第17話 傷のあるパンプス
華子が、いつものパンプスを履こうとしゃがむと、傷が目に写った。
外側についたまっすぐな傷は、その辺りの色を白っぽく濁らせていた。
靴に入れかけていた足を抜くと、それを持ち上げた。顔の前に持ってきて、じっくり見つめる。
靴は、大分くたびれていた。ヒールは、すっかりすり減っていて、踵のところの縫い目が少しユルくなっていた。ストラップは、少し延びていてだらしなく、垂れていた。
「しっかり、手入れしてたのに......」
ため息をつく代わりにポツリと呟いた。目の前のくたびれた宝物は、薄くなる愛しい思い出が薄くなりつつあることを象徴しているようで華子は悲しくなる。
「創太さん......」
名前を呼んでも返事をしてくれる人はいない。
「創太さん......」
呟きを汲み取ってくれる相手はもう、いないのだ。
エナメルのパンプスにうつる自分の目をみて、華子はふっと、冷たい気持ちになる。しっかり、メイクされたそれは、大人としての自覚を持たせると共に、時間の流れを感じさせた。
創太と、いた頃は髪を染めることなんて知らなかった。靴を修理に持ってくことも、季節ごとに化粧を変えることも、何一つ。
華子は、くたびれた雨色の靴を見ながら、しばらくその場に座っていた。
「買い物に付き合ってくれない?」
そう、香織を誘ったのはそれから、一週間後の金曜日だった。
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