第2話 序・女子高生、タヌキをモフモフする
「やめるヤン、気高き妖精を勝手に触るなヤン! 」
「ごめん、ヤンヤンしか聞こえなくてわからないわ~」
とぼけて見せた。見ているとコミカルな動きで、手足は短いし、お世辞にも気高き見た目をしていない。ただぬいぐるみのようで、さわり心地は悪くない。毛並みに逆らって指を立てると、ぞわぞわと背筋がするらしく、目の前のタヌキが身悶える。
こういうぬいぐるみなら、一つくらいほしいかもしれない。
「マジマ、マジマサトルって知り合いヤン? 」
タヌキを触っていた手を緩めた。
「さあ? 」
とぼけてみた。だがタヌキは、ヒカリが動揺したのを見逃さなかった。
「君の大切なやつヤン?恋人ヤン?助けないと、マジマサトルは永遠にこの世界から出られないヤン! 」
「恋人じゃないし! 」
そもそもマジマ先輩をほのかにいい人だなとは思っていたが、大切な人まではいかない。それに恋人なんて恐れ多い。マジマ先輩の彼女になるなど考えたこともない。ただ遠くでみて、いいなあと思うだけで十分。
「大切な人でも、恋人でもない。なら前提が違うわよね?だったらマジマ先輩も、わたしも元の場所に戻して。もっと恋人らしい人とか、もっと熱烈に恋愛している人ならこの世にたくさん居るでしょう? 」
「そうなのヤン?でも君が僕を見えている時点で、女神に選ばれてしまったのは明白ヤン。一回決まったことは覆せないヤン! 」
「迷惑なんですけど! 」
「女神に選ばれるなんてそうそうないことヤン!確かに試練は大変かもヤン!でも試練を乗り越えたら、ラブラブな最高カップルになれるヤン! 」
「だから誰も頼んでないし!しかもマジマ先輩、完全に被害者でしょう? 」
「細かいことはいいヤン!とにかく、話をまとめないと次へいけないヤン!ナビゲーションする僕のことも考えてほしいヤン! 」
「うわ、本当にイラっとするわね」
タヌキの分際でと心の中で毒ついてしまう。確かに、ありがちな設定ではある。女神に選ばれて、異空間へ。タヌキの言うことをまとめれば、乙女ゲーム?の迷宮?らしきものへ、マジマ先輩が捕らわれたということだが。とにかく話を進めたいようだけれど、ヒカリはこのままではタヌキの言うとおりになるのは癪にさわった。
「わかったわ、おとなしく説明を聞きましょう。でも条件があるわ! 」
「条件ヤン? 」
「そう、間違えて女神が選んだことも考えて。もっとアイテムをくれなきゃやっていられない。いわばご褒美アイテムよ。私には先のことを放置して、このままやらないって選択肢もあるわけだし」
「ヤーン…………注文が多い人間ヤン」
「チートアイテムをちょうだい、それかゲーム設定を『イージーモード』にするかね。ゲームは好きだけれど、好みではないゲームなんてやる気出ないし。人からやらされるゲームほど楽しくないものはないわ」
「生粋のゲーマーヤン。先輩よりゲームの面白さをとるヤンか? 」
「やるからには楽しくないとね。それで先輩が助かったらラッキー、だめなら自分もろとも迷宮で果てるわ。先輩には申し訳ないけれど。一番いいのはタヌキを血祭りにあげて、女神さまに許しを請えば、助けてくれるルートも発生するかもしれないじゃない? 」
「君は真顔で恐ろしいことをいうヤン!仕方ないヤン!話が進まないからこれをあげるヤン! 」
タヌキが念じると、アイテムが手に降りてきた。可愛らしいスマートフォンだ。ピンク色でポップな色をしている。タヌキ柄らしいラブリーなケースに入っていた。電源らしきボタンを押すと、スマートフォンは起動した。そして画面では、映像でこの異空間についての紹介が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます