美山美森の美徳
遠縄 勝
第1カ条
「ねえ伊笠、ビビちゃんに本当に告るの?」
高校生活も2年目を迎えた初夏のとある昼休み。俺、
「おい、あんまし大きな声で言うなよ。美山さんに聞こえちゃったらどうすんだよ」
花陽は小さく舌を出すと「ごめん」と謝ってきた。昔からのこいつの癖だ。失敗したときに小さく舌を出す癖。花陽も可愛い容姿をしていて、こんなあざとい癖まで自然に繰り出してくる。男から人気があるのも何となく分かる気がする。
だが、しかし、俺のヒロイン
美山さんの良いところが止まらない俺の脳内を花陽の一言がピタッと止めた。
「ビビちゃんに私が言っといてあげるよ。伊笠から大事な話があるから放課後の教室で待っててあげて、って」
花陽はそう言うと、俺の必死の制止も無視して美山さんの元へ行ってしまった。
そう、花陽にはおせっかいで人の話をよく聞かず行動しちゃう癖もあった。昔から花陽に振り回されっぱなしの原因である癖が。俺はたまらず大きな溜息をつく。
「って、俺本当に今日告白しちゃうのか、美山さんに。」
変に緊張してソワソワしていたらすぐに放課後になってしまった。人が少なくなっていく教室で、チラッと美山さんの席のほうを見る。美山さん、まだ残っている。しかし、窓の外を眺める美山さんの横顔は凛々しくもあり、可愛い。
「やばい。本当に緊張してきた。ちょっとトイレに避難しておこう」
緊張のせいかお腹が痛くなってきた気がしてトイレにこもり、鏡の前で無駄な最後のあがきをして15分。恐る恐る教室のドアを少し開けて中の様子を伺ってみる。
「美山さん、本当にまだいた」
美山さんはまだ窓の外を眺めている。俺はゆっくりとドアを開けて教室の中に入った。
「美山さん、可愛い」
あ。
ああああ。思わず心の声が漏れてしまった。散々、花陽の癖について文句を垂れていたが、ここにきて俺の悪い癖が出てしまった。思ったことがすぐ口に出ちゃう悪癖が。
「伊笠…くん?」
さすがの美山さんも怪訝な表情を浮かべて俺の顔を見てくる。どうやら俺はスタートから盛大にこけたようだ。
「や、やあ美山さん」
さっきの一言は無かったことにして他の話を…、あれ、何も言葉が出てこないぞ。俺の頭は完全に真っ白のフリーズ状態になってしまった。
放課後の二人だけの教室。妙な間が流れていく。このままじゃ辛い結果しかみえてこない。焦りが余計に頭を空っぽにしていく。
そんな妙な空気をぶち破る言葉が美山さんの口から飛び出た。
「も、もしかして、こ、告白とか、かな?」
悟られてる。まさか、花陽が何かそそのかしたのか。いや、もうここは勢いでいくしかない。俺はグッと目を閉じた。
「そう、告白です。美山美森さん。あなたのことが好きみたいです。いや、大好きです。俺と付き合ってくれませんか」
…美山さんからの返事が返ってこない。俺はゆっくりと目を開けた。
「はい」
そう言う美山さんは目線を俺から逸らしながら、顔を真っ赤にしていた。
玉砕濃厚だった告白がびっくりするような結果になったその日、俺と美山さんは一緒に帰ることになった。何というか、今日は人生の運が全て注ぎ込まれたような1日だ。
「まさか、美山さんがOKしてくれるとは。嬉しすぎて、ここから逆立ちでも家に帰れそうな勢い」
先程、何も言葉が出てこなかった俺はどこへ消えたのかというくらい、軽口をたたく。
「ねえ、美山さ…ってあれ?」
隣で並んで歩いていたはずの美山さんがいない。え、ドッキリでしたとかいうオチですか?え?
俺がアタフタしていると、後ろから笑い声が聞こえた。慌てて振り返ると、俺の3歩ほど後ろを歩く美山さん。
「どうして、後ろを歩いてるの?」
美山さんは真顔でこう言う。
「え?彼女って3歩下がって彼氏の後をついていくものなんじゃないの?」
何と言うか、美山さんすごく古風な考え方をお持ちだ。そして、微妙に意味が違う気がするぞ。
「美山さん、今の時代は男女平等だよ。いや、女の子のほうが前を歩いていくような勢いかも」
俺の力説する姿に美山さんは小さく笑う。
「伊笠君面白いね。変なの」
いや、ちょっと変わっているのは美山さんも同じだと…。それでも、笑っている姿も可愛いから何でもいいか。
そんなかんだで、ちょっと変わった可愛い彼女が本日出来ました。
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