第4話 救難
つぶさに観察した結果、どうやら、ここにいる高校生は全員同じクラスの生徒のようだった。
しかも、誰一人欠けていない、全員無事と云う話……。
俺以外の生存者は全員同じクラスのやつら……。
生存者と云う表現にも語弊があるか……、あの旅客機の中にも、その周辺にも死体はない、
うしろ半分で千切れた旅客機と、その周辺に散乱する荷物類……、あるのはそれだけ……。
つまり、行方不明者はいても、現時点での死者はゼロと云うことだ。
あの大破した旅客機を見て死者がゼロだなんて、誰が想像できる? しかも、火災すら発生していない、そんな事、信じられるか?
違和感しかない。
「みんな聞いてくれ」
と、相談し終わったのか、東園寺が俺たちが座っている輪の中央に歩いていく。
「人見と話し合った結果を発表する」
彼が全員を見渡しながら話し始める。
「無闇にこの草原から出て行けば二次遭難の危険性が極めて高くなる。なので、ここで救助隊が来るのを待つことにする。で、どうやって俺たちの場所を知らせるかだが、焚き火、狼煙がもっとも効果的だろう。そこで、男子諸君にはこれから全員で薪、焚き木の収集を行ってもらう、もちろん俺もだ、全員でやる、出来うる限りの薪をかき集めてでかい狼煙にする」
賢明だな。
ここは直径数百メートルの草原、その草原は深い森によって包囲され、さらにその深い森の向こうには高い山々がそびえ立っている……。
あれはちょっとやそっとじゃ走破できん。
「女子諸君には食料の調達、夜に備えての毛布類の調達を行ってほしい。そうだな、徳永、綾原、両名に指揮を執ってもらいたい」
「うん、わかった」
「了解……」
ポニーテールの元気が良さそうな子と頭が良さそうだが冷たい感じのする子が返事をする。
「よし、それでは作業開始! 家に帰るまでが修学旅行だぞ!!」
と、東園寺が大声で作業開始を宣言する。
「おう!」
「頑張ろう!」
それに対して高校生たちが元気よく返事をする。
薪拾いか、しょうがない、俺もやるか……。
俺は立ち上がり、男子生徒のあとに続いて歩きだす。
「あ、ナビーはこっちだよ?」
と、夏目に呼び止められる。
「あ?」
「こっち、こっち」
夏目は笑顔で手招きし、女子グループに俺を連れていく……。
おっと、そうだった、俺はナビーフィユリナ・ファラウェイ11歳だった……。
「それじゃぁ、私たちは食料と毛布拾いね」
と、女子グループの輪に加わると、そんな声が聞えてくる。
「とりあえず、レトルト食品とか、あとはまだ飲めそうな水、ペットボトル類、毛布はそうね、この際衣服とかでも、なんでもいいからあったかそうな物を集めましょう」
話しているのはポニーテールの子、確か徳永とかいう子だ。
「怪我している人はいないみたいだけど、具合悪くなったらすぐに言ってね。あとそっちの子は大丈夫? 休んでいてもいいのよ」
と、もう一人の指揮官、冷たそうな子、綾原が俺を見て言う。
「あ、大丈夫です、何かお手伝いさせてください……」
俺は少女らしくかぼそい声で答える。
「そう、無理はしないでね……、それでは始めましょう!」
「はぁい!」
「よし、やろう!」
と、女子たちが広場に散っていく。
俺はまず、最初に自分が倒れていた場所あたりの捜索から始める。
そう、俺が持っていた拳銃とナイフを探すためだ。
あれを高校生たちに渡すわけにはいかない。
落ちている物のほとんどは紙類、雑誌類だが、中には歯磨きセットや文房具類などもあり、俺はそれら拾い上げて何かに使えないかと考えてから、適当に放り投げる。
「あ、ナビー、仕分けしながら探しましょう、あとで何かの役に立つかもしないから」
と、夏目が言う。
「うん、わかった……」
俺は放り投げた歯磨きセットやソーイングセットをもう一度拾い、一箇所に集めていく。
「紙、雑誌も焚き木の代わりになるかもしれなから、ついでに集めちゃいましょう」
「うん、そうだね、あとゴミもいっぱいだから、全部集めよっか?」
「いいね、そうしよう!」
と、女子グループがてきぱきと作業を進める。
俺もそれにあわせて片っ端から物を拾って仕分けしていく。
それにしても、拳銃とナイフはないな……。
もしかして、旅客機の中に残っているって可能性はあるか?
俺は旅客機に近づく。
近くで見る旅客機は思った以上に破壊されており、ほとんどスクラップ状態になっていた。
「よくこれで生きていたよな、俺たち……」
口を空けて旅客機を見上げる。
窓ガラスはすべて吹き飛び、外装も引き裂かれ、引きちぎられ、内装が剥き出しになっていた。
俺は手頃な隙間から中に入ろうとする。
「駄目、中に入っちゃ駄目」
と、綾原に止められる。
「火災は発生してないけど、いつフラッシュオーバーで爆発するかわからないから入っちゃ駄目」
フラッシュオーバーの可能性はない、あるとしたらバックドラフトだ、それでも可能性は限りなくゼロに近いが……。
「うん、わかった……」
と、思っても引き下がるしかない、俺がハイジャック犯だと疑われたらかなわんからな。
極力少女の振りをしなければ……。
俺はとぼとぼと引き返し元の作業に戻る。
作業を数時間ほど続けると、周辺に落ちている物はあらかた片付いてきた。
見ると、仕分けも行われており、女子数人でさらにそこから壊れている物とそうでない物の仕分けまで行われていた。
一方、男子グループはというと、薪拾いも終り、今は広場の中央で草むしりをしながら焚き火の準備をしていた。
その近くには薪を大きさによって分別した山が三つある。
しかし、この高校生たちって何者なんだ? なんで、こんなに組織だっているんだ?
あいつら全員利口そうな顔しているし、あれか、進学校ってやつか? たいしたもんだな……。
俺は感心しながら彼らの作業を見守る。
「よーし、じゃぁ、火を着けるぞ」
と、赤髪の彼、東園寺が積みあがった焚き木のそばに行く。
彼の手にはティッシュやノート、あとはライターなども握られている。
それで、火を着けるのだろう。
全員が固唾を飲んで見守る。
東園寺は紙類を雑巾絞りの要領で棒状にひねり、それに火を着けて焚き木の中に放り込んでいく。
やがて、もくもくと煙が上がる。
そして、ちらちらと炎が見え始める……。
「よかったぁ、ライターもあったんだね……」
「うん、これで、助けが来るね」
「どれくらいで来るかな?」
「発見されたら、すぐ?」
と、みんなが焚き火を見ながら話し合う。
炎の高さはすぐに2メートル以上となり、白い煙もまた高々と天に昇っていく。
「これなら、ひと目でわかるよね!」
「ああ、すぐに助けが来るぞ」
「一時はどうなる事かと……」
あとは待つだけか……。
ぼんやりと炎を見ながら考える。
夕方になり、俺たちは昼間に集めた食料、レトルト食品や菓子パンなどをいただき、救助がくるのをじっと待つ。
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