第七十九話 竜司、蓮の母親を見る。

「やあ、こんばんは。

 今日も始めて行こうか」


 ###


 僕は目を覚ます。

 頭がぼうっとする。

 そうだ!

 またいつもの変な夢を見たんだ。


「ええと……

 ノートノート……」


 僕は急いでカバンからノートを取り出す。

 そして僕が見た事を書き記す。

 書きながら夢の事を考えた。


 あれはどこだろう?

 前見た時と同じと仮定するなら多分東京だろう。


 いつの話なんだろう。

 しかし飛び飛びで見せるからいつの話なのかもよく解らない。

 全く予知夢にしても使えない予知夢だ。


 ただ、今回の夢の違っていた所は夢の中の僕が話しかけてきた点だ。

 確か未来を変えてくれって言ってたな。

 何年か先の僕が自分に警告を出したって事か。

 八尾ロード・エイスと戦うと言ってたな。


 死を覚悟していたようだ。

 最後の方おそらく夢の中の僕は泣いていた。

 それ程辛い日常だったのだろう。

 ひとしきり書き終えた所で蓮が起きてきた。


「ふぁあ……

 竜司……

 おはよ……

 早いのね……

 って!?

 ええっ!?」


 目を擦り、小さい欠伸をしながら蓮が隣の部屋からやって来た。

 と思うとテーブルの前に座っている僕を見て驚く。


「竜司っ!?

 身体大丈夫なのっ!?」


「あぁ、朝起きたら動くようになっていたよ。

 やっぱりフネさんの漢方は凄いんだなあ」


 蓮がテーブルに目をやる。


「あれ?

 テーブルの薬は……?」


「あ……

 あぁ……

 夜起きて自分で飲んだよ」


 蓮が入浴しているのを覗いた事がバレてしまう。

 そう思って少し動揺する僕。

 いや、正確には覗いていないのだが。


「そう……

 良かった」


 満面の笑顔を見せてくれる蓮。

 その笑顔が眩しくて僕の胸に刺さる。


「待ってて。

 朝御飯作ったげる」


 そう言って蓮はキッチンに消えて行った。

 数十分後。

 蓮がお皿を二つ持ってきた。

 あ、そうだガレアとルンルも起こさないと。

 二人を揺り動かす。


「ホラ二人とも起きて」


【オス竜司】


 相変わらずガレアの寝覚めは良い。

 だがルンルはというと……


【うぅん……

 もう朝……?

 もう少し寝かしなさいよ……】


 竜ってみんな寝覚めが良いものだと思っていたがそれは違うらしい。

 目を擦っている。

 お皿をテーブルに並べる蓮が説明してくれた。


「ルンルはね。

 眠る事で次の日に使う電力を充電しているの。

 体内で魔力を電気に変換してるんだって。

 だから充電完了しないと眠いんだって。

 多分後十分ぐらい寝かしといたら充電完了するんじゃない?」


「充電ってどのくらい?」


 僕は興味本位で聞いてみた。


「えーと……

 確かママが三十ペタワットって言ってたわ。

 もう途方もない数字だからピンと来ないわよね。

 フフフ」


 確かに。

 しかも蓮の母親がルンルを使役していた頃だから、今はそれ以上かも知れない。


「ルンルが一人いれば原発いらないね」


 僕はふざけて言ってみた。


「そうねフフフ」


 蓮も笑っている。

 蓮の用意してくれたメニューはお粥とマヨネーズが少しかかったサラダ、ベーコンとオムレツ、そして冷奴だった。

 変わった取り揃えだ。


「蓮、変わった取り揃えだね」


 そう言うと蓮は自慢げに。


「ふっふーん。

 これは変わってると見えて五大栄養素全てが摂れる最強の朝食なのよ。

 これを全部食べれば今日一日元気に過ごせるわよっ」


 料理が得意な蓮が言うならそうなのだろう。

 まずはお粥を食べる。

 前に作ってくれたお粥だ。


 相変わらず美味しい。

 僕は残さず全部平らげた。


「ふうお腹いっぱい。

 ごちそうさま蓮」


「フフ、お粗末様。

 ガレアも食べた?」


 蓮がガレアの方を見る。

 ガレアには朝食メニューを全て混ぜたものを与えた様だ。

 何となく犬、猫を連想させる。


 蓮が後片付けをしている。

 僕も手伝った。

 お皿を洗いながら話を切り出した。


「ねえ蓮……

 後片付けが終わったら……

 どうしよっか……?」


 蓮がピクッとなる。


「今日は午後からママのカンファレンスがあるの。

 竜司が昨日あんな状態だったから、まだ返事してないんだけど……

 竜司、興味ある?」


 僕は頷いた。

 カンファレンスの内容自体にでは無く蓮の母親に興味があった。


「じゃあ……

 午後はママのカンファレンスに行くとして……

 午前中は……

 デートしよっか……?」


 僕から言うつもりだったのに蓮から切り出されてしまった。


「うんっ!」


 僕は元気に返事をした。

 後片付けを終え、出かける準備をした。

 僕はずっと持っていた蓮と買った服に。

 蓮はタイトな黒い長ズボンにインナーは柄の入ったTシャツ。

 アウターは黒いジャケットを羽織っている。


「蓮……

 何か凄い大人っぽい格好だね」


「だってママのカンファレンスを見学するんだもの。

 それなりの服に着替えるわよ。

 あ、竜司は普段着で構わないわよ。

 一般枠で入れるから」


 納得。

 身支度を済ませた僕らは外に出た。


「昨日遥さんが帰る時に言ってたのよね……

 合鍵はここへ……」


 蓮がガスメーターの中へカギを入れる。

 マンションの外へ出た僕ら。


「さて、どこに行こっか竜司」


 僕は蓮にデートを切り出されてから隙を見てスマホで調べていたんだ。

 切り出しは蓮にされてしまったからエスコートは僕がしないと。


「栄の駅前にオアシス二十一って施設に行こう。

 水の宇宙船って言うシンボルがあるんだよ」


「わかった行きましょ」


 僕らは目的地に向かい歩き出した。

 蓮が話しかけてくる。


「竜司、確か大阪から奈良に行ったんだよね。

 奈良はどうだったの?」


「突然どうしたの?」


「だって昨日から色々あってゆっくり旅の話なんて出来なかったんだもん。

 それとも私が聞いちゃ迷惑?」


「そんな事無いよ。

 最初奈良ではガレアと東大寺に行ってね……」


 僕は奈良での出来事をかいつまんで話した。


「その天涯さん……

 だっけ?

 逃げちゃったの?」


「そう、多分他の県で悪どくやってんじゃないかな?」


「そのヒビキって竜に魔力注入インジェクトのやり方を教わったのね」


「そうだよ。

 教わったって言うかノートに書いてもらったんだけどね。

 そのノートおっかしいんだよ。

 ヒビキって接していると食堂のおばちゃんみたいなんだけどノートだと全然違うんだから」


「そうなんだフフフ。

 後でそのノート見せてね」


「いいけど、蓮は魔力注入インジェクト使っちゃ駄目だよ。

 危ないから」


「わかってるわよ」


 そんな話をしている内に着いてしまった。


 オアシス二十一


 ここは杏奈の被害は無かったらしく普通に人が行き来している。


「スゴ……」


 僕はその迫力に息を呑んだ。

 何がってその大きさだ。

 地上十メートル辺りに大きな円の形をした屋根が乗っかっている。

 スマホで調べたらこの屋根、上に登れるらしい。


【何だコレ!?

 すっげぇでけえなあ!

 コレも人間が作ったのか!?】


「そうだよガレア」


【人間って一人一人は非力なくせに群れるとこんなデカいもの作ったりするんだから。

 すっげぇなあ】


「だろ?

 ガレア、人間ってのは集まって一つの動物なんだよ。

 いわゆる“群れの動物”ってやつだね」


【あっ!

 あっちに原っぱがあるぞー】


 ガレアは原っぱの方に行ってしまった。

 ガレアはいつも僕が良い事を言うと聞いてない。


【ガレアちゃんは相変わらず無邪気ねぇ】


「おい待てよガレアー。

 蓮、行こう」


「うんっ」


 僕は蓮とルンルと一緒にガレアの方へ向かった。


「ガレア行くよ。

 この上に登るんだ」


【上へあがれんのかっ!?

 スゲー行こう行こう】


 上へは……

 とエレベーターしかないのか。


「ガレアとルンル、ちょっと小さくなって」


【わかった】


【いいわよん】


 二人は白い光に包まれ三回りほど小さくなった。

 これで乗れるだろう。

 エレベーターで屋上へ。


 着いた。

 今日は晴れているのも手伝って気持ちの良い空間が広がっていた。

 中央を大きく円状に柵で覆い、その中はガラス板が貼られ、上に薄く水が流れている。


【綺麗な所だなー】


 そんな事を言いながらフワフワ飛ぶガレア。

 僕らはぐるりと外周を回りエレベーターを降りた。

 ふと何気なく上の案内板を見ると。


 1F FLYSHOP


 FLYSHOPって言うのは週刊少年フライのキャラショップだ。


「蓮、ここに行きたい」


「いいわよ」


 FLYSHOPに到着。


「えっと……

 トレジャー×トレジャーは……」


 あった。

 へえグッズがいっぱいある。

 主に文具系が多い様だ。

 僕が色々物色していると、蓮がクスクス笑い出した。


「何?

 蓮」


「いやね……

 何か無邪気だなって……

 そんな必死に物色しなくてもいいのにクスクス」


 僕は顔が赤くなった。


「そっ……!

 そんなに必死になってないよっ!」


「そんなに照れなくてもいいわよ。

 フライなら私も時々読むし」


 蓮が屈んで一緒に商品を見ている。

 顔が近い。

 甘い良い匂いがする。

 胸がドキドキしてきた。


「へぇいっぱいあるのね……

 あっこれカワイー!

 ホラ竜司見て見て」


 蓮が見せたのはストラップだった。

 トレジャー×トレジャーのキャラがディフォルメされたされた人形が付いている。


「蓮が持ってるのはギンだね。

 じゃあ僕はキルリを買おう」


 この二人は一緒に旅をするいわばメインキャラだ。

 同じキャラでお揃いにしても良かったのだが、それではつまらないと思い、敢えて別キャラにした。


「ギンとキルリね。

 名コンビッ!」


 蓮も嬉しそうだ。

 僕の意図を理解してくれたようで嬉しい。

 僕はさっそく買ってストラップをつけた。


 蓮も同じく付ける。

 互いに見せびらかし、微笑み合う。


「じゃあどうしよっか?

 竜司」


「ちゃんと考えているよ。

 次はテレビ塔に登ろう」


 このオアシス二十一はテレビ塔の近くなのだ。

 ちゃんと調べている。

 僕らはテレビ塔に向かった。

 すぐにテレビ塔に到着。


 うん、テレビ塔には着いたんだ。

 着いたんだけど……

 根元からポッキリ折れ曲がっている。


 しかもかなりの角度が付いている。

 黄色い柵で覆われ、中で土木の人達がせわしなく動いている。

 そして地面には黒く変色した石畳が真っ直ぐテレビ塔に続いている。


「蓮……

 これってもしかして……」


「……多分私の超電磁誘導砲レールガンね……」


 改めて考えると物凄い威力だ。

 何かヘンな空気になる場。

 僕は話題を探した。

 あっそうだ。


「そういえば、超電磁誘導砲レールガン撃つ時“恥ずかしい部分もあるから”って言ってたけど、どこの事?」


 そう聞いた僕の顔を見た蓮は赤くなる。

 しばらく黙っている。


「蓮?」


「わかったわよっ。

 言うわよっ。

 その……

 ルンルを銃に変える時……

 ね……

 ルンルは感情が高ぶって淫語を叫ぶのよ」


「淫語?」


「要するにッ……!

 Hな言葉……

 ゴニョゴニョ」


 ああ、そう言えば放つ光が一番強くなった時“エクスタシィィ”って叫んでたっけ。


「でもエクスタシーぐらいそんなにHじゃ無くない?」


 僕はフォローを入れたつもりだった。


「……そうね

 ……でも最初の時は酷かったんだからっ」


「何て言ったの?」


 この会話の流れからしたら当然の疑問だ。

 僕の疑問を聞いた蓮は更に赤くなり、黙っている。


「蓮?」


「…………シックスナイン……」


 聞き慣れない言葉が耳に入る。

 シックスナイン?

 後でスマホで調べたらまあスケベな言葉だったよ。

 まだたつには早いから詳しくは内緒ね。


 この後しばらく蓮は真っ赤だったよ。

 その後僕らは昼食を済ませ、カンファレンスが開かれるホテルへ向かった。


 ヒルタン名古屋


 到着。

 物凄く大きなホテルだ。

 僕がいつも使うビジネスホテルとはえらい違いだ。


 蓮は手慣れた感じで中に入って行く。

 僕は初めて訪れる高級ホテルでキョロキョロしてしまった。


【オイオイ竜司。

 何だココ。

 どこもかしこもキラキラしてるぞ】


「しっガレア静かにっ。

 僕も初めてなんだよ。

 蓮……

 こう言う所ってよく来るの……?」


「まあ、たまに。

 暇な時ママのカンファレンスを見に来る時ぐらい」


 僕は蓮の話を聞きながらまだキョロキョロしていた。

 僕らはエレベーターに乗り込み会議室の階へ向かった。

 目的階に到着し、扉が開く。


 ガヤガヤ


 そこそこ人が集まっていた。

 数にして数十人ほど。

 これ全員関係者だろうか。

 蓮は受付みたいな長机で何か書いている。

 すぐに戻って来た。


「竜司、これから私はママの控室に顔見せに行くけどついてくる?」


 この発言を聞いて僕はドキッとした。

 蓮は普通に聞いて来たけど気にしないのかな?

 とりあえず僕は頷いた。


「じゃあ、こっちへ来て」


 脇の廊下を進む僕ら。

 看板が置いてある。


 京都大学 竜考古学研究チーム様 控室


 その看板を通りどんどん奥へ。

 蓮は張り紙が貼ってある一室の前で止まった。


 新崎藜しんざきあかざ


 トントン


「ママー、入るわよ」


 ガチャ


 中に入ると煙とタバコの匂いが凄かった。

 奥に窓にもたれて何枚かの用紙を見ている女性が居る。

 髪は黒髪で後ろにまとめている。


 いわゆるポニーテールという奴だ。

 タイトなスーツを着こなし、黒い縁のメガネをかけている。

 この煙草をくわえた女性が蓮の母親か。


 ###


「はい、今日はここまで」


「ねぇパパ?

 シックス……」


「あっ!

 もうこんな時間だ!

 もう寝ないといけないねっ!

 さあ布団に入って!

 おやすみなさい……」


 ふう危ない危ない。

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