第十一話 茜岩谷へ
ドルンゾ山は
山肌が露出し、徐々に木が減っていく。羽虫の
一番わかりやすいのは、動物の体毛だろうか。ドルンゾ山やラーザに住む動物は、黒や、灰色の毛色をしている。サラサスーンの動物たちは赤みの強い茶色い毛色だ。保護色とか、そういった理由だろう。そういえばラーザの海のカニや魚は、薄いピンクや紫色をしているものが多かった。よく出来ているものだ。
街道に出れば馬車足は速くなる。途中の村で少しずつ荷物を降ろすので、馬の負担が軽くなるのだろう。もちろん敷石の街道が走りやすいのもある。
この世界の馬は頑丈で図太い。地球の馬の
俺の頰の傷は、じくじくと
ロレンやハザンに、
食事の支度や馬の世話をしながら、絵を描いたりラッカを弾いたり、ハルと勉強したり。以前と変わらない生活へと戻っている。もちろん朝晩のトレーニングも再開した。たった三日寝込んでいただけなのに、体力や筋力が驚くほど落ちていた。元通りに戻るまでは、もう少しかかりそうだ。
途中、谷狼の群れに追いかけられた。だか、ドルンゾ山で、灰色狼のとの戦闘を経験した俺とハルの敵ではなかった。谷狼は灰色狼に比べると、小さいし
「やるじゃねぇか、おめぇら!」
ハザンにニヤリと笑って言われた時は、不覚にも頰が緩んだ。コイツに褒められるのは、思いの外嬉しい。ハザンの揺るがない強さには
だがハルは違う。
「強いハザンにほめる、されると、嬉しい!」と、精一杯知っている単語を並べて言う。
ハルの嬉しさや好意を素直に表す様子を見るたびに、ナナミに似て良かったと思う。
「お? なんだよ、照れるじゃねぇか!」
ハザンが嬉しそうに、鼻に
馬車が進むにつれて、景色はどんどん乾燥地帯のそれに変わっていく。敷石が赤っぽい岩に変わり、サボテンがちらほら見えてくる。歩きサボテンを見かけた時は、ああ帰って来たなと、
街道沿いの野営地で赤い岩の上に立ち、ポンチョを風になびかせながら、ハルが夕陽を眺めている。クーが寄り添い、首に付けた小さな鐘がカランカランと鳴った。
フードは被っていない。俺とハルに耳がない事は、もうキャラバンの全員が知っている。俺が灰色狼の爪にやられた時、フードは脱げていたし、傷口を
反応は様々で、トプルとアンガーは大した事じゃない、と言っていた。ガンザはさすがに驚いていたが、長生きすると色々面白い事に巡り合うもんだなぁ、としみじみと言っていた。ロレンはある程度わかっていたようで、
「ヒロトが初めてうちの店に来た時は、フードを被っていなかったじゃないですか」と言った。そういえばそうだった。
「耳なしは、昔話や
キャラバンのみんなの態度は、俺たちの素性を話した後も、驚くほど変わらない。一生懸命隠していたことが、恥ずかしくなる程だ。
ただ、ロレンに『耳なし』は地方や人によって信仰の対象になったり、凶事や災害の象徴となったり、差別や迫害に合うかも知れないと言われた。やはり隠した方が良いらしい。
夕陽が地平線に沈んでゆく。考え事をしていたら、すっかり遅くなってしまった。焚火の周りで腹ペコ野郎どもが『ヒロト!メシまだかよ!』と叫んでいる。俺はスープを味見してから、フライパンのオムレツをひっくり返す。今日は百合根とウサギ肉のオムレツだ。
「できたぞ! 皿持って並べ!」
もうすぐ、この旅も終わり。食材をケチる心配もしなくて良い。景気良く、全部使い切ろう。
シュメリルールの街が見えるまで、あと三日。ようやくハナに会える。
▽△▽
今日のメニュー
朝 昨夜のシチューで、クリームリゾット
昼 焼きリンゴ、バナナ入りホットケーキ、赤かぼちゃのチーズ焼き ミルクティー
夜 ウサギ肉と百合根のオムレツ、ほうれん草の胡麻和え、根菜の具沢山スープ
ハナの事を考えていたら、ハナの好物ばかりを作ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます