第五話 民話と伝承
耳なしについての伝承・民話・説話
ポーラポーラ地方(教会に伝わる文書より)
使徒さまはいつでも、太陽の神さまの声を聞き、風の神さまの吐息に尻尾を揺らしているのです。
使徒さまは、空飛ぶ船に乗り、いつも私たちを見ています。私たちの生活を見守って、神さまに伝えてくれます。時々船から降りてきて、為になる事を教えて下さいます。
使徒さまの多くは私たちと違う言葉を使い、違う服を着ていますが、神さまと違い触れる事ができます。
使徒さまは、神さまと私たちの、間にいる方々です。
ミョイマー地方の民話
耳なしの船が低く飛ぶ日は良い事がある。探し物が見つかったり、待ちわびた手紙が来たり、腰が痛いのが治ったりする。
時々降りて来た耳なしが、迷っていたりする。道を教えてあげると幸せになれると言われている。甘い物や酒、賑やかな歌や踊りが好きだが、
サラサスーン地方の壁新聞の記事より
茜岩谷の北西部に、足を踏み入れてはならない土地がある。その地は鳥も動物も近寄る事さえしない。時折り耳を折りたくなるような大きな音がしたり、恐ろしい大きな黒い影が行き交ったりするという噂がある。
耳なしの群れを見たという証言もあり、聖地として見る人もいるが、忌み地として恐れる人も多い。どちらにせよ、他に何もない荒地なので、足を踏み入れる者はほとんどいない。
ザトバランガ地方(英雄譚の一部抜粋)
ある日、大きな空飛ぶ船から耳なしが降りて来て、たくさんの家畜や人々を連れ去った。火を吹き、鉄の塊を撒き散らし、たくさんの人々を殺した。残された人々は、悲しみと恐怖で立ち上がる事も出来なかった。
多くの村が襲われた。空飛ぶ船が見えると、人々は家の中で抱き合って震えた。
ある時、耐えかねた人々は大きな決断をした。力を合わせ、耳なしと戦う事を決めた。
各村から、選りすぐりの戦士が集められ、耳なしの言葉を話せる、黒猫が率いた。
やがて全ての空飛ぶ船を壊して、戦士たちは帰って来たが、黒猫だけは戻らなかった。
黒猫は英雄と呼ばれたが、誰も名前すら知らなかった。
▽△▽
以前ガーヤガラン(さゆりさんの娘、パラヤさんが住む街)の図書館で集めた、耳なしについての伝承や物語を片っ端から訳した。ロレンがパラヤさんの、逆引きの単語帳を使うようになってから、作業効率が跳ね上がった。
おそらく、この世界より、遥かに進んだ文明を持った人たちがいた。それが『耳なし』だろう。それが地球人かどうかは判らないが、俺は断言できる。
俺たちが暮らしていた平成の世の中で、例えばこの世界に渡る
神のように振る舞い、観光客として無責任に楽しみ、植民地として踏みにじるだろう。
俺は同族かも知れない『耳なし』を、愚かだと笑えばいいのか、情けないと嘆けばいいのか、この世界の全てに
黙り込み、考え込んでいるロレンが口を開くのが、ただ怖かった。
俺は顔を上げることも出来ずに、その場を後にした。
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