第三章 偽耳とビークニャ
第一話 チュッチョマ族の放牧地へ
名残惜しくも
彼らはチュッチョマ族と言い、ドルンゾ山脈に住む遊牧民で、アルパカに似たビークニャ(モコモコ
チュッチョマ族。発音が難しいんだよ! 三回言ってみろと言われたら一回目で噛む自信があるぞ!
それは俺だけではなかったらしく、チョマ族と呼ばれている。
キャラバンはチョマ族にラーザの干物や塩を届け、ビークニャの毛織り物や細工物を仕入れる。ビークニャの毛は柔らかくて保温性が高く、高級品なのだという。細工物も
今の季節チョマ族はラーザ側の
通信手段もなく、統一された時間の測り方も決められていないこの世界では、約束も契約もあやふやになる。だいたいとか、このくらい、といったニュアンスで行動する。人々は待つ事にも待たせる事にもおおらかだ。
そんな感じなので、丸一日かけてチョマ族の放牧地に到着し、閑散とした風だけが吹き抜けていても、誰もがっかりしたり怒ったりしない。俺とハル以外は。いや俺たちも別に怒ってはいないが。
俺はもう『遊牧民』『山岳民族』と聞いた時点で、頭の中でケーナ(ペルーの縦笛)の笛の
俺たちがあからさまに肩を落としていると、ハザンが「なにそんなにがっかりしてんだ?」と聞いてきた。
ハルが「ビークニャ見たかった」とシュンとして言い、少数民族への
クッ! お前が日本語覚えろよ!
ロレンが来て『二日くらい待ちましょうか』と言った。また
干物の賞味期限は一ヶ月程度なので、許容範囲らしい。ロレンが頭の中でソロバンを
なぜならチュマ族の人たちには、耳がないという噂があるのだ。
もしかして地球から来た人たちかも知れない。そして、今も耳がないなら、さゆりさんに起きたこの世界の人たちとの同化の原因を知っているかも知れない。
そんなこんなで、チュマ族の放牧地の片隅で野営の準備がはじまる。山越えで標高が高くなり気温が下がると、テントでの寝起きがキツくなるので、狭いのを我慢して馬車の中で寝る。この辺りはギリギリテントを張る気温だ。
ハルはテントを、張ったり片付けたりする様子を見るのが大好きだ。筋肉兄弟の筋肉が大活躍するのもこの時だし、アンガーのロープ裁きの鮮やかさも光る。
ガンザとヤーモは森に入って小動物を狩ったり、木の実や野草を
山は季節的には春から夏に向かっているところだ。緑が勢いを増し、水は
ハルがむかごの
ようやく山芋を掘り出し、ガンザと合流する。ヤーモさんはキノコか山菜を探すと言って、のっそりと森の奥に入って行った。ヤーモはのんびりとしていて動きが
ガンザールさんがウサギを2羽と山鳥を1羽、俺が山鳥を1羽、ハルがウサギを1羽仕留めた。充分な獲物だ。俺もハルも徐々に安定して獲物を仕留められるようになり、ホクホク顔でキャラバンへと戻る。
獲物の解体をして、晩メシの支度に取り掛かるとするか。
生き物を殺して食料にする作業は、なかなかヘビーで心に来る。血が多く出る生き物は
誰かが俺たちの為に、手を血で染めていたのだ。
食べた植物や動物の、命の分まで自分が生きる。そして自分が何者かの食料となる事も、あり得るのだと受け止める。俺もハルも、この事を、じんわりと染み込んで来るように実感した。
まあ、最近ではウサギがぴょんぴょんしてるの見て、お、美味そうなウサギ、とか思うんだけどさ。人間て、つくづく慣れる生き物だよな。
さて今日のメニューはどうしよう。山芋をトロロごはんで食うか、お好み焼きを作るか。ハルに聞くと、
「お好み焼き!」と答えが来た。
ソースもマヨネーズもかつお節もないぞ?
青のりと
まずはジャコの乾物とゴマを
ハル、山芋すりおろしてくれな。あ、手、気をつけろよ。
山鳥とむかごをバターでソテーし、上からチーズをのせてまた焼く。
水で溶いた小麦粉と卵とすりおろした山芋を混ぜ、バラの花のように繊細なキャベツを、ザクザクと千切りにしたものとジャコを入れて焼く。
これで二品か。ピクルスがあるから、後はスープでも作るか。
赤かぼちゃを茹でてから潰し、ザルで
おら! 腹ペコ野郎ども! メシだメシだ! 集まりやがれ!
男所帯は長くなるにつれ、荒々しくなるな。なぜだろう?
▽△▽
今日のメニュー
朝 赤魚入り雑炊、ピクルス
昼 まん丸魚(塩漬け)のバター焼き、海藻とゴマのスープ、焼きバナナ
夜 山鳥とむかごのチーズ焼き、ジャコ入りお好み焼き、赤かぼちゃのクリームスープ
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