第52話 急変(3)


 坊ちゃんが天帝になった。


 ユェさん、リェンさん、ファさんの三人と、ダンディーおじいさんのリンさんは、そのままこれまでのお屋敷に残り、坊ちゃんの弟のバオくんを補佐する係になるらしい。

 私も宝くんの采女ツァィニュに! と思っていたのに、そうはならなかった。


 坊ちゃんが一緒に来てくれと言うのでついていく。

 そこには、金と銀の龍の刺繍が施されたきらびやかな衣装が置かれていた。

 スカートの裾を起点に、二匹の龍が絡み合い、天へと駆け上がっていく。

 二匹の龍は、胸元で咆哮を上げるかのように口を大きく開いていた。


「これを着て、式典に出て欲しい」

「はあ」


 なぜに?

 なんの説明もしようとしない坊ちゃんをじっと見つめる。

 と、横合いから覚えのある声が降ってきた。


「御堂河内さん、久しぶり」


 いつの間にそこにいたのか、横から眼鏡君の声が飛んできた。


「陶様、ご無沙汰しております」

「その衣装、何だか知ってる?」

「綺麗な衣装ですね。特別な式典用の衣装なのでしょうか?」

「そうだね。特別だね。特に女性にとっては、特別だと思うな」

「はあ」


 眼鏡君が、おやおやと言うように肩をすくめる。


「天、ちゃんと御堂河内さんに説明したの?」

「説明したつもりだ。こいつが理解したか分からんが」

「御堂河内さん、理解してないよね?」

「え?」

「ん?」

「……理解しました」

「……してないよね」


 ううぅ……。

 なによ、なによ。

 二人してさっ。

 私が何したって言うのよ!

 そんな半分いじけた私に、眼鏡君が子供に言い聞かせるように優しく言葉を紡ぐ。


「御堂河内さん、これはね、結婚衣装なんだよ」

「へぇ~。そうなんですね」


 最初からそう言ってよ~。

 なるほど。確かにそう言われてみるとどことなく気品があるような。

 ウエディングドレスみたいなものってことよね?


「で、誰が着るんですか?」


 目の前の二人が、やれやれと言うように首を横に振る。


「お前、あのなあ……」


 声を荒げた坊ちゃんを、眼鏡君が押さえる。


「御堂河内さん、君だよ。君がこれを着るんだ」

「へぇ~。そうなんですね。私がこれを。へぇ~、……はああぁぁ!?」

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