第4話 序・女子高生、ミッションスタート!
「ヒカリさま、ヒカリさま……」
誰かが名前を呼んでいる。ぱちっと瞼を開くと、目に入ったのは女の子。メイドの格好をしている彼女。彼女の横に『アナ』と名前が出た。
なるほど、まさにゲーム画面。視界には自分がいる場所が右上に書いてある。『城内』とかかれたフォールド。乙女ゲームならば、ありがちな設定のひとつ。そしてメイドがいるならば、異世界ファンタジーもしくは中世ファンタジー系統のゲーム。
「アナ、ごめんなさい。少しめまいがしたみたいで」
「お医者さまにみてもらった方が……」
「昨日遅くまで起きていたから。大丈夫よ、さがってちょうだい」
「はい…………、ご用がありましたらお呼びくださいね」
心配そうに出て行くメイドのアナ。扉がしっかりしまったかと思うと、ヒカリはもう一度状況を確認しようと思った。視界にあるのは、アイコン。まさにスマートフォンのアイコンが視界の下部に配置されているのだ。そのアイコンを押そうと意識を集中するだけで、アイコンは反応する。そして「ワンダー・ラビリンス~クローバー編~」とゲームアイコンが出ているのを確認できた。扉のマークを見る限り、この乙女ゲームのことが書いてあるのかもしれない。意識を集中して、ゲームアイコンを押した。
そのアプリが起動すると、「ゲームについて」という表示があらわれた。よくゲームの公式ページにある案内にあるようなあらすじのような記述だ。ほかにゲームシステムについて。キャラクターについて、設定という表記もある。これならば、内容が簡単につかめそうだ。
『ワンダー・ラビリンス~クローバー編~
ある遠い国。その国のお姫様のヒカリ(名前変更可)は恋をしなくては、一ヶ月で死んでしまう呪いを魔女にかけられてしまった。ヒカリは本当の恋を手に入れることができるのか?ドキドキキュンキュン、甘酸っぱい恋を選ぶ?ぎゅっと胸が締め付けられる切ない恋を選ぶ?』
ヒカリは、今までの幾千のゲームの攻略知識をフル動員した。今回のゲームジャンルは異世界ファンタジー系の乙女ゲーム。お姫様設定ということだ。そして恋を二つから選ぶということは、攻略対象は2人。最初のゲームだから攻略対象も少ないということだ。いわゆるチュートリアル的なゲームなのかもしれない。
「でも軽くみたら、助けられないヤン! 」
この間抜けな声。聞き覚えがあった。なんとなくイラっとするこの物言い。ヒカリは周囲を見渡した。あんなものがいたらすぐ分るだろう。しかし部屋のなかをみても、誰もいなかった。
「ここにいるヤン!下をみるヤン! 」
やかましい声のいうとおり、下をみると、首元にネックレスがあった。かわいくなかった。胸元には間抜けのタヌキのモチーフがついたネックレスがあった。
「なんで、ここに!? 」
「ゲーム内にいたら目立つヤン!攻略人数が少なくて、簡単と思ったヤン?そんなことないヤン。攻略対象を間違えたら、即ゲームオーバーヤン。先輩は助けられないヤン!」
「なにそれ! 」
「でも確率は二分の一ヤン、本当に好きなら先輩がどっちかは分るヤン! 」
「そんなこと言われても」
「でももし先輩を選んでも、攻略できなかったらゲームオーバーヤン! 」
「あなた助ける気ある? 」
このタヌキの真意はわからない。ゲームの説明をするナビゲーターのような立ち位置なのだろうが、ちょっと間抜けであるし、女神だが魔女だかわからないが、彼女の肩をもっているかと思えば、そうでもなかったりする。心を許さずにいようと思った。
「さて、これから攻略対象に対面かしら? 内容を見てみると、好感度をあらわずグラフもないようね。パラメーターをあげるゲームでもないようだし。うん、うん、選択肢でルート分岐の簡単攻略だわ」
選択肢が正しいと、攻略するキャラクターと恋愛するための専用ルートへ入る乙女ゲームがある。スマホのアプリの乙女ゲームでも多いが、まずは攻略対象を選ぶための選択肢がいくつか出る。そして気に入った攻略対象に対して好意的な選択肢を選ぶと、特定のルートへ入るのである。攻略の鍵は基本的に攻略したいキャラクターを『肯定すること』または『選択すること』。どっちを選ぶ?といったものが多い。
「さあ、お城を探索よ! 」
そしてお姫様は出会った。2人の男性に。1人は金髪王子、もう1人は黒髪王子。まるで対照的な2人。設定的に、長男の金髪王子は明るく、次男の黒髪王子はおとなしい。このお城では簡単なお家騒動があるらしい。どちらが後継者になるかということだ。金髪王子は才能にあふれ、城内での評判もいい。しかし貴族の間では、御しやすい次男を後継者に推す思惑があるようだ。黒髪王子は、尊敬できる兄に対して後継者争いをするなど考えていない…………といったことが、設定に書いてあった。
チュートリアル的な場面で、初対面として2人に出会ったのだが、特に心ときめくものはなかった。あえていうなら、「イケメンだな~」といった感想だけ。
それはそうだ、まだ相手のことも知らないわけだし、ゲームでの攻略キャラとしてなら、何も考えず楽しめる。だけれど、今回は別だ。ゲームオーバーがかかってる。目の前に攻略キャラがいると緊張しかない。
例えるならば、画面越しのアイドルにはときめいても、実際会いたいと思わない人だっているだろう。自分はそういうタイプなのだろうとも自覚した。イケメンが目の前にいても、ときめきも特になかった。
そして対面するイベントが終わり、部屋に帰っても、やることがなかった。誰が先輩であるかヒントもなく、収穫もないまま1日目が終わってしまう。どちらの王子を選べばいいか。正直どっちでもいいとしか言えない状態だ。顔がほぼ同じで、声も金髪王子が高め、黒髪王子が低めのトーン。
「好みっていったら、黒髪王子だけどな」
やはり先輩も華やかなタイプではないし、おとなしく地道に努力を重ねるタイプの人だ。先輩の傾向と似ているなら、黒髪王子の方ではある。でも選ぶにはまだはやい。明日以降のイベントを期待しよう。そして場面は変化し、二日目のイベントへ入ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます