第五十九話 竜司、音速越えの世界を知る。
「やあ、こんばんは。
今日も始めて行こうか」
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スタート直前ミーティングにて。
ホワイトボードの前にモブが立って説明する。
「デハルール説明デース。
場所はここ国際レーシングコース。
ソコヲ三十周シテモライマース。
インカムをツケテ自分が何周目カワカリマース」
「三十周?
短くねぇか?
確か鈴鹿は五十三周じゃ無かったか?」
流石駆流。
レースについては詳しい。
「ソレはアナタガタの年齢ナドを考エタ結果デース。
モシモの時のタメに医療班と付近の病院も抑エテマース」
「竜の魔力は使用していいのか?」
「ソレはアリデース。
魔力を使ッテ妨害もアリとシマース」
「そうか」
「アトコースアウトや転倒ナドは戻ッテヤリナオシデース。
乗リ手が意識不明、モシクはリタイア宣言シナイ限リレースは続キマース」
これがルールの内容だったよ。
さあレースはどうだったかと言うとね……
ビー
けたたましいブザーの音でレーススタート。
一斉に飛び出そうとした時、
「
すると辺りが薄暗くなり目の前に祖父が現れた。
「フン、落ちこぼれが。
家出して一人前にでもなったつもりか。
たわけがっ!」
後で聞いたんだけどこの
見てる間寝てるのかって?
さあ詳しくは聞かなかったから知らないなあ。
もちろんガレアはもう最高速で走っていたよ。
僕は祖父の悪夢に翻弄されていた。
「何だよ……
今さら出て来て邪魔するなよ……
僕の事が嫌いなんだろ!?」
「貴様はワシから逃げたのだ。
外に逃げた羽虫など気にする奴はおるまい」
「な……」
ここで地面が左に回転した。
違う、僕の身体が回転しているんだ。
それに気づいた瞬間ガンと鈍い音が聞こえて僕は気を失った。
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【……いっ!
起きろっ!
竜司!】
「……ガレア……?」
【ガレアじゃねぇっ!
もう他の連中は先に行っちまってるぞ!】
それを聞いて完全に目が覚め、すぐにガレアに跨った。
「よし!
ガレア巻き返すぞ!
いけるか!?」
【あったりめぇよ!
本気で行くからな!?
振り落とされんなよ!】
「よし、僕も腹を括った。
限界ギリギリの
ドクン
少し胸が前に動くほどの心臓の高鳴りだ。
「よし、ガレア行けっ!」
この言葉を聞いた瞬間ガレアと僕はコース外から真一文字に飛び出した。
速い。
まるで弾丸の様だ。
第一コーナー外から真っ直ぐ第二コーナーの終わりまで約一秒。
そこから緩いS字が二回続くがそこもお構いなしに真っ直ぐ駆け抜ける。
テグナーカーブ、ヘアピン、スプーンと続くがガレアの足爪を活かした鋭い走りで難なくクリア。
さあ最後のストレート。
ここでガレアのポテンシャルを知る事になる。
ガレアのスピードが三段階ぐらい上がった。
ここでガレアが吠えた。
【おおおおおおおおおっっ!!】
風圧ならこのスーツと
ゆっくり横を見ると傘を横にしたような白い雲がガレアの周りに出来ていた。
「こ……
これはベイパーコーン……」
漫画で読んだ事がある。
超高速になると圧力計数が増大、急減し、断熱膨張によって周りの空気に含まれる水蒸気が凝結して雲が発生するという。
それはガレアの速度が音速を超えたことを意味する。
ガレアの音速を認識した直後、僕は身体が浮いていることに気付く。
思わず首にしがみつく。
もちろん逆鱗は注意してたよ。
瞬く間に僕がコースアウトした第一コーナーに辿り着いた。
流石にコーナーではガレアは減速する。
ここで僕はスキルを使用
「
超高速のガレアの上で視点を変える事は危険だ。
長くは使えない。
一瞬で判断しないといけない。
久々に登場。
緑のワイヤーフレーム。
わかった。
まずS字に
テグナーカーブに
ヘアピンに
やはり駆流が一位の様だ。
「ガレア、次のコーナー曲がった先に一体いる!
タイミング合わせろ!」
【おうよ!】
さっきのように第一コーナーから真一文字にショートカット。
S字に差し掛かった。
「
緑のワイヤーフレームが再度レース場を包む。
この時何で
でも初めて夢で見た
「
超高速のガレアは既に
同時に後ろで爆発音が聞こえた。
緩めの半円状のカーブを一気に駆け抜けると遠くに
どんどん差を詰める。
「げぇっ!?
来やがったぁっ!!」
【ガガガァッ!
ガレアだぁぁぁっ!!】
もう手が届く距離に
と思ったら
ガン
急に目の前に岩の壁が現れた。
「ハッハッハ、どうでぇっ!
俺のスキル
「
そろそろ時間切れだったのでもう一度
ドクン
この心臓の高鳴りを聞いた瞬間再びガレアが吠えた。
【しゃらくせぇっ!】
聞いたと同時に僕も
そう、風の中を突き進む槍のイメージ。
簡単に岩は砕けた。
その先は補正されたコースでは無く泥の道となっていた。
それに足をもつれて完全に低速となっている
「
命中。
一瞬で駆け抜ける。
立体交差付近の小ストレート。
三度
緑のワイヤーフレーム展開。
駆流は最終コーナー。
僕は考えた。
「ガレア!
作戦を話す!
少しだけペースを落とせ!」
【よしわかった!】
このレースは三十周。
そして今は三周目。
まだ序盤だ。
「ガレア、いいか?
まだレースは序盤だ。
ひとまずここは体力温存で走れ」
【そんなんで勝てんのか?】
「さっき二人倒したろ?
だから僕らは今三番手。
全然逆転を狙える順位だ。
でも離れすぎてもいけない」
【状況は解った。
んでどれぐらいまで近づけばいい?】
「そうだな、二番手が豆粒大ぐらいの大きさで保とうか」
二番手はおそらく
あのスキル
特に僕みたいなトラウマ持ちには効き過ぎる。
「次の相手が豆粒大の大きさで保ちつつあと二十五周は我慢してくれ」
【わかったよ。
それで勝てるんならな】
「抜くポイントはその時伝える!
さあ!
行けっ!
ガレア!」
ガレアのペースが元に戻った。
二番手の
メインストリートに戻って来た時、荒廃ぶりに少し唖然とした。
コースが竜の足爪でボロボロなのはいい。
それよりも観客席が完全に崩れかかっていた。
おそらく先程のベイパーコーンの発生に伴う
やはりガレアは凄い。
【この辺りでいいか?
竜司】
「お……
OK……
その距離を保ってしばらく体力温存だ」
【わかった】
レースは進み、二十三周目。
一旦また
すると少し異変が起きていた。
駆流と
現在一位は
後で聞いたんだけどこれには理由があるんだ。
それ見たマッハが止まったせいなんだって。
そこでマッハが
【あぁっ……
花が……
花が……】
って絶句したんだって。
でも少ししたら物凄く怒りだして
【お前らは花を何だと思ってるんだぁぁぁ!】
って物凄い怒り方だったんだって。
その後はもう凄かったよ。
物凄い勢いで追いついて
多分マッハの身体にもベイパーコーンが出来ていたんじゃないかな。
辺りは僕らだけになった。
スプーンカーブを抜け西ストレートに入ると再び荒廃ぶりに唖然となった。
周りの壊れ方を見ておそらくマッハが起こした
脇に動かない
「よし!」
僕は小さく拳を握った。
これで悪夢に悩まされる事は無い。
「ガレア!
作戦変更だ!
仕掛けるタイミングを早めるぞ!」
【わかった!
あと何回回ればいい!?】
「後二周!
二十五周目で駆流の真後ろに付ける!
いけるかガレア!?」
【当たり前だ!
俺を誰だと思っている!】
「ああ、お前はガレア!
僕の自慢の竜だ!」
まだ前が見えないためかガレアがペースを上げた。
「行けぇぇぇぇ!
ガレア!」
ガレアの速さはもう音を置き去りする程だ。
だが音を置き去りにしてもやはりマッハは速い。
なかなか姿を見せない。
しかしそこはそれ。
こうゆう事に関しては有言実行のガレア。
二十六周目に入るメインストレートで駆流の後ろ約二十mまで迫った。
「よし!
ガレアさすがだ。
この位置をキープだ。
追い抜くタイミングは僕が出す!」
【わかった!
テンション上がって来た!】
真後ろから見ても駆流とマッハの走りは凄かった。
足爪を地面に食いこませて徐々に角度を入れ、鋭く曲がるガレアと違い。
マッハは柔らかく丸く曲がる。
これは天性のものなのだろうか。
駆流の動きも凄かった。
曲がる瞬間に体重を上手く移動させて遠心力を殺している。
流石F1レーサーを目指しているだけはある。
しかし、そこはガレア。
ちゃんと位置をキープしつつマッハに食らいついている。
二十六周、二十七周、二十八周、二十九周。
僕のインカムが告げる。
(竜司さん!
ファイナルラップです!)
僕は抜くポイントを決めていた。
それは第二コーナーを曲がった先の緩い二つのS字カーブ。
そこはガレアが一直線にショートカットが出来る所だからだ。
「ガレア!
ここから二回曲がった所で仕掛けるぞ!
準備しろ!」
【おうよ!】
「
正直これ以上
負けたくない。
ドクン
「ぐぅっ!」
流石にキツい。
【大丈夫か!?
竜司!】
「あぁ……
さあ行くぞ!」
第二コーナーを抜ける。
ここだ。
「行けぇぇぇぇ!
ガレア!」
S字を真一文字に駆け抜けマッハの隣を走り抜ける。
また周りにベイパーコーンが発生していた。
ガレアの音速越えだ。
多分このレースが終わったら僕は倒れるだろう。
それは確信していた。
「やった!
上手く行ったぞ!
僕らが一位だ!」
後はゴールするだけだ。
ヘアピン、スプーンをクリアし、西ストレートを走っていた時…………
確かに聞こえたんだ。
後ろから駆流の声が。
「さすが
でも俺も負けねえよ」
勝利を確信し緩み切っていた僕の背中に戦慄が走った。
音速を超えたガレアに追いつく事なんて出来ないと思っていたから。
立場が逆転してしまった。
駆流は最終コーナーで仕掛けてきた。
徐々に角度を入れる曲がり方のガレアと柔らかく曲がるマッハとじゃわずかなタイムラグが発生する。
駆流はそこを見抜いていたんだ。
本当にこいつは中一か?
ファイナルラップ メインストレート
最後の直線で並ばれた。
見た感じ同位置だ。
「がんばれぇぇぇ!
ガレア!」
後は気力の勝負。
(ゴール!)
このインカムの声を最後に僕は気を失った。
###
「はい、今日はここまで。
ごめんね今日は長く……
ん?」
「パパ!
凄い!
凄いよ!
今日のレース!」
「
本当に凄かったよ。
音速を超えるとね物凄く寒いんだよ」
「鈴鹿サーキットは大丈夫だったの?」
「その話はまた明日してあげるよ……
おやすみ……
また明日」
バタン
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