第26話 ハート編 女子高生、日常の変化に気がつく
「ヒカリ、次はどんなゲームがある? 」
魔女からの着信がある。ヒカリがいるスマートフォンの世界は、基本的に時間の感覚がない。一応空が明るくなって、暗くはなるが、眠くなることはない。ただ暇になると、ソファに寝転んでうたたねをすることもある。お茶を飲んで、お菓子を食べて、寝るだけの生活。なんて贅沢な時間だろう。もうゲーム機があれば言うことはないだろう。
魔女の生活ぶりをみていると、とても健全であった。両親との関係も良好だ。そして最近は姉たちと連絡をしているようだ。姉たちとの共通の趣味は、ゲーム。ヒカリがおすすめしたゲームにはまって以来、ヒカリよりゲームのことを知っている姉たちに相談することになった。
「ヒカリ! 」
「はいはい、もしもーし」
魔女は恋愛ばかり熱中していた今までとは、全然違った。学校へ行って、気の合う友達を作れるようになった。そして、帰宅してヒカリと一緒にゲームの会話をして1日が過ぎる。休日は姉の家に行ったりして、夜遅くまでゲーム三昧だった。
姉から頼まれたゲームをクリアするのも、魔女に日課になってきた。それを魔女とヒカリ一緒になってクリアする。魔女はよく笑っている。そして、悔しいことにマジマ先輩とは知り合いになって仲良くなっていた。
そして魔女はバイトをはじめた。魔女が始めたバイト先が、先輩のお母さんの経営している店だった。近所で人気のカフェである。先輩のお母さんは、いくつか店を経営していて、休みがあると、近所で人に困っているお店の店番などしているそうだ。
マジマ先輩の母を通して、先輩とも仲良くなったみたいだ。ヒカリはその点はとてもうらやましい。魔女は、「知恵の天使」と「勇気の天使」そして「希望の天使」の3人の天使に囲まれて、毎日が楽しそうだ。ヒカリも魔女にとっては、「光の天使」という分類に入るらしく、4人の天使に囲まれて、魔女は毎日が楽しく過ぎる。そして魔女は、ヒカリおすすめのゲームをクリアした夜満足そうに微笑んだ。
「ヒカリ、わたくしね」
「どうしたの、魔女」
「今、とっても幸せなの。何がっていうわけじゃないけれど、幸せだなって思えるの」
「よかったね」
「うん、わたくしのことを理解してくれる友人もいて。家族もいて。バイト先もいい人で。ゲームも楽しい。地味なことなのだけれど、充実した生活なの」
「先輩と仲良くなっているのは、うらやましいよ。本当に」
「マジマ先輩って、とても真面目で優しいわよね。でも、彼はだめなの。好きな人がいるみたいで」
「好きな人…………」
ヒカリはショックを受けた。あくまで魔女が体験しているのは、ハート編のゲーム。現実世界に限りなく近い設定の仮想現実である。マジマ先輩に好きな人がいる。
ヒカリは先輩に告白はしたけれど、嬉しいとは聞いた。でも、先輩に好きな人がいるかなど聞く暇もなかったのだ。いまさらながら、大事なことを先輩から聞かずにいたことを悔やまれる。
「ヒカリショックを受けないで?もちろん、誰かって聞いたことあるのよ。でも、好きな人はいた気がするのだけれど、思い出せないみたい。不思議。わたくしをアラキヒカリとしてみていない気がする。マジマサトルは、あなたの『アラキヒカリ』ではないと、だめみたいなのね」
「わたしだって、先輩は先輩だから気になってたんだよ。外見だけでなく、中身も一緒でなければ、先輩じゃない」
「そうなのね、わたくし間違っていたかもしれない」
「どういうこと? 」
「『アラキヒカリ』であるには、ヒカリでなくてはダメなのね」
「そう、魔女には魔女しかなれないように。わたしはわたしにしかなれないんだよ」
「でも、ヒカリになることで幸せであることを学べた気がしたの」
「うん、魔女の表情かわったよ」
「願うならば、ヒカリたちの世界でわたくしも生きられたら。それは過ぎた願いかもしれないけれど、それくらい楽しかったの」
「魔女…………」
「だから、この体はお返しするわ。ハートの世界を、ヒカリがクリアしてちょうだい。あなただったら、クリアできるでしょう」
「うん、やってみるよ」
魔女はスマートフォンに手をかざし、意識を集中しはじめた。彼女の手から光が放たれ、視界が真っ白になる。
そしてヒカリは、次の瞬間目を覚ますと、自宅であった。スマートフォンの世界からみていた、ハートの世界の自分部屋。魔女が生き方をかえて、充実した世界。この中でクリアするということは、どういうことかわからない。だが、今ヒカリは先輩に会いたかった。先輩には好きな人がいるらしい。怖いけれど、それを知りたかった。
スマホをチェックして日付を見ると、休日だ。魔女はカフェのバイトをしていたから、手帳をチェックする。今日の昼にはバイトが入っていた。そしてヒカリはアルバイト先のカフェに行く。魔女が過ごしていたのを見ていたので、記憶の通りにエプロンをつける。そして、魔女がしていたように、いつも通りの接客をする。
するとオーナーがきた。先輩のお母さんである。スマートフォンの世界から、先輩のお母さんをみたが、背の高い綺麗な人だった。ゲームを受け取った店員さんが、先輩のお母さんだとは、あとで知ったが、あの店員さんに意識があったわけではなかったので、しみじみみると、顔つきなどは先輩に似ているところがあるようにも思えた。
「あら、ヒカリちゃん。少し雰囲気かわったかしら?少し大人っぽいような」
「そうですか? 」
少しとぼけてみせた。魔女と入れ替わっているから、多少雰囲気が違うだろう。勘がいいみたいである、先輩のお母さんは一度質問したがそとあとは詮索することはなかった。
「今日、サトルが夕飯食べにカフェにくるわ。新作のメニューを考えたから、試食してもらいたくて。もちろん、ヒカリちゃんにも食べてもらいたいわ」
「楽しみです」
そして夕方から夜にかけて、夜でも安くて量のある軽食もやっているカフェは人が少なくなることはなかった。一段落すると、先輩がやってきた。部活帰りのようで、スポーツバッグを肩からかけていた。
「いらっしゃいませ」
ヒカリは先輩に声をかけるが、先輩はヒカリと顔見知りであることは、魔女たちの様子をみていたので、知っていた。だから親しすぎず、他人行儀すぎない程度に声をかけた。先輩はヒカリに視線を向けたが、一瞬固まってしまっていた。
「先輩? 」
「サトル!来たの?どうしたの、ヒカリちゃんみてぼーとしちゃって」
先輩は、何故か顔が赤い。今までそんなそぶりを魔女に対してはとっていなかったのに、どうしたのだろう。先輩のお母さんは、そんな先輩の様子をみて楽しげだ。
「サトルって、ヒカリちゃんのこと…………。ヒカリちゃん良い子だし、お母さんはおすすめだな」
「ち、違うって。アラキにも失礼だろ」
「いえ、そんなことは」
「あら、ヒカリちゃんも嫌じゃない?じゃあうちの息子頼んじゃおうかしら。試食のメニュー、サトルに出してあげて」
「はい」
ヒカリは先輩のお母さんに言われて、試作のメニューを先輩に持って行った。
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