第三十四話 ガレア総本部へ行く

「やあ、こんばんは。

 昨日は氷織ひおりと出かける所だったね」


 さあ、今日も始めて行こう。


 ###


 僕とガレア、氷織ひおりは総本山に向かって歩いていた。


「ねえ氷織ひおりちゃん?

 総本山ってどんな所?」


「……広いお寺です……」


「そう……」


 会話が止まってしまった。

 カンナならもっと話すだろうなあと自然とカンナと比べてしまっていた。


(大天神様、おはようございます)


(大天神様、今日の托身よろしくお願いします)


 皆の挨拶に昨日と同様、皇族みたいな手の振り方の氷織ひおり


氷織ひおりちゃん、托身って何?」


「天涯教で定期的に行う儀式の一つです」


 また会話が止まってしまった。

 もともと僕もそんなに話し上手って訳でも無いし、どうしようか? 

 と悩んでいたよ。


 結局そのまま会話も無く到着。


「ここ……?」


「そうです」


 天涯教総本部。

 とにかく大きい。

 広大な敷地にデンと構える寺。


 この寺も大きいのなんのって。

 その寺の前にある空き地も広い。

 そして、その空き地に信者だろうか千人ぐらい集まっている。


(あっ)


 信者の一人が気付いた。

 そこから僕とガレア、氷織ひおりを中心に人が群がって来た。

 軽いパニック状態だったよ。


(大天神様、お元気そうで)

(大天神様、今日はよろしくお願いします)

(大天神様、今日は私初めての托身なんです。天光をお願いします)

(大天神様、こっち向いてー!)


 どんどん人の波が押し寄せる。

 もうぐちゃぐちゃだ。


「ちょっ……

 ちょっとどいて下さいっ!」


 信者の群れは返答しない。

 自分勝手な事を言って手を伸ばしてくる。

 肩や顔や髪や色々な所を触られたり、掴まれたりした。


 僕はたまらず


「ガレアっ!

 上を向けっ!」


 ガレアが上を向いたのを確認。


魔力閃光アステショット!」


 ギュオッ


 昨日の練習した時と同じような極太の閃光が空に向かい雲を貫いた。

 雲は渦を巻いて四散した。

 僕らを取り囲んでいた人々は全員へたり込んでしまった。


(神だ……)


 腰を抜かした信者がそんな事を言いだした。

 その一言を皮切りに周りがザワザワし出した。

 氷織ひおりの時とは違う。


 恐れ……

 いや畏れみたいなモノを感じた。


 とりあえず、氷織ひおりとガレアを連れて中に入った。


 本堂。

 ここも恐ろしく広い。

 天涯教が新興宗教というのを忘れてしまう程だ。


 氷織ひおりはトコトコ進み、脇の小さな扉に手をかけた。

 すると


「……どこまでついてくる気ですか」


「へ……?」


 いや、そりゃ保護者代りだしついていくだろ?

 って思った。

 よく見ると氷織ひおりの頬も赤い。


「着替えるんです!」


 そう叫んで、一人中に入りバンと扉を閉めてしまった。


「……そりゃそうか」


 こうゆうのをデリカシーが無いって言うんだろうなって思ったよ。

 僕はとりあえず隅に座っていた。

 ガレアはこの広さが気に入ったのかプカプカ浮きながら周りをグルグル回っていたよ。


【コイツの眼……

 何か嫌いだ……】


 金ぴかの仏像を見たガレアがそうつぶやく。


「それはあなたの心にやましい事があるという事ですよ」


 氷織ひおりが入った扉とは違うもう一つの扉から誰かが入って来た。


「珍しいお客さんだ。

 あなたは竜河岸たつがしですかな?」


「あ……

 はい、あなたは……?」


 聞かなくてもそのいでたちで大体わかった。

 金箔を張り巡らした袈裟に、指には何個も指輪がはまっている。

 笑顔で話してきたその歯は金歯。

 ああ、成金ってこうゆうのを言うんだなって思ったよ。


「私はマイトネーム極応神天涯ごくおうじんてんがい

 君と同じ竜河岸たつがしです」


皇竜司すめらぎりゅうじ

 竜河岸たつがしです」


「今日はどうかされましたかな?」


「今日は氷織ひおりちゃんの付き添いです」


「それはそれは……

 所であなたは信仰心はおありかな?」


 何だ突然話を変えてきたなと思ったよ。


「いえ、僕は無宗教派です……」


「それは何故ですかな?」


「見た事もないものは信じれませんよ」


「それは違いますぞ、竜司さん。

 神とは在り在らざるもの。

 目には見えなくてもきちんと存在しているものです」


【ふぅーん、なあなあお前。

 カミってどこで何してんだ?】


「それは司教の私ですら与り知らぬ事……

 だが神の所業は全て深いお考えがあってのもの。

 それはあれこれ詮索するものでは無いのですよ」


【何だそりゃ?

 よくわかんね】


 ガレアの言う通りだ。

 僕にもよくわからなかった。


「そろそろ時間の様です。

 今から行われる大托身の業をご覧になれば竜司君もきっと神を信じるようになりますよ」


 着替えを終えた氷織ひおりが中から出てきた。

 真っ白な法衣を纏い、頭に冠を被っている。

 どことなく神々しい。


 じきにぞろぞろ人が入って来た。

 人の流れは留まる事を知らず十分ほど続いた。

 中に入った人はきちんと整列して正座している。


 千人がきちんと並ぶと壮観な景色だ。

 僕とガレアは脇に座って見ていた。


「それでは托身を始めます」


 天涯てんがいがマイクをを使ってそう話す。

 脇に立っていたスーツの男がリストを渡す。

 前を向いたまま受け取る天涯てんがい



「本日の托身を行う者は……

 時任さん、田中さん、鈴木さん、船越さん、松田さん。

 前へ……」


 千人の中から五人が立って前に出向く。


「では托身報告から」


(私は先祖の土地を売り一千万作りました)


(私は家財道具を売って五百万作りました)


 何だかキナ臭いにおいがする。

 各々金をいくら作ったかと報告をしている。

 総額五千万。


「はいわかりました。

 それは儀を執り行います。

 では船越さん」


 氷織ひおりが跪く船越さんの頭上に手を翳す。

 すると天涯が


「きぇいっ!

 きょぅい!

 てぇいっ!」


 掛け声を上げて船越さんの肩やら頭やらをバシバシ叩いている。


「はい、完了です」


(ありがとうございました!)


「では次、時任さん」


 こんな感じで儀式めいた催しは続く。

 考えてみると順番は額の大きい順だった。

 匂うキナ臭さが更に増した。


 すると、最後の鈴木さんが


(僭越ながらに申し上げます……

 私は家財道具を売りお布施を作りました。

 その中には家族の思い出も含まれていました。

 手放す時、これで正しいのかと疑問を抱いてしまいました……

 お許しください)


「布施とは徳。

 徳とは来世に生きるための糧。

 あなたのその行為は徳として積まれ、来世できっと家族と巡り合えますよ」


 天涯は笑顔でそう言う。


(……しかし)


 鈴木さんは納得していないようだ。

 天涯の顔がほんの少し変わった気がした。


「わかりました……

 あなたは天竜の洗礼を受ける必要があるようですね。

 ケイダ!」


【はぁい】


 奥から一人の竜が出てきた。

 全身薄黄色で翼竜の様だ。

 ガレアと同タイプだろうか。

 ただ少し違うのは角が一本頭の真ん中に生えているだけだ。


【何だよ天涯ー

 今ドリクエのレベル上げで忙しいんのにー】


「ケイダすみませんね。

 ではこの鈴木さんに例のものを」


【はいはい】


 鈴木さんに向けて手を翳す天涯。

 すると天涯の手がフラッシュのように瞬いた。


「あなたは間違っていません……

 あなたは間違っていません……」


 天涯の手のフラッシュは一定のリズムを刻んでいるように見えた。


「これってもしかして……」


 僕は咄嗟に目を反らした。

 昔の漫画でライトの点滅によって催眠効果を生み出すって見たことがあったから。


(ありがとうございます!

 私、自信が沸いてきました!)


 終わったようだ。

 鈴木さんを見るとどこか目の焦点が定まっていない。

 いわゆるイッてしまっている目をしている。


【天涯ー

 もういいー?】


「ああ、ケイダご苦労様」


【はーい、シルビア……

 ジャネット……

 どっちと結婚しようかな……?】


 そんな事を言ってケイダと言う竜は奥に消えていった。


「ガレア、あの竜知ってる?」


【いや知らね】


 ガレアでも知らない竜っているんだな。

 そう思ったよ。


「では続いて読経の儀を行ってください」


 千人がお経を読みだした。

 何かここに居たら呪われそうな気がした。

 どうしようかと考えていたら天涯が話しかけて来た。


「竜司君、いかがでしたかな?」


「まだ……

 よくわかりません」


「ここから大分時間がかかりますので奥で大天神様と三人でお茶でもいかがですかな」


「はい、わかりました……」


 少し怖かったが、僕はこの申し出に応じた。

 氷織ひおりちゃんの感じも見たかったし。


 八畳ぐらいのリビングに通された。

 僕と氷織ひおりが隣同士。

 天涯が前に座った。


 スーツの人がお茶とケーキを持ってきた。

 高級そうなケーキだ。

 ガレアの分ももちろんある。


【あまぁーい】


 ガレア大喜び。


「いかがでしたかな?」


 天涯がこう切り出す。


「今日の催しは……?」


「ああ、先程のは托身という儀式です。

 定期的に行う行事で、物欲を取り払ったものの体に残った邪気を取り払うんですよ」


 要は物を売り払い、金を作った者に洗礼をするという事か。

 僕はこう解釈した。


氷織ひおりちゃんとはどういった経緯で知り合ったんですか?」


「大天神様とは一年前に天涯駅前で出会いました。

 その時は神のおほしめしだと思いましたよ」


 この人が神と言うとどうも胡散臭く聞こえる。


「見た所、竜司さんはこの土地の人じゃありませんね。

 何故天涯市に?」


「事情があって日本中を旅しているんです」


「その事情とは?」


「……それはいいじゃないですか」


 僕はこの人は詐欺師やペテン師の類と思ってみていた。

 そんな人に自分の事を話すとどう付け込まれるかわからない。

 僕は自分を守るため旅以外の事は語らなかった。


「そろそろ読経が終わる時間です。

 本堂に戻りましょうか」


 本堂に戻った僕はまた隅に座りその後の催し物を見ていた。

 内容は終始胡散臭い内容だった。

 催し物も終わり、みんなそれぞれ帰り始めた。


「終わったか……

 うーん、ガレア?」


【グー……

 グー】


 寝とる。

 余程退屈だったのだろう。


「おい、ガレア!

 ガレア!」


【ムニャ……

 竜司終わったのか?】


「終わったよ、さあ帰ろう」


 僕とガレア、氷織ひおりの三人は帰る事にした。


 ###


「さあ、今日はここまで」


 おやすみなさい……


         バタン




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