第83話 ウサギ亭
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
ギルドに入るとそんな受付嬢の明るい挨拶に俺は迎え入れられる。
「えっと、ソフィー達は……」
「こっちよ! こっち!」
ソフィー達は既に受付で待機しており、なにやら受付嬢と話しているようだ。
「何かあったのか?」
「あなたがカズヤ様ですね」
「そうだけど」
俺を呼んだのは顔も知らないメガネをかけた受付嬢だ。
「ガンゼフさんから連絡が届いておりまして、もしカズヤ様がどこかのギルドに顔を出したら受けてもらいたい依頼があると」
ガンゼフ? なんでガンゼフが俺に?
「それは分かったけど一体どんな依頼なんだ?」
「それがですね、魔国の調査だそうです」
「魔国の調査?」
「はい、この連絡はガンゼフさんがいるエリンドット近郊のギルド支部全てに伝わっておりましてカズヤ様指名の緊急依頼だそうです」
「緊急ってことは選択肢は無いんだな」
「はい、申し訳ありませんが……」
「いや大丈夫だ。それよりも聞きたいことがある」
「はい? 聞きたいことですか?」
「そうだ、なんでいきなり魔国の調査なんだ? どうもそこだけが気になってな」
「連絡では理由について何もありませんでしたが、私の予想では勇者が魔国に向けて出発したからだと思います」
「勇者が出発? 魔王の討伐でもするのか?」
「つい数日前ですがエリンドット近郊のギルド全てに、国から勇者が魔国に向かうのでもしギルドに寄ることがあれば優遇して欲しいと連絡があったんですよ」
「なるほどそれでか……勇者が出発したことと今回俺が受ける魔国の調査は全く関係がないとは思えないからな。それで魔国の調査はどうやるんだ?」
「それを今から説明しますので……」
それから俺達は依頼の詳細についてギルド内にある個室で説明を受けた。
内容は単純で魔国にいる魔物の種類を調査するというものだ。
そのためには魔国まで行かないといけないわけだが幸いにもこの町はすぐ北が魔国と比較的に近い。
移動手段には困らなさそうだ。
「この依頼のことなんだけど期限とかあるのか?」
「期限ですか? そうですね特に期限については連絡にありませんでしたが勇者が魔国にたどり着く前までに達成できれば問題ないと思います」
そんなアバウトで良いのかと思う反面、急ぎの依頼ではないことに安心する。
「とりあえず依頼のことは了解した。あと聞きたいんだがこの辺りにご飯が美味しい宿とかないか?」
「カズヤ様は宿をお探しなんですか? それならこのギルドを出て右に行ったところにウサギ亭という宿があるのでそこをオススメします。あそこで出るフォレストボアの肉はもう絶品ですよ。」
「フォレストボアか……そういえばこの前食べ損ねたからな。その宿で一度味わってみるっていうのもありだな。皆
もそれで大丈夫か?」
「良いわね! ぜひそうしましょう! さぁアツくなってきたわね!」
「いい肉、夢気分……」
「二人とも涎が出てるからとりあえずこれで口元を拭いてくれ」
俺はソフィー、リーネの二人にこの前朝の市場で買ったハンカチを渡す。
「悪いわね。使わせてもらうわ」
「ありがとう……」
「そんなにフォレストボアって美味しいの?」
涎を垂らす二人の様子を見てあかりがそう疑問を口にする。
「そうだな。俺は食べたことはないんだけど二人が言うには臭みが無くてなおかつ脂身が多くて絶品なんだそうだ」
「へぇそれは美味しそうね」
「私も一度食べて見たいかも」
「じゃあ早速その宿に向かうか。いい宿紹介してくれてありがとうな……えーと」
「セシリアです。以後よろしくお願いします」
「こちらこそセシリア」
セシリアに挨拶をした後俺達は宿に向かうためギルドを出た。
◆◆◆◆◆◆
「一人部屋が一つ、二人部屋が二つの合計三部屋で二日頼む」
「五名で一人部屋が一つ、二人部屋が二つの三部屋で二日間ですね。かしこまりました、少々お待ちください」
少女はそう言ってカウンターの奥へと入っていく。
それから少しして少女が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらがお部屋の鍵になります」
俺は少女から三つの鍵を受け取る。
「ではごゆっくりお休みください」
「ああ、ありがとう。それとここではフォレストボアが食べられるって聞いたんだけど……」
「はい、早速本日の夕食に入ってますよ。楽しみにしていてくださいね」
早速フォレストボアが食べられるのか。
念願のフォレストボア、どんな味なんだろうか。
楽しみである。
「というわけだから夕食に向けて皆準備を進めるように」
「「「「イエッサー!」」」」
「じゃあ夕食がある一時間後にここで集合だ」
ソフィーとあかりの二人にそれぞれ部屋の鍵を渡す。
それから俺は荷物を置きにそのまま自分が借りた部屋へと向かった。
そして二時間後……。
夕食を食べ終えた俺達は食堂のテーブル席で談笑していた。
「はぁ美味しかったわね」
「あれは至高だった……」
「美味しいとは聞いてたけどここまでだったとは」
「もう一回食べたいな」
四人は先程の夕食のことについて熱く語っていた。
そうしたい気持ちは分かる、あれほど柔らかくてジューシーな肉だったからな。
ただいつまでもフォレストボアに浸ってはいられない。
まだ依頼のことについて詳細を詰めていないのだ。
「そろそろ依頼の打ち合わせでもしようか」
「そうね。さっさと決めて今日はもう休みましょう」
「手っ取り早く出発日と移動手段だけ決めておこう。魔国自体、全体が森に覆われていて馬車で行けないらしいからな」
「馬車が行けないなら歩きで行くしかないじゃない」
「でもな。それだと食料とか持っていけないだろ?」
「そんなの現地調達よ!」
「水はどうするんだ?」
「それも現地調達よ! 川くらいその辺にあるでしょ?」
「無かったらどうするんだ」
「そのときは……頑張りましょう!」
ソフィーと話しているとなんとも不安になるが馬車が使えない状況ではこれくらいしか方法はないのかもしれない。
「まぁ歩きでしか行けないのは事実、一人一日分は食料を持っていくということにしよう」
「あまり気は進まないけどそれしかないのよね」
「大丈夫、辛くなったらお兄ちゃんに持ってもらえばいいから」
「カズヤお願い……」
鈴音はお兄ちゃんを使いやすいパシりだとでも思っているのだろうか。
ただそれでも可愛い妹に頼まれればパシりでも何でもやってしまうのがこの俺だ。
そのときは持ってやるとしよう。
「分かった。ただしもう限界だってなったときだけだからな。それともう一つ出発日はどうする?」
「それなら宿を出ていく明後日でいいんじゃないかしら?」
「よしそれで決まりだ。じゃあ今日の打ち合わせはこれで終了とする、解散!」
俺達はそれぞれの部屋に戻り、まずは明日に備えて休むことにした。
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