第8話
前回までのあらすじ
華子に恋をする星野の、華子と創太の恋を応援していたのではなかったのか、と尋ねられ香織は......
「応援したわ。なんていうか、華子を見る創太の目が、それを受ける華子の微笑が、私、好きだったの。二人の交わす美しい空気が好きだったのよ。──芸術品みたいっていうのかな。──何度も、思ったわ。創太が、私に同じ目を向けてくれたらどんなにいいかって」
香織は、星野を見つめて、唇の端を上げた。
「でもね、仮に私が華子ととって変われたとしても、──そうね──華子と創太との間に流れた全く同じ空気を感じられるかって言ったらそうじゃないかもしれないでしょう?......それじゃ意味ないのよ」
香織は、ふっと目線を緩めて、ふらりと横を向いた。
「私、結局わからないのよ。華子が好きなのか、創太が好きなのか」
星野は、ゆっくりとうつむいて、すっかり冷めたコーヒーを飲み干した。
「こんな話するつもりなかったんだけど。ごめんね、気持ち悪い女で」
香織は、ぱっと明るい表情をつくると、鞄の中身を整えた。
星野は、椅子から腰を浮かせると、香織の顔をズイっと、覗き込んだ。
「なにっ?!」
香織が驚いて仰け反ると、星野はニカッと口を広げて笑った。
「俺の女友達の中で、あんたが一番芸術品っぽい顔をするよ」
「なによ、それ」
「少なくとも、華子さんの次くらいには雨の色が似合うと思う」
星野は、探偵がするように親指と人差し指を顎に当てて真剣に言った。
星野は、香織が、自転車で角を曲がるまでしばらく手を振っていた。
秋空が気持ちいい、昼間の出来事であった。
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