奇遇:勝手に運命かんじちゃった編
先日、電車の中で「校正」の方を目撃した。
なぜその人の職業が校正だとわかったのかといえば、まさに電車の中で校正作業をしていたからである。
それは私が出勤でよく使う沿線で、それもよく使う時間帯だった。
眠気を断ち切ろうと歯を食いしばれば、その人は目の前にいた。対岸の椅子に腰掛け、厚さ二センチはあろうかというそれを、膝の上に抱え、窮屈そうに鉛筆を走らせていたのである。
私は書籍化作業の中で、校正という作業の多くが直筆で行われているということを知った。
今やデジタル全盛の時代。こちらが提出する小説の原稿だって、きっちりデジタル品である。
それを彼らは、所定の文字数フォーマットで印刷し、そこに直接書き足して行くのである。
だから、私の手元に戻ってくるのは、手書きが施された紙の束そのものか、それらをPDF化したデータだ。
行きはワード。
帰りはPDF。
なんとも不思議だと、最初は思った。
そんな経験をしていた直後だったから、その人が校正の仕事をしているのだと一発でわかった。
本職なのか、残業を持ち帰ったのか、はたまた兼業なのかはわからない。その窮屈な空間の中、確かな品性を放つその姿に、勝手に親近感を持ったのだった。
最近、電車という空間に、少しだけ魅力のようなものを感じている。
全く違う人生を歩んでいる人が、そこそこの時間を、あの窮屈な空間で共有する。
その中には、自分に近しい生き方をしている人もいるかも知れない。
そんな出会いしか無い空間なのに、誰しもが無言を貫いて、ただただ揺られている。
そこに出会いや運命を誰も感じない。
気が付かないのだ。気づく余裕が無いのだ。
その背中に背負い込んだものが重すぎるのだ。
行きは憂鬱を。
帰りは疲労を。
なんとも不思議だと、最近は思う。
とかなんとか考えて、通勤の苦痛を和らげようとしている、今日このごろです。
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