「人の振り分けはどうするの?」


「ええと……

 まず呂比須ロペスはカズ。

 お前が行け。

 裏辻湯女うらつじゆなは…………」


 兄さんが周りを見渡す。

 ふとベノムと目が合う。


げんくん……

 君の竜はどういう竜だ?」


「ん?

 ベノムの事か?

 震竜や」


「震竜?

 変わった種類だな。

 何か特殊な事が出来るのか?」


「地面、ピンポイントで揺らす事出来るで」


「ほう。

 地震の震で震竜か……

 先日の手合わせで使えばもう少し戦えたかも知れないのに」


「ハッ。

 アホな事言うなやにいやん。

 竜河岸同士のケンカに竜使えるかいや」


 これを聞いた時、いつかのガレアの台詞を思い出した。


 俺は他の竜河岸とケンカしてる時は手は出さねーよ。


 げんにしてもガレアにしてもケンカ好きのプライドがそうさせるのか。


「ははっ。

 げんくんらしいな……

 よし、裏辻湯女うらつじゆなげんくんに任せても良いか?」


「ゲッ……

 マジか……

 ワイ、タレなんかよう殴らんで……」


「まあそういうな。

 おそらくこの三人の中なら裏辻うらつじ三尉が一番の手練れだと思うぞ。

 分子運動モレキュラーモーションも君の竜と相性はいいだろうしな」


「手練れて……

 一番情報あるからそう言っとんのとちゃうんか……

 まあええわい。

 多分そのスキル名前からして振動とかを使ってくんのやろな。

 まあそれやったらワイが適任やろ。

 にしても……

 タレか……」


 何やらげんが凹んでいる。

 そんな生き死にの戦いの中で女だ男だ言ってる場合でもないかと思うのだが。


 こんな気持ちが湧くのは僕が色んな竜と争ってきたからだろうか。

 いや、勿論普段は女性には優しくしたいと思うけど。


「それと……

 電田張梁でんだばりばりは……

 蓮ちゃん……」


「はっ……

 はいっっ!」


「君に頼もうと思うんだけど、どうかな?」


「別に大丈夫ですけど、何か理由ってあります?」


「なに簡単な話さ。

 先日の超電磁誘導砲レールガンの出力を見れば、君の竜……

 えーと……」


「あ、ルンルって言います」


「えらく可愛い名前だな……

 まあいい。

 そのルンルの電力が相当ハイレベルって言うのが解る。

 この電田でんだ三尉もおそらく君と同系統の能力だ。

 同じ土俵なら君の方が上手だと踏んだまでさ」


【アラン……

 そこのお兄さん、わかってるじゃなぁい】


 そこそこ離れているのにルンルが会話に入って来た。

 耳ざとい奴だ。


「ルンル。

 アンタって結構上位の雷竜だったんだ。

 ただのオカマ竜じゃ無かったのね」


【蓮……

 アンタ、アタシの事なんだと思ってたのよ……】


「それじゃあ、電田でんだ三尉は蓮ちゃんとルンルに頼む」


「わかりました」


【任せといてぇん】


「そして久我真緒里こがまおり医官の確保。

 彼女のスキルは厄介だ。

 出来ればいち早く確保したい。

 別動隊を相手陣地に送り込んで確保しようと思う。

 これはリッチーに頼む」


「えぇェっ……

 俺っすかァ……

 ハァ……

 メンドクセェェ……」


 何とも言えない顔になるリッチーさん。

 形容するなら気怠嫌けだるいやそうな顔。


「リッチー。

 相手を確保するとなるとお前の日常茶飯事おままごとが一番手っ取り早いだろ?

 それに潜入任務スニーキングミッションとなるとお前の奥の手も使える。

 お前が一番適任なんだよ」


「そぉっスけど……

 ハァァァ……

 だりぃぃ……」


 日常茶飯事おままごとって確かリッチーさんのスキルだ。

 詳しくは知らないけど警戒心か猜疑心を取り除くスキルだったっけ?

 そんなスキルを持っている人の奥の手ってどんなんだろう?


「あの……

 リッチーさん……

 奥の手ってどんなのですか……?」


 僕は好奇心に負けて思わず聞いてしまった。


「あぁっ……?

 ガキィッ!

 そんな事言う訳ねぇだろっっ!

 馬鹿かてめぇっ!」


「すっ……

 すいませんっ」


 リッチーさんの怒声に思わず謝る僕。

 すると脇からげんが咬み付いた。


「オイネクラァ!

 さっきからワレ何やねんッッ!」


「げ……

 げん……」


 突然の事で僕は驚いた。


「あぁっ……?

 何だこのチンピラ……」


「お前なぁっ!

 みんなでこれから大ゲンカ仕掛けよしてんのにダルイだの何だのてっっ!」


「何だぁ……

 チンピラァ……

 やる気かァ……?」


「あぁっっ!?

 ワレがやるんやったらいつでもやったんぞぉっっ!」


 げんが一歩踏み込み顔を近づける。

 いわゆるメンチ切りと言うやつだ。


 って言うか顔が近い近い。

 リッチーさんも一歩も引かない。

 警察官だけあって人相の悪い人間に馴れてるんだろうか。


 ガッッ!


 げんがリッチーさんの胸座を掴み、剛腕で持ち上げる。

 しかしリッチーさんの狼狽えた様子は無い。

 そっとげんの手首に手を添えたリッチーさん。


「…………日常茶飯事おままごと……」


 リッチーさんの眼が紅く光る。

 それをまともに見たげん

 途端に震え出す。


「は……

 あ……」


 途切れ途切れの呻き声を漏らすげん

 ゆっくりとリッチーの胸座から手を離す。


「よぉ~~し……

 俺が誰だか解るよなぁ……」


「あっ……

 あぁ……

 リッチーさん……」


「そぉ~だぁ~……

 俺だよ……

 俺の胸座を掴んじゃってなぁ~~……

 怖かったなぁ…………」


 いやらしい笑いをしながらリッチーさんがげんを見つめる。


「あっあぁ……

 スマンかった……」


「良いんだよォ~~……

 血気盛んな君の事だァ…………

 カッとなってしまったんだろうゥ~~

 ただ…………

 謝る時の姿勢ってのがあるよなァ~~……?」


「あっあぁ……

 そうやな……」


 僕は目を疑った。

 げんがその場でしゃがみ始めた。

 正座の体勢になるげんは両手を付き平伏したのだ。


 これは土下座。

 げんの土下座なんて初めて見た。


「リッチーさんっっ!

 スマンかっっったぁぁぁーーーっっ!」


 げんの大きな謝罪が響く。


「ケァァァァァハッハッハッハッハァァァッッ!

 …………いいぜぇぇ……

 俺は慈悲深いからナァァ……

 その土下座で許してやるよォォォォッッッ!」


 何でこの人が警察なんだろう。


 下品で傲岸不遜な笑い声を響かせるリッチーさん。

 呆気に取られていると兄さんがようやく止めに入る。


「リッチー、そのぐらいにしてやれ。

 とにかく久我真緒里こがまおりは任せたぞ。

 これは相手の補給路を断つ重要な任務だ。

 頼んだぞ」


「わかりましたよぉ~~

 隊長には敵わねぇなァ……」


 そう言いながらフラフラ隅に歩いて行ってドスンと座る。

 そしてまたスマホを取り出す。

 また白犬ミッションか。


 この人も好きだなあ。

 と、げんの方を見るとまだ土下座体勢。


「ちょっっ!

 ちょっとちょっとっっ!

 げんがまだそのまま何ですけどっっ!」


 慌ててリッチーさんを呼びつける僕。


「んあ…………

 あぁ……」


 パチン


 リッチーさんが指を鳴らす。


「ん?

 ワイどうしてたんや……?」


 げんが正気に戻った。

 すぐに立ち上がる。


 日常茶飯事おままごと

 このスキル、一番怖いんじゃないか?


「お前ら進めるぞ。

 そして副官、三条さんじょう三佐。

 こいつには竜司と暮葉くれはさん、つづりに頼む」


「僕は複数なんだ」


「俺はこの副官に関してキナ臭い匂いを感じている。

 だから索敵能力に長けている竜司。

 お前と暮葉くれはさん。

 そして単純な戦闘能力の高いつづりの三人に当たってもらう」


「わかった。

 暮葉くれはもいい?」


「ん?

 よくわかんないけどいいよ」


 あっけらかんとした暮葉くれは


「ウフゥン……

 りょおかい……

 よろしくねぇん竜司くぅんっ……

 ンーマッ!」


 僕に向かって濃い投げキッスを放つつづりさん。

 だんだんこの人が色情狂に見えてきた。


「そして最後。

 俺とドラペンは呼炎灼こえんしゃくを確保する」


 なるほど作戦の概要が見えてきた。

 僕らの為すべき事は兄さんとドラペンを呼炎灼こえんしゃくの元まで辿り着かせる事だ。


「あと警ら隊の隊員は拳銃携帯を忘れるな。

 あとこれは竜司達にも支給するが防刃衣、防弾衣も着用していく」


「わかった」


「おうええで」


「わかりました」


「了解」


「りょ~~かい……」


「今車を用意してもらっている。

 準備出来次第出発だ」


 ついにきた。

 呼炎灼こえんしゃくとの決戦が。


 プルル


 携帯の呼び出し音。


「おう俺だ。

 車が来たか。

 準備をしてすぐに行く……

 プツッ」


 連絡が来た。

 行こう。


 ガタガタガタッ


 特殊交通警ら隊、げん、蓮、僕は立ちあがる。


「えっ?

 えっ?

 みんなどこか行くのっ?」


 暮葉くれはは状況が飲み込めていないらしく焦っている。


「うん。

 暮葉くれは、一緒に行くよ」


「うん」


 竜側はと言うとドッグ、シンコ、ラガーはそのままついて行った。


【何だ?

 メシか?】


 と、ガレア。

 こいつはどこに居てものん気だなあ。


【アラン……

 ファンデ切れたんだけど買いに行く時間あるかしらん】


 と、ルンル。

 この巨顔だとファンデーションの無くなりも早いんだろう。

 っていうか必要無いだろ。


 そしてベノムはと言うと全く動かない。

 全然動かない。

 そんな様子を見たげんが側に行く。


「オラァッ!

 ベノムッ!

 何やっとんねんっ!

 行くぞっ!

 何ィッ!?

 動きたくない?

 ワレは引き籠りかいッ!

 あぁっ!?

 膝が痛いッッ!?

 そんな一秒でバレる嘘つくなやっ!

 ホラァッ!

 行くぞォッッ!」


 動かないベノムを強引に引っ張って連れて行くげん


 一階 入口


 大型の護送車が二台横づけされていた。

 そう言えば僕はこれに乗ってやって来たんだなあ。

 

 あれ?

 よく見たら何か違う。

 あぁ、そうだこの車には金網が付いていないんだ。


「兄さん、これは?」


「これは人員輸送車だ。

 普段は機動隊なんかを運ぶんだがな。

 よし、警ら隊は前の車両。

 残りは後ろの車両に乗ってくれ。

 あとさっき言った防刃衣、防弾衣は車両の中に搬入してあるから移動時間の間に着てくれ」


 言われるまま後ろに乗り込む僕ら。


 ガシャッ


 自動ドアが閉まる。


 ブロロロ


 車両が動き出した。

 後の方に大きな段ボールが二つある。

 それぞれマジックで“防刃”“防弾”と殴り書きしてある。


 防刃の段ボールを開けると中にはクリーム色のベストみたいなのが入っている。

 何かゴワゴワした手触り。


 防弾の段ボールにはグレーのベスト。

 これは刑事物の映画とかで見た事ある。

 まさか僕が防弾チョッキを着る事になるとは。


 大きさから考えてまず防刃ベストの方からだろう。

 防刃ベストを着てみる。


 うん、凄くゴワゴワしてる。

 物凄く着にくい。


 これぐらい硬くないと刃物なんて防げないんだなあ。

 何とか防刃ベストを着た僕は続いて防弾ベストを着る。


「竜司、さっそく着とんのかい。

 やる気満々やのう。

 ほいでもそれやと護ってます感が半端ないで。

 ハハッ」


 そう言われ、下を見る。

 黒々としたベストが眼に入る。

 うん、確かに。


「でも……

 それじゃあどうしよう……」


 何かないか探していると後部座席の下に使い古した黒いレインコートみたいなのが置いてある。


「これでいいか」


 レインコートを羽織る僕。


げんー。

 こんな感じでどう?」


「ハハッ。

 ええんちゃうか。

 ワレ背中に警察て書いてんで。

 竜司も立派な公僕やのう」


 げんが茶化してくる。


「別に僕は警察になる気は無いよ。

 ホラ……

 二人とも着て」


「おう……

 ワイはLかな?

 何やコレ。

 えらいゴワついとんのう」


 流石のげんも防刃ベストは着た事無いんだな。


「よっと……」


 げん、着衣完了。

 僕より全然早い。


 これが年齢の差。

 いや、経験の差かな?


 さて後は蓮だけど……

 蓮の方を見ると何か防刃ベストを持ってモジモジしている。

 ホッペも赤い。


「蓮、どうしたの?」


「…………こっ……

 ……ここで着替えるの?」


 ジトッとした眼でこっちを見る蓮。


「あっ……

 あぁっ!

 ゴメンっ!」


 僕は慌てて反対側を向く。


「んなもんパパっと着替えたらええやんけ。

 誰もそんな貧相なカラダにきょ……」


 ガァンッッ!


「イタァッッ!」


 言い終わるより早く蓮からげん目掛けてヘルメットが投げつけられた。

 硬く乾いたモノがぶつかった音が響く。


「何すんね……」


 頭を押さえながら怒声を上げようとしたげんだが途中で止まる。


 眉毛を谷の形にして眼は涙目。

 口は噤んだ状態でワナワナ。

 頬を真っ赤にして、プルプル震えながら第二射を放つ準備をしている蓮がいた。


「いや……

 何か……

 スンマセンでした……」


 何で敬語!?


 そのまま無言で僕と同じ方向を向くげん


「竜司っ!

 ゼーーッッタイこっち向いちゃ駄目だからねっ!」


「わかったよ」


 シュル……

 シュルッ……

 パサッ……


 後ろで衣擦れの音がする。

 何かエロい。


「ちょっと……

 暮葉くれは……

 着るの手伝って……」


「|蓮、どうしたの?」


 暮葉くれはキョトン顔で僕の隣を通り過ぎていく。

 そこはかとなく嫌な予感。


「ちょっとここ……

 ここ持ってて……」


「うん。

 ここ?

 わーっ

 蓮って肌キレーッ」


「アハハッ。

 ちょっとやめてよっ

 くすぐったいっ」


 何か背後でキャッキャッウフフトークが展開されてる。

 見えないのがもどかしい。


【ちょっとちょっと蓮、アンタ。

 全然胸おっきくなってないじゃないよう】


 ルンルが加わった。

 更に嫌な予感が増す。


「うっ……

 うるさいっ!

 ルンルっ!」


「ん?

 蓮ってばおっぱい小さいのが嫌なの?」


 背後から暮葉くれはのこんな声が聞こえる。

 多分キョトン顔だろう。


「もうっ……

 小さい小さい言わないでよっ……

 そりゃ貴方ぐらい私もあったら……」


 何かすっごい話に発展しそうだけど蓮は気づいていないのかな?

 話はさらに加速する。


「そんなに良いの?

 でもお尻は蓮の方がおっきいよ」


 ブッ


 思わず吹き出した僕は慌てて口を塞ぐ。


「お尻がおっきくても……

 暮葉くれは……

 貴方は良いわよね……

 竜なんだから理想のプロポーションとかも魔力でチョチョイのチョイでしょ……?」


「ん?

 そうでもないわよ。

 他の竜は知らないけど私、この姿にしかなれないもの」


「えっ?

 そうなの?」


「うん。

 前にグラビア誌で巨乳の子が人気だって見たから一度竜に戻って身体作り直してみたの」


「そっ……

 それでどうなったの……?」


「すんごいオッパイおっきくなっちゃったのーーッッ!」


 ブッ


 本日二度目。


「そ……

 そんなに……」


「うん、すんごかった……

 マス枝さんが後退りしてたもん。

 それで慌てて元の姿に戻りなさいって言われてね」


「何でなんだろ……」


「私もわかんない」


【ちょっとちょっと蓮。

 貴方いつまでブラのままで話してんのよう】


 ブッ


 三度目。


「ちょっっ!

 ちょっとっ!

 ルンルッ!

 竜司も聞いてるのに何言ってんのよっ!

 それにブラのままじゃないじゃないわよっっ!

 上にベスト羽織ってるでしょっっ!」


「あの……

 蓮……

 早くしてくれると有難いんだけど……」


 僕は正面を向いたまま蓮に話しかける。


「あぁっごめんね……

 竜司。

 すぐ終わるから」


 そんなこんなで蓮の着替え完了。


 ブロロロロ……

 キキィッッ!


 輸送車急停止。

 どうしたんだろ?

 僕は運転席まで確かめに行く。


 運転席では窓を開けて外と話をしていた運転手が見えた。


(……へえそうかい。

 それじゃ通るよ)


 運転手が何かを受け取って前方に置いた。

 何かの札の様だ。


 前を見ると赤と白の縞々カラーコーンが車の進行を遮る様に横に並んでいる。

 警官も数人立ち、パトカーも停車している。


 これは検問かな?


「どうしたんですか?」


(ん?

 あぁ検問通過するよって話してたんだよ)


「検問ってもう動いていたんですね」


(そりゃ日本の警察の良さは連携だからね。

 あんな放送見たら上の連中も動くのも速いってなもんだよ)


 この人もあの呼炎灼こえんしゃくの放送を見たのか。


「そう言うもんなんですか。

 後、どの辺りまで警察が動いているとか解ります?」


(さっき聞いた話では関係市町村への周知は完了してるって言ってたなあ。

 それで一般人の避難も現在進行中だってさ。

 学校も急遽休校。

 へへっ。

 君みたいな子の場合なら嬉しいんじゃないかい?)


 運転手はニチャリと笑う。


 この人、頭は丸坊主で顔全体はおにぎりみたいな形をしている。

 体格は良く言えばぽっちゃり。

 悪く言えばデブ。


 別にこの人は悪くないんだけど何か笑い方が下品だ。


 まあこの人の印象は置いておいて警察の動きは速いなあ。

 刑事ドラマとかで上と下が上手く連携取れてなくて主人公が迷惑するって言うのがあったけど。


 事件は会議室で起きてるんじゃないっ!

 現場で起きてんだっ!


 僕もあの刑事ドラマ好きで、もしかしてこの名セリフ言えるチャンスがあるかもとか思ってたけど、これだけ連携取れてるんならチャンス無さそうだ。


「いやっ……

 そんな事は」


 ブロロロロ


 車、再発進。


(それにしても君みたいな少年が今回の首謀者の逮捕に協力するなんてなあ……

 竜河岸ってのは凄いんだな。

 相手、陸自の連中だろ?

 大丈夫かい?)


 運転しながら話しかけてくる。

 この人なりに心配してくれてるのだろう。

 さっきは下品な笑い方とか言ってごめんなさい。


「まあ……

 やってみないと解りませんよ。

 この通り防刃、防弾衣も着てますし」


(そうか。

 まあがんばってくれよ)


「はい」


 三十分程走った後、停車する。


(着いたぞ)


 運転手から声がかかる。

 僕らは外に降りる。

 前を見ると兄さん達も降りていた。


 ここはどこだろう。

 とりあえず兄さんと合流。


「兄さんここどこ?」


「あっ……

 あぁ……

 ここは本栖ハイランドだ……」


 キョロキョロ


 兄さんがキョロキョロしてる。

 何か上空を警戒している様だ。

 ボギーも一緒に上をキョロキョロ警戒してる。


「兄さんどうし……」


「ボギーッ!

 あそこだっ!」


【うんっ!】


 指し示した方向に素早くボギーが顔を向ける。


 ピカッ


 眩い閃光。


 ボウンッッ!


 細い光が何かを貫き、小さな爆発音が響く。


 ガシャン


 何かが空から落ちてきた。


「どうしたの?

 兄さん」


「見てみろ」


 顎をしゃくって地面に落ちたを指し示す。


「こ……

 これは……」


 見た事ある。

 これはドローンってやつだ。


「これってドローンってやつだね」


「そうだ。

 良く知ってるな竜司」


 ドローンて言うのは簡単に言うと小さな無人航空機。

 土木や災害救助での活躍が期待されるって言う代物らしいけどこれが何故ここに?


「さっき検問通ったって事は今この辺りは誰も居ないはずなのにこのドローンって誰が飛ばしてたんだろ?」


「そら十中八九呼炎灼こえんしゃくやろ?」


 げんも会話に入って来た。


「さすがげんくん。

 俺もそう思う」


「そうなの?

 何で?

 遊んでたの?」


「竜司……

 ワレのん気やのう……

 んな訳あるかい。

 偵察の為に決まっとるやろ」


「まあリアルタイムで映像送ってたら途切れた事で俺たちの存在はバレてるだろうがな」


 あっそうか。

 映像の送信が途切れたら異変に気付くか。


「壊しちゃってよかったの?」


「まあ俺達が来たという事がバレるが、あのまま飛ばして俺達の戦力や作戦内容とかが漏れるのはマズいからな」


 僕らは歩いて広場まで。

 そこには大型の白いテントが張られていた。

 運動会とかでよく見るやつだ。


 僕らは中に入る。

 中には大きめの机が一つあるだけの殺風景。


 なるほどここが拠点になると言う事か。

 兄さんが机に地図を手早く広げる。


「さあ作戦開始だっ!」


 ###


「はい今日はここまで」


 本日の終了を告げると何やら苦虫を噛み潰したような表情のたつ


「ねえ……

 パパ……」


「なっ……

 なんだいっ?

 たつ


「このリッチーって人嫌い…………」


 まあ確かに褒められた性格はしてなかったなあ。


「まあ一応あんな人でも味方だから」


 我ながら酷い言い草。


「う~ん……

 でもなあ……」


 たつも納得いって無い様だ。


「はは……

 まあ次からは本格的な戦いが始まるから……

 今日はもう遅い……

 おやすみ」

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