第百十五話 竜司と暮葉の御挨拶周り⑪~決戦 後編

「やあ、こんばんは。

 今日も始めていこうか」


「パパッ!

 今日はバトルだねっ!

 フンッ!」


 たつの鼻息が荒い。

 やっぱり男の子。

 闘いの話は否応にもテンションが上がってしまうみたいだ。


「まあ……

 バトル……

 って言うのかな?

 まあ始めていこうか」


 ###


「立ち合い……

 開始っ!」


 あっ。


「ちょっと待ってっ!」


 ガクッ


 祖父がズッコケる。


「何じゃぁっ!?

 いい加減にせいっ!」


「まだ準備する事があったんだ」


「あぁ……

 魔力注入インジェクトか……

 早くせいッ!」


 少し遠くから祖父の怒号が跳ぶ。


「ごっ……

 ごめん……

 すぐ済ませるから……」


 ガレアの手を掴む。


魔力注入インジェクトっ!」


 もちろん魔力注入インジェクトだけが目的じゃない。

 今の力量レベルだったら発動に二秒もかからない。


 だから本当の目的は他にある。

 僕は頭の中に意識を集中。

 頭にある微かな違和感を探す。


 あった。

 グースが仕込んだ精神端末サイコ・ターミナル

 僕は続いてその違和感にイメージを張り付ける。


 青白い正四角形。

 それをナイフで二等分に切り分けるイメージ。

 できた……

 のかな?


 身体の中の切り分けた端末ターミナルをガレアの手を掴んでる右手に移動させる。

 伝ってガレアへ。


「まだかっ!

 はようせいっ!」


 祖父の怒号が更に飛ぶ。

 端末ターミナルの扱いはまだ慣れてない為時間がかかる。


「待ってよ……

 魔力注入インジェクト


―――ガレア……

   聞こえる?


【うおっ】


 ガレアが僕の念話テレパシーに驚いて、声を上げる。


―――シッ!

   黙ってっ!


―――何だ竜司、また念話テレパシーか?


―――うん。

   お爺ちゃんは僕が念話テレパシーが使える事を知らない。

   だからこのまま魔力注入インジェクトを使いながら念話テレパシーを設定する事にした。


―――ふうん。

   それって何か意味があんのか?


―――効果があるのかは解んないけど、お爺ちゃんは僕を見下している。

   だから僕がまさか念話テレパシーが使えるなんて思ってもみないはずさ。

   多分裏をかけるんじゃないかなって。


―――ふうん。

   そんなもんか?


 ドクン


 三回目の心臓の高鳴り。


 よし、充分魔力は体内に入った。

 さあ行くか。

 あの人を見下す事しか知らないジジイに一発入れに。


―――いい?

   ガレア。

   まず僕が突っかかって行く。

   後ろが見えなくなるぐらい身体いっぱいで視界を奪う感じで動く。

   その間にガレアはコンテナ……

  あの斜め右にある赤い大きな四角い箱の後ろで口開けて魔力閃光アステショットの魔力溜めをしてて。


―――何だよ。

   始まって早々逃げんのかよ。


―――だって相手は黒の王とそれを使役してるお爺ちゃんだよ。

   真正面からぶつかってもすぐに二人ともやられるだけだよ。


―――えっ?

   黒の王とやんのっ!?

   マジでっ!?


 ガレアは相変わらず土壇場にならないと状況を理解しない奴だ。


―――そうだよ……

   でも黒の王が戦闘に参加したら地球が滅茶苦茶になるらしいから……

   多分狙いはお爺ちゃんだけで良いと思う……

   どうなるかは解んないけど……


「イライライラ…………

 まだかぁっ!

 はようせいっ!」


―――じゃあ……

   いくよっガレアっ!


―――おう


「お待たせお爺ちゃん……

 準備OKだ」


「ふん……

 滋竜しりゅう……

 すまんな。

 もう一度開始の合図を頼む……」


「ハァイ。

 わかりましたァー……

 では……」


 父さんが手を勢いよく上げる。


「立ち合い開始っ!」


 ザンッ!


 魔力を集中させた右つま先を地面に食い込ませ、そこから溜めた力を爆発させる。

 急激に極大風圧が僕の身体を包む。

 が、魔力を集中させている僕は意にも介さずグングン祖父に突き進む。


 最初の祖父との間合いは約十三メートル。

 僕の射程範囲まであと一秒弱。

 僕は攻撃態勢に移る。


 物凄い速度で僕が向かってきているのに微動だにせず真っすぐ僕を見ている祖父。

 

 ここだ。

 この一発で全てが始まる。

 ずっと言われっ放し、蔑まれっ放しだった僕がその大元に初めて牙をむく。


 何となくこの戦いで僕、皇竜司すめらぎりゅうじが帰って……

 いや始まる気がする。


 右腕を振りかぶる。

 いつもはここで最短距離を駆けるストレートか振りがコンパクトですぐに防御ガードに移れるフック系。

 だが今回の攻撃は目的がある為、僕が選んだ選択肢は外側に大きく振り回すスウィング系のパンチだ。

 祖父の両眼を覆うように攻撃を仕掛ける。



 ブンッッッ!!



 僕の右拳が空気を切り裂く音がする。

 もう届く距離にも関わらず全く動かない祖父。


 フィン


 が、僕の拳は祖父には届かず逸らされてしまう。

 これも先日の黒の王との一戦時と同じ。

 どう形容して良いか解らない。


 昨日の流星群ドラゴニッドスの時とは違う。

 客観的な見た目では無くもっと感覚的な主観のものでいうと磁石。

 磁石の同極同士を合わせると間に見えないプニプニした丸いものがある感触。

 その強化版とでも言えばいいのか。


 とにかく祖父と僕の拳の間にある見えない丸いものが拳を逸らしバランスを崩す。

 これが歪曲壁ディストーションウォールか。


「くっ!」


 僕は何とかバランスを取り直し、逸らされた右腕にクロスする形で下から左アッパーを仕掛ける。


 フィン


 やはりその拳を祖父の顎を捉える事無く、祖父の顔の手前でむなしく空を切る。


「くそっ!

 標的捕縛マーキングっ!」


「……しょう


 祖父が呟いたかと思うと僕の腹の部分が急に後ろに引っ張られる。

 腹に何か大きな重しが乗っかってきた様だ。

 僕の身体が大きく後ろへ吹き飛ぶ。


「うわぁぁっぁあぁぁっっっ!!」


―――ガレアっ!

   今だっ!


 吹き飛びながら念話テレパシーで発射合図。

 先の標的捕縛マーキングはちらりと見えた祖父の右脇腹。

 横に吹き飛ぶ僕の視界の隅で白色光が見えた。

 ガレアからの返信は無かったが無事発射された様だ。


 ギャンッ!


 見えはしないが魔力閃光アステショットの飛翔音がする。


 フィンッ!


 瞬時に視界上部の隅に白色光。

 魔力閃光アステショットがこちらに飛んできたのだ。


「うおっっっ!」


 僕は思わず身を屈め、すんでの所で当たらずに済んだ。


 ドガァァッァァァァッァン!


 頭の先で大きな衝撃音が聞こえる。

 視界が塵煙でいっぱいになる。

 その刹那。


 ガァァァッァアァッァン!


「グゥッッッ!」


 大きな硬い金属に衝突する僕の身体。

 背後にはさほど魔力は集中していなかった為、思わず出る苦悶の声。

 そのままずり落ちるように倒れ込む僕。




 薄暗いな。

 ここはどこだ。

 僕の前には大きい丸。

 正円では無くギザギザしている。


 頭がはっきりしない。

 それほど強く撃ち付けられた様だ。

 しょうがない。

 体内魔力を回復に使うか。


「……魔力注入インジェクト……」


 魔力を患部に集中。

 次第に楽になる。

 

 よしOK。

 僕は立ちあがり状況確認。


 僕は今おそらくコンテナの中だ。

 さっき見た大きい丸はコンテナ壁に空いた穴だ。

 ガレアの魔力閃光アステショットが開けたものだろう。

 円がギザギザしているのは多分こそげ取るタイプの魔力閃光アステショットでは無かったからだ。


 僕はちらりと後ろを見る。

 ボコンと僕の背丈よりも高く、そして大きく凹んでいる。

 確かお爺ちゃんは“しょう”とか言ってたっけ。

 あれはどんなスキルなんだろう。


「はぁ……」


 僕は少し溜息をつく。

 それは僕の戦い方に起因している。

 静岡辺りからだろうか僕は一度相手の技を喰らわないと闘いが始まらなくなっている。


 一度喰らって分析し、勝ちを捥ぎ取る。

 それが僕の今の戦闘スタイル。

 もうちょっとタフにならないとな……

 一撃で終わってしまったら分析もクソも無い。


 さてお爺ちゃんの能力は重力。

 その重力操作を使ってさっきの“しょう”と言うスキルを使った訳だ。

 凡そ予想がついている。


 あのしょうというスキル。

 おそらくピンポイントであらゆる方向に高重力負荷をかけるものだろう。

 気になるのはその負荷がかかるポイントの大きさと数と言った所。


 さっきのしょうは多分僕の拳を三周りぐらい大きくしたぐらいの大きさだった。

 願わくばそれぐらいの大きさに留めて欲しいものだ。

 針のように細く鋭く高重力負荷をかけられたらどうなるか解ったもんじゃない。


 後は数だ。


 仮にしょうが五つ同時に全て違う方向にかけれるとしよう。

 僕の身体はバラバラに弾け飛んで即死だ。

 いくらお爺ちゃんが僕を嫌いでもそこまではしないと思いたい……

 多分。


 さてここで昨日から得た得たお爺ちゃんのスキルの情報を整理しよう。


 ■じん


 お爺ちゃんの飛行スキル。

 父さんによると速度は亜音速まで出せるらしいが街の影響を考えて出さないらしい。


 ■きゃく


 じんとの複合技。

 上空に飛び上がりそこから自身に高重力負荷をかけて飛び蹴りを炸裂させる。

 ある程度のホーミングが可能。


 これに関しては対策は考えている。


 ■かせ


 高重力負荷フィールドを生成する捕縛スキル。

 同時に使える数は最低でも二つ。


 ■しょう


 全方位にピンポイントで高重力負荷をかける。

 捕縛スキルとしても使えなくはないがどちらかと言うと攻撃スキルとして使っているんだろう。

 同時数は不明。


 と、言った所か。


「もう終わりかっっ!

 儂に一撃入れるのでは無かったのかっっ!

 やはり貴様は落ちこぼれかぁっっ!」


 コンテナの外で祖父の怒号が聞こえる。

 もちろんこれで終わりではない。

 僕はゆっくりと戦場へ戻る。


 しかし出た所で具体的に今通用する手立てがない。

 さてどうするか。



―――ガレア、今から僕は魔力注入インジェクトを何回か使った後、流星群ドラゴニッドスを仕掛ける。


―――わかった。


―――それでガレアは僕が魔力注入インジェクトを使った後すぐに移動して身を潜めてくれ。

   魔力球の出所から居場所がバレるとまずい。


―――どこに行ったら良いんだよ。


―――どうせ流星群ドラゴニッドスだからどこに居ても当たるよ。

   どこでも良いよ。

   でも今の場所にはいないでよ。

   攻撃されちゃう。


―――わ……

   わかった。


 ガレアが少し驚いている。

 さすが黒の王。


―――じゃあ、行くよっ!


「これぐらいで終わるわけないじゃん…………

 行くぞぉぉぉぉぉっっっ!

 魔力注入インジェクトォォォォォォォッッッ!」


 コンテナの間から魔力球が数個飛んでくる。

 ちらりと祖父が魔力球の出所付近を見たのを僕は見逃さなかった。


 ドクンドクンドクンドクンドクン


 体内に魔力が入る。

 先と同じ様に右つま先に魔力を込める。

 そして一気に爆発。


 ドンッ!


 弾けた僕の身体は瞬時に空中へ。

 祖父との間合いは約四十メートル。

 中魔力注入インジェクトを込めた脚なら軽く到達できる距離。


 だが、敢えて間合い十メートルまで縮めた所で一旦足をつく。

 次は左つま先に魔力集中。

 思い切り右脚を上げ更に天高くジャンプ一番。


 走り高跳びで言う所のベリーロールジャンプ。

 上空で僕は叫ぶ。


「ォォォォォォ流星群ドラゴニッドスゥゥゥゥゥゥッッッッ…………!!」


 僕を中心に緑のフレーム展開。

 スッポリ下に居る祖父を包む。

 上空からは祖父の前後左右が丸見えだ。

 素早く標的捕縛マーキング付着。


 五。

 まだまだぁっ。


 十。

 もっとっ。


 二十。

 まだだっ!

 限界を超えろっ!


 三十五。

 まんべんなく身体中に標的捕縛マーキング付着。

 この間およそ三秒弱。

 僕はありったけの力を込めて叫んだ。


「シュゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォッッッッッ!!!」


 コンテナの間から三十の白色流星射出。

 射出位置はすぐ側だった。

 こんな所に居たのかガレア。


 周囲のコンテナを薙ぎ倒す三十の流れ星。

 祖父に着弾…………

 していなかった。


 フィフィフィフィフィフィフィフィフィ


 まただ。

 先程と同じ。

 やはり歪曲壁ディストーションウォール


 祖父の周りを白色光がまとわりついている。

 まるで極太の綿帽子。

 一本一本が極太の巨大ヘアピンの様な軌跡。


 綿帽子と形容したのはまさにスッポリ白色光が祖父を包んでいるからだ。


 フィフィフィフィフィフィフィ


―――ガレアッ!

   もう一発行くぞっ!

   準備してっ!


―――おうっ!


 ガレアの口が祖父に向けられ開く。


 キィィィィィィィィ


 魔力が溜まっていく音がする。

 どうせ流星群ドラゴニッドスでダメージが与えらえるとは毛頭思っていない。

 黒の王だけでなく祖父も歪曲壁ディストーションフィールドを張れる事は容易に想像ついたからだ。

 あくまでも流星群ドラゴニッドスは目くらまし。

 そしてあわよくば壁の穴みたいなものが見つけれればと思っていた。

 しかし見た様子だと穴は無さそうだトホホ。


 タラ


 鼻腔に鉄の匂いと生暖かさを感じる。


「ん……」


 僕は無造作に鼻を擦ってみる。

 右手にベットリと付く鮮血。


 鼻血だ。


 やはり標的捕縛マーキング数三十五はまだ無茶だったのか。

 あぁ暮葉くれはのブーストがあれば二千は余裕だったのになあ。


 ゴシゴシ


 とりあえず鉄の匂いが無くなるまで鼻を擦る。


 キィィィィィィィ


 三分経過


 フィフィフィフィフィフィフィッフィ


 キィィィィィィィィィ


 まだ極太巨大ヘアピンの様な白色光綿帽子は祖父に纏わりついている。

 流石ガレアの魔力閃光アステショット

 そして現在ガレアは魔力蓄積中。

 

 願わくばこの攻撃は“魔力刮閃光スクレイプ”であって欲しい。

 おそらく通常の魔力閃光アステショットだと歪曲壁ディストーションウォールで逸らされるだろう。

 だが魔力刮閃光スクレイプぐらいの巨大な濃い魔力をぶつけて見たらどうなるか。


 あ、さっきから言ってる魔力刮閃光スクレイプと言うのはいわゆる竜界で初お目見え。

 ある一定ライン以上まで魔力を蓄積させた魔力閃光アステショットの進化版、強化版と言えるもの。

 通常の魔力閃光アステショットは閃光の力で貫通、破壊する。


 だが魔力刮閃光スクレイプはそもそも効果が変質している。

 破壊などでは無く消失。

 まるまるこそげ取ると言った印象。


 僕も一度掠ったが肉が少しえぐり取られた。


 フィフィフィフィ………………


 五分経過


 キィィィィィィィ


 ガレアは律儀にまだ魔力を溜めている。

 ようやく弱まってきた。


 ここだっ。

 タイミングを見誤るな。

 段々白色光が薄くなってくる。

 祖父の影が見えたら発射だ。


 見えたっ!

 祖父の影っ!


「ガレアァァァッァァッッッッ!

 魔力刮閃光スクレイプゥゥゥゥゥゥッッッッ!

 シュゥゥゥゥトォォォォォォッッッッ!!」


 ギュオッ!


 出た。

 ガレアの口から極太の白色閃光射出。

 物凄い勢いで祖父に飛んで行く。


「くっ…………

 じんッッ!」


 当たる寸前に上空に舞い上がり躱す祖父。

 今回は受けずに躱した。


「オヤオヤァ……

 これはイケマセンネェ……

 大渦潮メイルストローム……」


 遠くで父さんが何かしている。

 手をかざした。


 と思ったら放った魔力刮閃光スクレイプの軌道が不自然に曲がった。

 何か渦を巻きながら猛烈な勢いで父さんに迫る。


 危ないっ!

 父さんに当たるっ!


「フゥゥンッ!」


 ドガァァァァァァァァァァン!


 巨大な鉄塊で力任せにブッ叩いたような大きな衝撃音が聞こえる。

 これだけ離れているのに何て音だ。

 音の正体は父さんの強烈なアッパー。


 魔力刮閃光スクレイプの軌道は強制的に空へ変わり、そのまま遥か上空へ消えていった。

 雲を突き破り真っすぐ飛ぶそれはまるでロケット発射を見ている様だ。

 見上げると上空には焦りと怒りを混ぜたような祖父の表情。


「竜司ィィッッ!

 場所を変えるぞッ!

 ついてこいッッ!

 行くぞォォッ!

 カイザァッッ!」


「はっ!」


 呼びかけに応じた黒の王も瞬時に空へ。


 ギャンッ!


 そのまま物凄いスピードで南の空へ消えた祖父と黒の王。

 僕はとりあえずガレアと父さんと暮葉くれはの元へ。


「父さんっ!

 大丈夫っ!?」


「ンフフフゥ……

 竜司ィ……

 なかなかに良い攻撃でしたヨォ……」


「竜司っ!

 大丈夫っ!?

 鼻っ!

 鼻に血がっ!」


 先の鼻血の痕を見て言っているのだろう。


「もう止まってるから大丈夫だよ。

 でも父さんのあのスキルって……」


「ん?

 あぁ……

 大渦潮メイルストロームの事ですかぁ……

 あれはですねぇ……

 私の右手にあらゆるものを引き寄せる僕のメインスキルですヨォ……」


「あ……

 あらゆるもの……

 ゴクリ」


 先の魔力刮閃光スクレイプの不自然な動きを見る限り魔力の塊だろうと何だろうと関係無いのだろう。


「フフフゥ……

 僕の戦闘スタイルは大渦潮メイルストロームで相手を引き寄せ……」


 シュッ!


 父さんは僕の顔ぐらいある大きな握り拳を僕に向ける。

 拳圧で前髪がフワッと揺れる。

 微動だに出来ない僕。


「ンフフフゥ……

 あ、ちなみにコレ人間が喰らうと沈溺状態になるんですよねぇ……

 僕が海のおとこっていう事でしょうかァ……

 フンッ!

 サイドッ!

 チェストォォーーーッッ!」


 自慢気にポージングを見せつける父さん。

 まだズボンは無事だ。

 全裸じゃ無ければ何でもいい。

 半裸は半裸だけど。


【キャーーーーーッッ!

 滋竜しりゅうっちーーーーッッッ!

 カッコイイィィーーーッッッ!】


 サンブサンブ


 バキラが父さんのポーズを見て興奮している。

 巨大な首と顔を左右にブンブン振っている。

 ビチャビチャ水飛沫が飛んでくる。


「フッフフフゥ……

 バック・ダブル・バイセーーーーップスッッ!」


 意気揚々とポーズを変える半裸の父さん。

 もう一度言うが全裸じゃ無ければ何でもいい。


【キャーーーキャーーーッ!

 滋竜しりゅうっちーーーッッ!

 ステキーーーッ!】


 ザバンザバン


 バキラは更に大きく首と顔を振り、小波が陸まで上がって来る勢い。


「ハッハーーッ……

 所でお爺ちゃんは良いのですかぁ?

 竜司ィ」


「はっ!?」


 父さんのスキルや豪快な振る舞いに当てられすっかり忘れていた。


「いやっ!

 まだまだやるよっ!

 ガレアッ!」


【はいよう】


 ガレアがのっそり側に寄って来る。


「ガレア……

 また僕を乗せて飛んでくれる?」


【ん?

 いいぞ】


「ありがとう」


 僕はガレアの背中に座る。

 ガレアの皮膚は体毛などは無く鱗でおおわれている。

 その様相はトカゲ等の爬虫類を想起させるが触感はプニプニ柔らかい。


 暮葉くれはは真っ白い綺麗な体毛に覆われている。

 竜でも色々なんだな。


 僕のお尻にプニプニ柔らかいガレアの皮膚の感触が伝わって来る。

 よし準備OK。


「フフフゥ……

 やる気十分ですねェ……

 竜司ィ……

 ではバキラ、我々も追うとしましょうかァ……」


【うんっ!

 滋竜しりゅうっちっ!

 乗ってっ!】


 ひらりとバキラの背中に飛び乗る父さん。

 地味に五メートルぐらい上にあるがマッスルモードの父さんは軽く一跳びだ。


「ガレアッ!

 行こうッ!」


【おうよっ!

 振り落とされんなよっ!】


 バサァァッ!


 翼を大きくはためかせる。

 快晴の陽に照らされ、キラキラした翡翠色の翼が綺麗だ。


 ギュンッ!


 翼に見とれている暇も無く。

 瞬時に空へ跳び出すガレア。

 巨大な力が押し上げるのを感じる。


 ガレアと出会って二回目の飛翔。

 これから何度もガレアに乗る事になるんだろう。

 でも僕はガレアと一緒に“歩く”のが好きなんだけどなあ。


 残留魔力は充分残ってる為風圧対策に身体前面に魔力を張り巡らせる。

 よし風圧はOK。


 でも、今はあぶみは無いんだ。

 振り落とされない様にしないと。


 スボッ


 雲の中に入る。

 相変わらずピシピシ水滴が当たる。

 てか雲の上に行くとどこに祖父が居るか解らない。


―――ガレアッ!

   ストップッ!


 キキッ


―――何だよ竜司。


―――雲の上に出ちゃったらどこにお爺ちゃんが居るか解らないよ。

   雲の下まで行って。


―――ふうん。

   わかった。


 ヒュンッ


 雲を突き抜け海面が視認できる高度まで帰って来た。


 あれ?

 下は四方海だ。

 少し向こう側に黄色く光る帯が見える。


 空へ立ち昇るその光の帯は僕らを大きく横切り緩いカーブを描いて横たわっている。

 バキラが引いたという三海里線ってあれか。

 とりあえず見渡しても祖父らしき姿は見られない。


―――戻ろう。

   ガレア。


―――おう。


 ビュンッ!


 ガレアは急旋回して踵を返す。

 横殴りの風圧が襲い来る。

 が、魔力を張り巡らせているから踏ん張れる。


 バサッバサバサッ


 ガレアが大きく翼をはためかせる。

 ん?

 何か四角い陸地が見える。


 海を挟んだその少し向こうに六甲アイランドがぼんやり見える。

 神戸沖にこんな埋立地があったんだ。


―――ガレア、あの陸地に降りて。


 僕は左人差し指で斜め下を指し示す。


―――わかった。


 ギュンッ!


 ガレア急降下。

 グングン陸地が近づいてくる。


 フム。

 この埋め立て地はまだ開発中なのだろうか。

 その埋め立て地は長方形で半分ぐらいは陸地でその下は中がコの字を逆にしたような形でくり貫かれていて水が張っている。


 陸地が近づいてきた。


 ガレア減速、着陸態勢。

 陸地には親指ぐらいの大きさの祖父と黒王が立ってこちらを睨んでいるのが見える。


 バサァッ!

 バサバサッ


 ガレアが着陸の為に大きく翼をはためかせる。


 ドスッ


 ガレア着地。

 僕はゆっくりと降りる。


「フン……

 まだやる気じゃな……?

 儂には敵わんと言うのに……」


「フン……

 お爺ちゃんこそまだやるから僕をここに誘ったんでしょ……」


「フン……」


 ザッザッ


 無造作に近づいてくる祖父。

 不穏な空気が伝わって来る。

 仕掛けてくるのか?

 気迫がこの間合いで伝わって来る。


 ゴォッ!


 吹いてない風……

 いや圧を感じる。

 この圧には覚えがある。

 

 呼炎灼こえんしゃく、ハンニバル……

 今まであった強敵から感じる圧だ。


 ザッザッ


 どんどん間合いが狭まる祖父と僕。

 後五メートル弱。

 わかった。

 

 おそらく祖父は僕に格闘戦を挑もうとしてるんだ。

 なら僕も準備をしないと。


「くっ……

 魔力注入インジェクトォォォォォッッッ!」


 残留魔力は多分まだある為、今回の魔力注入インジェクトは補給のためだ。


 ドクンドクン


 身体に魔力球が注入される。

 両腕全体に魔力を注入。

 よし準備OK。


―――ガレアッ!

   いいっ!?

   昨日の夜、言った通りだからっ!


―――おうっ!

   わかった!

   しょーがねーから協力してやるぜ。



 就寝後の事である。



 昨夜



 辺りは暗く、二人とも寝静まっている。

 僕は布団の中。

 見慣れた天井を見上げながら考えていた。


 明日は祖父と戦う。

 僕に出来るんだろうか?

 やはり祖父には敵わないのだろうか?


 ボコボコにされてトラウマがきつくなって終わるんじゃないだろうか?

 そんなネガティブな考えが頭を巡る。

 ふと僕は顔を横に向ける。


 まず右側。

 暮葉くれはが笑顔で眠っている。


「んふふふ~ん……

 ムニャムニャ……

 竜司ぃ~……

 だから違うってぇ~……

 デスソースは千六百万スコヴィルだってばぁ~……

 ムニャムニャ」


 一体何の夢を見ているんだ。

 確かスコヴィルって辛さの単位だったっけ?

 夢の中でも辛いものか。


「フフッ」


 僕は小さく笑った。

 何となく緊張感が和らいだ。

 この子が僕の婚約者。


 これから僕が人の悪意から護って行くひと

 よし、僕も腹を括った。

 ガレアに交渉だ。


 僕は左を向く。

 ガレアが丸まって寝ている。

 寝息などは全く聞こえない。


「ねえ……

 ガレア?」


【ん?

 竜司、どうしたんだ?】


 相変わらずガレアの寝起きは良い。


「明日……

 僕……

 お爺ちゃんとケンカするんだ……」


【そうか。

 まー頑張れよ】


「前にガレア言ってたじゃない……

 俺は竜河岸同士のケンカには手を出さないって……

 でも今回のお爺ちゃんとのケンカは絶対に勝ちたいんだっ!

 だから……

 ガレア……

 お願い……

 僕に力を貸して……」


【ふうん。

 確かオジイチャンってアレだろ?

 お前が家出する時に泣かされた奴だろ?】


 意外に変な所を覚えているガレア。

 いやまあその通りだけど。


「ぐっ……

 確かにその通りだよ……

 そして前の時にはお爺ちゃんに抗う事も出来なかった……

 でも今回は違う。

 僕も旅を経てレベルアップしたし……

 何よりガレアも居る……

 だからお願いっ。

 僕と一緒にお爺ちゃんと戦って」


【いいぜ。

 確かにやられっ放しは嫌だもんな。

 俺も協力してやる】


 やはりガレアは素直に話を聞いて理解できる奴だ。

 決して野良竜なんかじゃない。


「ありがとう……

 ガレア……

 じゃあ僕はもう少し寝るよ……

 おやすみ……」


【おやすみ】



 ###



 ザッザッ


 祖父が近づく。

 間合いは三メートル強。


 駄目だ!

 乱打を仕掛けたとしても全部歪曲壁ディストーションウォールで躱される。


 どうする?

 歪曲壁ディストーションウォールに拳を振るったとしてもバランスを崩すだけだ。


 バランス……

 平衡感覚か。

 僕は追加で両耳に魔力を集中させる。


 ザッザッ


 僕の射程距離に祖父侵入。

 まだこっちに向かって歩くだけで目立った動きが無い祖父。

 それだけに不気味だ。


 間合いは一メートル弱。

 祖父は目と鼻の先。

 ギロリと鋭い眼光を僕に向けている。


 ええいこうなったら破れかぶれだ。


「ウワァァァァァァァッッッッ!」


 ボボボボボボボボボバッ!


 僕は烈火の様な乱打を祖父に浴びせる。


 フィフィフィフィフィフィフィッフィン


 駄目だ。

 全て歪曲壁ディストーションウォールで逸らされる。

 耳に魔力集中したお蔭でバランスを崩しても途切れなく乱打を放ち続ける事が出来る。


 ボボボボボボボボボボッボボバッッッッ!


 フィフィフィフィフィフィフィッフィン


 僕の拳の空気を切る音と祖父の歪曲壁ディストーションウォールによって阻まれる音が虚しく響く。


「ふう……」


 僕が必死に乱打を繰り出している間に確かに聞こえた祖父の溜息。


「やはりお前は落ちこぼれよな……

 魔力の使い方にしてもなっておらん……

 先の魔力注入インジェクトも何じゃ……

 声を張り上げおって……

 竜司……

 貴様はいちいち声を張り上げんと満足に魔力注入インジェクト発動も出来んのか……

 大体貴様は儂にビビり過ぎじゃ……

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるか……

 このことわざ自体二流が使うもの……

 貴様に一流の竜河岸の拳と言うものを見せてやろう……

 発動アクティベート……」


 ブゥン


 聞こえた。

 ブラウン管がつく時の様な音。

 祖父の右拳だけ黒い煙が立ち始めている。


 祖父はゆっくり右拳を後ろに引く。


 これはヤバい。

 体中が総毛立つ。


 これはまずい。

 こうなったら僕に出来る事は弾幕を途切れさせない事だ。


「ウワァァッァァァァァァッッッッ!」


 ボボボボボボボボボバッ


 フィフィフィフィフィフィフィッフィン


 相変わらず僕の乱打はただの一発も祖父に当たらない。


「…………鋼拳」


 僕が乱打を繰り出している最中ハッキリと聞こえた祖父の呟き。



 ゴッッッッッ!



 ドコォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!


 気圧を猛烈に突き破る大きな音が聞こえたと思ったら猛烈な閃光の拳が乱打を掻い潜り一瞬で僕の腹に突き刺さる。


「ウゴォォォォォォォォッッッッ!」


 僕の身体は瞬時にくの字に曲がり、後ろに撥ね跳ぶ。

 僕の乱打は意味がないのか。


 バシャンッ!

 バシャンッ!

 バシャッ!


 猛烈に撥ね飛ぶ僕の身体はさっき上で見た貯水池まで飛んで行き、水はね石のように水面を弾き対岸まで辿り着いた所で着地。


 ズザザザザザザザァーーッ……


「か……

 あ……

 は……」


 ピクッピクッ


 少し痙攣し、物の様に倒れ込む僕の身体。

 声を発する事もままならない。


「ガハァッ!」


 僕は吐血。

 地面が大きく放射状に赤く染まる。

 この吐血量はヤバい。


 多分拳が当たった辺りの内臓はめちゃくちゃだ。

 魔力注入インジェクトで回復しないと。


 魔力注入インジェクト


 声が出せないので念じて発動。

 僕は残留魔力を全て使い内臓の回復に充てる。

 損傷が酷いらしくなかなか治らない。


「う……

 く……」


 僕は呻き声を出しながらじっと回復を待つ。

 よし、そろそろ回復してきた。


「何て拳だ……

 これじゃあ近接戦闘は無理だ……」


 大分回復してきた。

 これは僕のいつもの戦い方に戻るしかない。


 よし全快。

 僕はゆっくり立ち上がる。


「ベッ!」


 僕は口に残った血溜まりを地面に吐き出す。

 僕は大きく息を吸い込む。


「ガレアァァァァァッッ!

 来ぉぉぉぉっっいっっっ!」


 僕の呼びかけに応じガレアは翼をはためかせてこちらまで飛んできた。


「ガレアッ!

 近接戦闘は無理だッ!

 空で戦うぞッ!」


【別に良いけどよ。

 お前思い切りぶっ飛んでたけど大丈夫なのかよ】


「あぁダメージは全快したっ」


【ほいじゃ、まあ乗りな】


 僕はひらりとガレアに飛び乗る。


 バサァッ!

 バサバサッ!


 ガレアが翼をはためかせ僕を乗せて空に舞い上がる。

 お尻が力強い力で押し上げられるのを感じる。

 そのままゆっくり前進。


 斜め前方に見上げる祖父を発見。

 僕は大きく息を吸い込む。


「お爺ちゃんっ!

 次は僕がお爺ちゃんを誘う番だっ!

 僕が怖くないならついてこいっ!」


「フン……

 安い挑発を……

 まあよい……

 その挑発に乗ってやろう……」


―――ガレアッ!

   行けっ!


 ギュンッ!


 ガレアは一気に初速を上げる。

 グングン高度を上げる。


 ボフッ


 雲の中に入った。


―――ガレアッ!

   そのまま雲の中を突き進めッ!

   絶対出るなっ!


―――おうっ!


 グングン雲の中を突き進むガレア。

 顔にピシピシ水滴が当たる。



 五分後。



―――よしっ!

   ガレアッ!

   この辺で良いっ!

   止まれっ!


―――おうっ!


 段々減速するガレア。

 完全に止まりホバリングモード。


―――んでどうすんだ?

   竜司


―――まず全方位オールレンジでお爺ちゃんの位置を確認する。

   そこから…………


―――そこから?


―――…………まだ考えて無い。


―――何だそりゃ?

   そんなんで勝てんのかよ?


―――そんなのやってみないと解んないよ。

   じゃあ行くよ……

   全方位オールレンジ


 僕を中心に正円状に緑のワイヤーフレーム現出。


 それにしてもさっきの格闘戦は驚いた。

 アレが八十越えの拳か?

 ある程度の魔力は防御用に回していたはずなのにそんなのお構いなしに内臓を破壊された。


 正直祖父と格闘戦はもう嫌だ。

 頼まれたって御免被りたい。


 そんな事を考えながらワイヤーフレーム内に意識を集中。


 いた。

 位置にして僕の遥か左斜め下。

 そこから僕の方に向かって飛んできている。

 しかしまだ時間はかかりそうだ。


―――よし。

   居たよお爺ちゃん。

   ガレア……

   そのまま雲の中を進んで。

   高度はこのままで。


―――わかった。


 ギュンッ!


 ガレアがまた進み出す。

 僕は全方位オールレンジを維持しつつ祖父の位置を確認している。


 よし。

 ちょうど祖父の進行方向とは逆のポイントに到達。


―――ここだっ!

   この位置から攻撃するっ!

   タイミングは僕が出すっ!


―――おうよっ!


 ガレア減速。

 僕と同じ高度付近で祖父が停止。

 停止地点から動かない。


 僕を……

 見つけられてないみたいだ。


―――ガレア……

   ハンニバルの時覚えてる?


―――ん?

   何の話?


―――一回撃ってすぐ様移動して撃ってを繰り返したやつだよ。


―――あーあーそういやあったな。


―――まずあれをやってみる……

   ただハンニバルの時と違う所は雲の中から出ないって所だ。

   僕らの居場所がバレて格闘戦に持ち込まれたらまずい。


―――ふうん、よく判らんが解った。


 ガレアは僕が祖父の拳で水面を撥ねる程吹き飛んだのを忘れたのだろうか。

 ガレアはアレを受けて平気だというのかな?


 祖父はまだ動かない。


 ドキドキ


 心臓が高鳴る。

 緊張してきた。

 祖父はまだ動かない。


 祖父には歪曲壁ディストーションウォールがある。

 だからいくら攻撃を仕掛けても無駄なのではと思う。

 ここで僕は思考を飛躍させた。


 今、祖父は空を飛んでいる。

 いわゆるスキル発動中。

 と言う事は今停止している状態でも残留魔力はどんどん減っていっている。


 と、なると全方位に歪曲壁ディストーションウォールを張る事などできるのだろうか?

 もし迅に魔力を割いているのなら裏をかければもしかして当たるかも知れない。


 ただ問題は黒の王だ。

 黒の王が介入してくると話は解らなくなる。

 今の所僕を中心に五キロ範囲には見当たらない。


 ええいこう考えてても仕方がない。

 黒の王が居ない今こそ勝機と考えるんだ。


―――ガレアッ!

   行くよッ!


―――おうよっ!

   どんとこいっ!


 恐らく初弾から二、三発は歪曲壁ディストーションウォールで逸らされるだろう。

 流れ弾に当たらないように注意しないと。

 僕は祖父の方向を右人差し指で指し示す。


 カパッ


 ガレアの口が開く。


―――ガレアいい?

   発射したらすぐ上に移動だ。


―――橙の王の時だろ?

   わーってるよ


 一分経過


 祖父は動かない。

 僕の出方を見ているんだろうか。

 どうせ初弾は歪曲壁ディストーションウォールで逸らされるんだ。

 よし行くぞ。


魔力閃光アステショット……発射シュートォォッッ!!」


 ギュオッッ!!


 ガレアの口から極太白色光射出。


―――ガレアッ!

   上だッ!


 ギュンッ!


 ガレアは一気にトップスピード。

 僕は振り落とされない様に首にしがみつく。

 瞬時に祖父の頭上。


 全方位オールレンジ内の祖父の点に変化は無い。

 やはり初弾は逸らされたのだろう。


 だが負けてられない。

 どんどん攻撃をするんだ。

 右人差し指で指し示す方向は真下。


―――発射シュートォォッッ!


 ギャンッッ!


 ガレアの魔力閃光アステショットが真下に放たれる。


―――ガレアッ!

   次ッ!


 次は元居た場所から百八十度逆方向から……

 と思われるがここで一計。

 僕とガレアは祖父の真下に向かった。


 流石ガレア。

 瞬時に祖父の股下まで移動。

 第二射も変化無し。

 当たってない様子。


 右人差し指が次に指し示す方向は天頂。


―――発射シュートォォッッ!!


 カッッ!


 僕の頭上が眩しい。

 ガレアの魔力閃光アステショットの光が僕を包む。

 と、そこで全方位オールレンジ内の祖父の点に変化があった。


 横に避けたのだ。


 思った通りだ。

 やはり全方位に歪曲壁ディストーションウォールを張る事等出来ないのだ。

 勝機チャンス


―――発射シュートォッ!

   発射シュートォッ!

   発射シュートォッ!


 ここぞとばかりに魔力閃光アステショット連発。

 だが全方位オールレンジ内の祖父の点はシャープな動きで機敏に方向を変え一発も当たらない。

 と、言うか何だこの祖父の点の動きは。


 速過ぎる。

 何とか点は追えるが思考が追い付かない程だ。


―――ガレアッ!

   怯むなッ!

   撃ちまくれぇっ!

   発射シュートォッ!

   発射シュートォッ!

   発射シュートォッ!


 立て続けに魔力閃光アステショット連射。

 だが物凄い速度で角ばった蛇行運転を続ける祖父にはやはり当たらない。

 あれよあれよという間に祖父の点は全方位オールレンジ範囲ギリギリまで離れた。


 まずい。

 ここで祖父を見失うのは危険だ。


―――ガレアッ!

   お爺ちゃんを追えっ!

   雲の中から出るなよっ!


―――おうっ!


 ギュンッ!


 ガレア発進。

 瞬時にスピードを上げる。

 瞬く間に高スピード。


 ガレアが追ってくれているから何とか祖父は全方位オールレンジ圏内にキープ出来ている。


 少し動きに変化がある祖父。

 さっきから急激なストップ&ゴー。

 少し飛んでまた移動してを繰り返している。


 そうか。

 この動作は僕を探しているんだ。

 やはり祖父は目でしか敵を発見できないんだ。

 

 幸い現在は巨大な雲の中。

 目でなかなか見つけられるものでは無い。


 そして急激な急制動を繰り返している祖父とただ真っすぐに追うだけの僕ら。

 ホラすぐに追いついた。


―――ガレア、この高度でOKだ。

   次は横に進んで


―――わかった。


 ガレアは素直に横に方向を変える。

 高度で言うと巨大雲の底辺り。


 あっという間に祖父の股下百メートル辺り

 ここで僕は一計を案じる。


―――ガレア……

   今お爺ちゃんは僕らの真上辺りだ。

   追い越してもう少し前に行って


―――何だ。

   攻撃しないのか。


 くさしつつも素直に前に進むガレア。

 祖父の進行方向の少し先。

 目測で五百~七百メートル程先の直下に僕とガレアは居る。

 急いで準備しないと。


―――反射蒼鏡リフレクションッ!


 僕は全方位オールレンジ内に数個、反射蒼鏡リフレクション配置。

 線でつなぐとちょうど川魚を獲る為のカゴ網の様な配置。


―――ガレアッ!

   上を向いて魔力溜めだッ!


―――おうっ!


 さっきの一連の挙動からおそらく祖父がポイントへ到達するのはすぐだ。

 繰り返される祖父のストップ&ゴー。

 ポイント到達迄あと約一秒弱。


 つかの間の静寂。

 息を殺して待つ僕。


 よし!

 罠にかかった!


―――ガレアァァァッッ!

   発射シュートォォォォッッッ!!


 僕は右人差し指を指し示す。

 この角度なら祖父には直接当たらない。

 それは重々承知だ。


 どうせ真正面から撃っても歪曲壁ディストーションウォールで逸らされるだけだ。


 キュンッッッ!!


 ガレアの口から白色閃光射出。

 一筋の閃光が真っすぐ僕の右人差し指の軌跡をなぞって駆ける。


 祖父の点が止まった。

 魔力閃光アステショットを視認したんだ。


 祖父が停止した事を認識した刹那……


 ギィィィィンッッッ!


 魔力閃光アステショット反射蒼鏡リフレクションに反射した音がこだまする。


 ギィィィィンッッ!

 ギィィィィンッッ!


 最初の反射音を皮切りに次々と聞こえてくる反射音。

 祖父の点付近を通過し続ける魔力閃光アステショット


 祖父の点はその場から動かない。

 よし上手く足止めできた。

 僕は次の作戦に移る。


―――ガレアッ!

   魔力刮閃光スクレイプッ!

   発射準備ッ!


―――おうっ!


 ガレアが上を向いたまま口を開け、再び魔力を溜め始める。


 キィィィィィィ


―――なあなあ竜司


 ガレアが魔力を溜めた状態で念話テレパシーで尋ねてくる。


―――ガレア、何?


―――さっきから言ってるスクレ何とかって何だ?


―――後で説明するよ。

   魔力はどれぐらい溜まった?


―――もういけんじゃね?


 ふと左右を見るとガレアは翼を目一杯広げていた。

 でも今は二枚だ。


―――よし……

   行くぞッ!

   ガレアッッ!


 風圧でバタバタやかましいが僕は右人差し指を真っすぐ祖父に向ける。

 大きく息を吸い込む。


「ガレアァァァァッァァァァッッッッッ!

 魔力刮閃光スクレイプゥゥゥゥッッッッ!

 シュゥゥゥゥゥトォォォォォォッッッ!」


 キュオッッッ!


 僕の右人差し指が指し示す軌跡通りに一筋の眩い光が伸びる。

 これが本当に魔力刮閃光スクレイプかどうかはすぐに解った。

 当たった雲が四散しない。


 ぽっかり丸くこそげ取られている。

 猛然と祖父に迫る魔力刮閃光スクレイプ


 ここで祖父の点に動きがある。

 物凄い速さで大きくカーブを描き、当たる寸前で躱したのだ。

 間合いにして凡そ二キロ。


 攻撃が止んだのに気づいたのかそこで停止する祖父。

 一瞬の静寂。

 が、ここから驚くべき展開に。


 祖父の点が猛然と僕に迫って来たのだ。

 その速さたるや先の回避行動の二~四倍はあるのではないだろうか。

 この速さと角度なら僕の右十メートル付近を通過するまで二秒弱。


 おそらく先の魔力刮閃光スクレイプの発射点から凡その僕の位置を割り出したのだろう。


―――ガレアッ!

   居場所がバレるッ!

   急いでここから離れろッ!


―――わかったッ


 ギュンッ!


 ガレアが左へ素早く移動する。

 五十メートルほど離れただろうか。


―――よしっ!

   ガレアッ!

   スト……


 僕がガレアに停止を呼びかけようとした刹那……



 シュゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ!


 ズボォォォォォォンッッッッッ!



 僕の後ろで耳をつんざく轟音。

 同時にガレアと僕の身体が突風で吹き飛ばされた。


 四散する雲。

 バラバラになる僕ら。


「うわぁぁぁぁぁぁっっ!」


 振り落とされた僕はそのまま自由落下。

 グングンスピードを上げて落ちていく。


【竜司っ!】


 ギュンッ!


 ガレアはすぐ様体勢を立て直し、ぐるっと下へ宙返り。

 僕の下まで回る。


 ドサッ


 何とか僕はガレアの背中に着地。


「ハァッ……

 ハァッ……

 怖かった……」


―――竜司、大丈夫か?


―――うん……

   何とかね……


―――てか竜司よー


―――何?

   ガレア


―――俺らの位置バレてんじゃね?


 ガレアが長い首を上に向ける。

 視線のその先には親指の爪程の祖父。

 逆光になってシルエットしか確認できない。


 て言うか周りの雲はどこへ行った。

 辺りは雲が四散して全く無くなっている。

 サンサンと快晴の陽が照らしている。


―――ああ……

   そうみたいだね。


 この距離。

 この位置。

 おそらく……


 来るっ!



 きゃくッッ!



 眼を凝らせっ!

 お爺ちゃんの魔力の流れを見るんだっ!


 僕は考える。

 あの“きゃく”と言うスキル。

 自身に高重力負荷をかけているのは間違いないがそれだけであれだけの速度を出せるだろうか?



 答えは否。



 必ず魔力の補助があるはず。

 そもそも自身に高重力負荷をかけて無事でいられる。

 この段階で魔力の介入は確定だ。

 僕は目を凝らす。


 見える。

 見えるぞ。


 かなり小さいがゾワゾワした黒いもやが右足に集中そして身体全体にも回って行っている。

 これが魔力の流れなら確定だ。


 来る。


 きゃく


―――ガレアッッ!

   全力だっっ!

   トップスピードでお爺ちゃんに突っ込めぇェェッ!


―――おうよっ!


魔力注入インジェクトォォォォォッッッ!」


 キュンッ!


 胸の高鳴りもかき消す程のガレアのスピード。

 空を駆ける白色流星になる。

 真っすぐ祖父の身体へ突っ込む。


 到達迄約半秒。

 僕はすかさず次の指示。


―――ガレアッッッ!

   おじいちゃんに引っ付くぐらい近づいたら止まれぇぇぇぇぇぇぇっっっ!


―――わかったっっ!


「ぬっっ!」


 到達。

 少し驚いている祖父が見える。

 まさか僕がここまで間合いを詰めるとは思って無かったんだろう。

 ガレアの急制動に僕は祖父の方にバランスを崩す。


きゃくッ!」


 ガンッ!


 僕の腹に祖父の蹴りが刺さる。

 が、魔力を集中した腹ならダメージは少ない。

 

 思った通りだ。


 この“きゃく”と言うスキル。

 絶大な威力を産み出すには距離。

 いわゆる助走距離が必要なんだ。


 ならば話は簡単。

 距離を詰めればいいだけだ。

 僕は祖父の蹴りに圧されガレアから引き剥がされる。


 高高度から落下する祖父と僕。

 だが思惑がバッチリハマった事と魔力の作用だろうか。

 恐怖は麻痺し頭は冴えている。


 僕は落下しながら両手を祖父の蹴り足に延ばす。

 風圧で両手がブルブル震える。


 ガッ!


 掴めた。


「ぬぅっ!?」


 祖父は身をよじるが魔力をたっぷり込めた両手はそう簡単には離れない。

 僕は身体を反転。


「おおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!!」


 思い切り下へ投げつけてやった。

 僕よりも勢いよく落下していく祖父の身体。

 僕は息を大きく吸い込む。


「ガレアァァァァッァァァァァァァ!!」


 あらん限りの大声で呼んだ。

 相棒を。


 どんどん速度を上げて落下する僕の身体。

 だが不思議と恐怖は無かった。


 何故なら僕はガレアを信じていたから。

 ここから始まった約三か月の旅は伊達ではない。

 この旅、僕の隣にはいつもガレアが居た。


 一緒に歩いて。

 一緒に見て。

 一緒に笑って。


 時にはケンカもして……

 この地球上で僕が一番ガレアの事を信じていると自負している。


 だから恐怖は無いんだ。

 ガレアが僕の呼びかけに応じないわけがない。


 杏奈の時も。

 ハンニバルの時も。


 キラッ


 僕が見つめるその先で瞬き。

 逆光で何が光ったのかは定かでは無いが絶対にガレアだ。


 キュンッ!


 瞬きから超速で僕を追い越す翠色彗星。


 ドサッ


 背中に衝撃。

 何かに着地した。


 何に着地したかはもう判っている。

 僕は上手くバランスを取りながらゆっくりと起き上がる。


―――ガレア……


―――竜司、大丈夫か?


―――うん……

   ありがとうガレア。


―――オジイチャンはどうしたんだ?


―――うん。

   足掴んで思い切り下に投げつけてやった。


―――おっ?

   やったじゃねぇか竜司。


―――うん……

   でも……


 僕はチラッと真下を見る。

 祖父の姿は見えない。


 ブルッ


 僕は震える。

 今になって僕が遥か上空に居る事を認識し恐怖がムクムク頭を出してくる。


―――ガッ……

   ガレアッ……

   下に降りてっ!

   お爺ちゃんを追いかけよう。


―――わかった。


 ビュッ!


 ガレアが翠色の翼をはためかせ急降下。

 すぐに地表が見えてきた。

 地上に祖父と側に黒の王が居る。


 バサァッ

 バサバサ


 ガレアが翼をはためかせ着陸態勢。

 あれ……?

 待てよ……


 このまま行くとまたあの化物祖父と格闘戦をやらないといけないのか?


―――ガレアッ……

   ちょっ……


 ドスッ


 ガレア無事着地。


―――ん?

   何だ竜司?


―――いや……

   何でもない……

   ハァ……


 僕はゆっくりとガレアから降りる。

 と、そこへ黒の王の左上腕部に手を合わせていた祖父。

 すると祖父の胸が大きく揺り動く。


「ぐっ……」


マスターッ!?

 大丈夫ですかッ!?」


「あ……

 あぁ……

 大丈夫じゃ……

 カイザ……」


マスター……

 五分以上経過しています……

 これ以上続けられると……」


「カイザッ!

 余計な事は言わなくていいっ!」


 このやり取りを聞き逃す程僕は呆けてはいない。

 このやりとりで気になる点を一つずつ消化する事に。


 まず祖父の胸の揺り動き。

 あれは魔力注入インジェクトを使った時の独特の所作だ。

 多分立ち合いが始まる前に既に魔力注入インジェクト使っていたと仮定して、おそらく残留魔力が尽きたのだろう。

 そして補給したと。


「ハァ……」


 僕は深い溜息をつく。

 これで振出しに戻った訳だ。

 ……いや、違う。


 それはさっきの黒の王の台詞。

 五分経過。

 これだ。


 僕は考える。

 おそらく祖父の活動限界が五分と仮定。

 祖父が高齢の為かどういう訳か知らないが祖父の戦闘活動限界は凡そ五分らしい。

 となると……。


 ゴクリ。


 僕は生唾を飲み込む。

 絶望的な結論に身の毛がよだつ。

 祖父は活動限界を過ぎている。


 そして今魔力補給を完了した所。

 ……となると狙うのは短期決戦。

 多分祖父は僕を圧倒するために全力を出してくるだろう。


「竜司……

 まず聞かせい……

 何故、空で儂の居場所が解った……」


「それは僕のスキルだよ……」


「フン……

 貴様の選んだのは索敵スキルか……

 落ちこぼれの貴様には似合いのスキルよの……

 あときゃくの欠点……

 どうして判った…………?」


「そんなの……

 昨日喰らったじゃん……」


「一発喰らっただけでか……」


「うん……」


「フフフ……

 ハァーッハッハッハッ!!」


 急に祖父が大声を出して笑い出した。


「何だよ……

 急に笑い出して……」


「いや……

 フフフ……

 あの引き籠りがえらく賢しくなったものだと思ってな……

 まあそんな事はどうでも良い……

 竜司っ!

 儂はこれから最後の攻撃をお前に仕掛けるっ!

 潜り抜けて儂に一撃を入れてみせいっ!

 それが出来なければ貴様は落ちこぼれのままじゃぁっ!」


 急に声を張り上げて祖父が勝手な事を言っている。

 でもこれは好都合かも。

 上手く行けばもう祖父と格闘戦をやらなくて済むかも知れない。


 僕は後でこの考えが酷く楽観的で甘い考えだったことを思い知る。


「あぁ……

 いいよっ!

 絶対に一撃入れてやるっ!」


「フン……

 空気迫だけは一人前よな……」


 そう言いながら僕に右手をかざす祖父。

 祖父の瞳が赤く光る。


「…………重枷かさねがせ……」



 ズゥゥゥゥゥゥゥゥンンンッッッッ!!!



「グアァァッッッッ!!?」


【何だぁぁぁっぁぁっっ!】



 急。



 急に身体が極度に重たくなる。

 自重を両脚で支えきれない程。


 ガクガクガクガク


 両膝が笑い出す。


 ベシャァァッ……


 圧し付けられる様に地面に倒れ込む。

 目端でガレアも同様の症状。

 これは祖父のスキルの枷か。



 ボコォォォンッッッッ!!


 何か大きい音がした!

 更に圧し付けられる身体。

 昨日の枷とは明らかに違う。



 圧倒的力。



 強烈な力が僕の上から圧し掛かり声も出せない。


 ブシュッ……!

 ブシュッ……!


 痛っ!

 どこかが裂けたっ!


 両腕の先の方がジンジン熱くなる。

 痛みも増してきた。


 でも傷の具合もみる事が出来ない。

 僕は身動き一つとれないまま身体はどんどん地面に身体が食い込んでいく。


 ブシュッ……!

 ブシュッ……!


 痛いっ!

 今度は頭で痛みを感じる。


 ボコォォォォォォォォンッ!


 やばい!

 まずい!

 これは脱出できない!


 死ぬ!


 死んでしまう!

 圧し潰されて死んでしまう!


「これは……

 重枷かさねがせと言ってな……

 掛かる重力負荷は二十Gィィッッッ!!」


 に……

 二十Gッ!?


 僕の体重が六十一キロだとして……

 千二百二十キロッ!?

 今僕の身体は一トン以上の負荷がかかっているのかっ!?


 これは……

 まずい……


 マジで……

 死ぬ……


 ここで僕は一つ案が閃く。

 ただこれは成功するかはわからない。

 こんな状況でやった事が無いんだから。


 第一この超高重力負荷の中で魔力球がいつも通り飛んでくるかもわからない。

 僕に辿り着く前に地面に落ちて四散するかも知れない。

 ネガティブな思考がグルグル頭を回る。


 ブシュッ…………!

 ブシュッ…………!


 今度は背中に激痛。

 僕は呻き声を上げる事も出来ない。


 もう一刻の猶予も無い。

 このままだと僕は何もせず落ちこぼれの烙印のまま祖父に圧し潰されて殺される。

 

 ならば。

 それならば。

 使うしかない。


 大魔力注入ビッグインジェクトを。


 ###


「はい。

 今日はここまで」


「パパー。

 今日のお話でパパ、空飛んだの?」


「いや……

 パパが空を飛べた訳じゃ無くて落ちてただけだよ……

 飛んでたのはひいお爺ちゃんとガレアだけ」


「なぁんだ。

 飛べるんだったら僕を乗せて飛んで欲しかったのにー」


「タハハ……

 ごめんねたつ


「あと最後の大魔力注入ビッグインジェクトって名古屋で使ったやつ?」


「そうだよ。

 あの後の後遺症はホントに大変だったんだから……」


「じゃあこれもコーイショーになるの?」


 たつが純真な瞳をこちらに向けて聞いてくる。


「さぁ……

 それは明日のおたのしみ……

 じゃあ今日も遅い……

 おやすみ……」

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