第24話 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ?♀▲

「ばっ……バカッ!! ハナコ、ハナコっ、大丈夫なのっ!?」

「先生ッ、ケガは無いですか!? ……うわわわっ! セルリアンがガケっぷちに……! 這い上がってくるよう! ど、どうしましょう~っ! 『くるま』は川に沈んじゃったし!」

 カラカルとヘビクイワシが、坂道を駆け下りてそばに寄ってくる。




「ア、アンタぁ……あんな無茶苦茶な事やらかしてェッ!! なんでよっ!!」

「……奴を倒さければ……使だッ!! で済むならっ!!」

 カラカルが、私の剣幕と語気の強さにたじろいでいる。


「ちょっと落ち着いてっ、アツくなりすぎっ! どうしたのよ急に!」

「わ、私は冷静……落ち着いて――ぐぅっ……痛ぁっ……!」

「アタマが!? ハナコ、アタマ打ったのかっ!?」


「私は……悔しいっ! 悔しいんだっ……! やれ『伝説のヒト』の知恵だの、何だの、ちやほや褒められたところで……セルリアン相手に、何にもできていなくてッ!」

 そう一気にまくし立てると、額から鮮血が噴き出る……。

 ブシュウゥッ……という、吐しゃ物を吐き捨てるかのような、重い水っぽい音と同時に……絵の具を吹き付けるかのように、そばの岩にべったりと塗布される液体。せ返って嘔吐したくなるような、強烈な鉄の臭い……。この夕暮れの中では、その実際の色彩はほとんど分からないが……鮮やかな赤い液体に違いないと、脳内変換されて着色される。


「うわあぁあぁっ!! 血いぃッ……すごい血がぁっ……!! やっぱりアタマをケガしてるっ!」

 返り血を浴びたカラカルが、目の前で恐怖の表情を浮かべる。


 さっき車から飛び下りた時に、頭を打ったのか……。


 額というのは皮膚が薄く、血管がすぐ頭蓋骨に接しているため、ちょっとのことでも流血する部位だが(プロレスでも見ている人なら、よくわかるだろう)……それにしても、これはすごい出血だ。目を開けていられない……。


「た、『たおる』をっ! 血が出たときは『しけつ』でありましょう! 押さえなきゃ!」

 ヘビクイワシが大きな耳に巻いていたタオルを私の額に押し付けて、圧迫止血を試みる。

 ……そんなこと、誰に教わったのだろう? もしかして私がのを真似しているのか?


「あ、ダチョウ、ヒロラ、なんでココにいるのか分からんが……とりあえずアンタらで、セルリアンの足止めをお願いっ!」


「だっ、大丈夫なんですかあっ、師匠はぁっ!?」

「ダチョウ! あたしたちで、あのデカいセルリアンを何とかしないと! カラカル、ヘビクイワシ、お前らでケガを看てやってくれ!」


 声が、どんどん遠くなる……。




 思考が、記憶が、精神が……混濁する。

 すぐそばの大河の奔流のように、すべてが混ざる……。

 さっきから、まともに考えられない……。


『生命とは、等価交換だ』


 が脳裏に浮かぶ。

 これは頭部の負傷のせいか……?


『お前が死ななかったから「敵」が死なない』


 幻覚幻聴のたぐい……?

 それとも、これは「過去の記憶」? 私が「生前」に聞いた言葉なのか?


 脳内にぐわんぐわん……とトンネル内のように反響する声。

 それは遮断機の警戒音のような。救急車のサイレンのような。

 お気に入りの歌の歌詞のように、だが不快さと、現実感と、奇妙な説得力を伴って、私の頭蓋骨と耳骨の間とをいったりきたり。ずっとリフレインし続ける。


『「奴」を殺したければ、自分が死ぬことだ』


 妄想だ。以前にも……あの戦車セルリアンに殺されかけた時もこんな……。

 こういう時に限って……追い詰められたときになって、自分勝手に現れては、次々に語るだけ、語って、さっさと私の頭から消えていくのだから、本当に性質たちが悪い……。




 …………。 

 雨。夜。光。部屋。無機質な白い照明。

 続いて、が、脳の視聴覚野を支配する。


 少女。少女。男。


 海馬:それは記憶を司る部位。

 偏桃体:攻撃性や恐怖に関与する部位。


 銃。硝煙。排莢された空薬莢。リノリウムの床の上を転がる。

 病院……?


 いやそれは大脳辺縁系というよりも、大脳旧皮質から……。


 死体……。血だまり。頭部と腹部の銃傷。

 白い服の男……。化学防護服?

 撃ち抜かれた部屋のドア……。


 つまりこれは、私の「獣の記憶」の奥底から呼び覚まされるような……。


 少女が泣いている。それは私だ。

 少女が叫び声をあげると、私の叫びに重なる。




 無関係のイメージの連続写真……。映写機……。幻灯機……。

 本当に無関係の?


 くそっ、混線したラジオのお次は、まるでか……。


 それともこれは走馬燈……?




 此岸から彼岸へ……。

 このまま私は「川を渡る」のだろうか? 


 それならせめて、もうちょっと「楽しい思い出」を映して欲しいんだが――







「――ナコ! ハナコ! 良かったぁッ、気づいたぁっ!」

 私は死ぬのか……と思っていたら、意識が現世に戻ってきた。


「良かったぁッ! 良かったぁッ……!」

「血がだいぶ止まってきましたっ! フレンズのカラダでよかったですっ!」


 そのうち視覚の焦点が定まってくる。

 見ると、鼻の先でカラカルが泣きそうな顔をしている。そばに羽毛をぼろぼろにしたヘビクイワシもいる。


らなければっ……セルリアンを……!! ……刺し違えてでもだっ!!」

 寝起き一発、そう喋ると、ふたりのフレンズはビックリした顔をした。


 混濁する意識から、冷静な思考を立ち上げようと試みる。

 ひとつながりの感情と動機が、しだいに脳内でまとめ上がっていく。

 ……それは怒り。焦燥。義務感。無力感。


「ま、待てっハナコ! 何考えているか知らんケド、ムチャなやり方はだめだからねっ!」

「そうですとも! あせらないでくださいよ! ……ちょっとずつだけど、確実にセルリアンを追い詰めてますっ! 少しずつ、一歩ずつ一緒にがんばりましょう! 『三歩進んで二歩下がる』とかばんさんも言ってますしぃ!」

 カラカルとヘビクイワシがあせって反論する。


「そうだ! どーしてもヤバくなったら、みんなシッポ巻いて逃げればいいんだっ!」

「そうでありましょう! ハナコ先生! キズはふさがっても、体内のサンドスターはだいぶ減ってるハズですから、ムチャしないでください!」

 彼女らの真剣な面持ち。


 ……だが、私だって、真剣そのものだ。


「ヒトらしく、話がすこし長くなるけど、よく聞いてほしい……」

 そうゆっくり喋りかけると、ふたりのフレンズはうってかわって黙り込む。


 カルネアデスの板。いや、「トロッコ問題」のほうがふさわしいか。


 時間が無いのは分かっているが、については、話さなければいけない……。




 一呼吸おいてから、再び語り始める。


「ずうっと思っていた…………と」

 ふたりは、まさに?という顔をしてる。怪訝けげんな表情というやつ。


「私の知る『ヒト』――いや『人間』と言うべきか――貴女あなたがたフレンズは、私の知る『人間』というしゅよりも、……タマを張る価値があると……」


「つ、つまり……どういう……」

「たま?」

 私の故意のまわりくどい表現に、カラカルとヘビクイワシが不穏さを感じ取っ手、たまらず口をはさんだ。


。文字通りの意味で。そういうがあるんだ」

 私は単刀直入に言った。


「ダ、ダメっ! いきなり何を言ってんだよっ!」

 私の言葉をさえぎって、強く否定するカラカル。




「もうみんなとお別れなのは残念だけど……」

「そうだ!! あたしだって、そうだっ……!! だからやめてよそんなこと言うのは!!」


「『』って、カラカルも言ってたでしょ」

「ええっ!? いや、アタシはそんなこと……言ったかな? ……いやダメダメ!! 言ったかもだけど、ダメなものはダメェ!!」


「ヤツから逃げて、このまま放置しておけば、大勢の犠牲者が出るだろう……フレンズも……。私には、それが耐えられない。……。簡単な計算……」

なんか……全然分からん!! そんなのクソ喰らえよっ!」


「大きな数から小さな数を引き算する……。ヘビクイワシさんは、このは分かりますよね……」


 私が話しかけると、ずっとぼうっとほうけていた彼女は「え」と我に返ったように驚く。


「え……え……あの、わたくしは……」

 ぼそぼそと区切って、しかし強い意志を感じる口調でヘビクイワシは言う。


「わ……わたくしは……今……です」




「わ、わたくしは……フレンズのみんなに……勉強は、『知ること』は……とても楽しいことって、みんなに知ってほしかったから……。そ、そんな、って、数えるような……みたいに計算するような……」


「ハナコ先生……いえ、…………わ、わたくしは…………。いやだから、その計算はまちがいでぇ……ぃや……わたくしは、いやだからぁ……そんなこと……うううぅぅ……。や、やめてって、に、言いたいけど……でも、うまく言えなくて……。ハナコに、ちゃんと……やめてって言いたいけど……うううう! わたくしが……も、もっと頭が、よければぁ、ちゃんと、言えるのにぃ……」

 彼女の独白は、途中から涙声まじりのものに変わり、最後のほうはほとんど聞き取れなかった。


 私の発言は、彼女の価値観を――今までに「善きこと」と思っておこなってきた行為を、全て否定している。


 だが私は強い調子で自分の覚悟を告げた。


「ヘビクイワシさん……悲しませてしまって、本当にごめん。でももう時間が無い! 今から『最後の作戦』を話すから!」


「いいかげんにしろぉッ! 何でも言うこと聞くと思ってンじゃねェッ!! アタシたちはじゃないっ!!」

 カラカルが憤って野生の獣の咆哮をあげた。


 ヘビクイワシは、泣いている。

 今までに見たことが無いような、悲しい顔で。

 いや、私の手がセルリアンによって傷つけられて怒ったときも、同じ顔だったかもしれない。

 今は、私がヘビクイワシさんの心を傷つけている。


「アンタのこと、すごく大好きで、すごく頼りにしてた…………がっかりさせんじゃえッッ!!」



 ああああ、なんて痛いんだ……。

 手首を噛み切られたり、どてっ腹ぶち破られたりするより……いちばん痛いぞ。


 しかし私は無視して話を続けた。

 そうしなければいけない。


「あのどうしようもなくヤツを川の水に叩き込むには、あの『カルガモのバス』に私独りで乗って突撃を――」




 私の最終作戦のブリーフィングは、突然に遮られた。




 突然。

 目の前が真っ暗に。


 カラカルに




「ぎゃーっ!! いでェーッ!!」

 覚悟できていない予想外の痛みには、人間は脆弱だ。

 彼女の口が顔から離れた瞬間、私は思わず大声を出す。


「にゃアっ!! どうだ痛いかぁっ!! ついでにこれでも喰らえニャギォラァッ!!」

 ドゴォッ……と、間髪入れずに指を曲げた掌打でのフック――要するにが、視界外から飛んできた……。


 それは今までのネコ的な動作と言うより、人間的な……。カラカルは、昼間の「ティータイム」にて、アードウルフへの「護身術講座」で私が教えた内容を覚えていたのだろうか? まったく興味無さそうにしていたけれど……。


 まともに喰らって、脳が震える。視界が躍る。

 吐きそうなほどに、感覚も、記憶も、精神も、揺れる、揺れる。


「ななな、いきなり何するッ!?」

「うるさいっ!!」

「ほんと何すんだよバカッ! ケガ人殴るなっ!」


「やっぱりこの手段に限るわね! 以前まえもそうだったけど、ときは、とりあえずっ!」

「わ、私はポンコツと違うぞっ!」


「噛みつく時に大口を開けたから、こっちだってアゴが痛いわよ!」

 そう言うカラカルの……右手の指が曲がっているではないか!


「あ! バカ! さっき私を殴ったときに……! どうして……!?」

「当たり前じゃない。だって『サンドスターのツメ』を出して叩いたら、アンタ、大ケガしちゃうでしょ」

「バカッ! そういうことじゃない!」

「そっちがバカでしょ! もう無茶苦茶ばっかり言いやがってェっ!」




「あのぉ~……お取込み中いいですか?」

 突然、湿地の草むらを走ってきたアードウルフが会話に割って入ってきた。


「なんだよっ!」

「なによっ!」

「ひぃ~ッ! ふ、ふたりとも……すっごくこわいですう! どうしたんですかあ! ヘビクイワシさんはなんか泣いてるし!」

 アードウルフがすっかり怯えている。


「くええぇぇ~~~……!! ら、らってぇ~……!! ふぁにゃこせしぇんしぇ~がぁ~……きゅーにしぬとかいうからぁ~……!!」

 ヘビクイワシが怪鳥音のような泣き声まじりで説明する、のように、目の周りを真っ赤にして。


「よく分からんし、こわいけど、でも言います! セルリアンが崖から登ってくるから、わたし達も何とかしないとぉっ!」




「く……分かったよッ!! ように、超絶かしこい『作戦』でセルリアンをやっつけてやる!!」

「いいぞぉ!! その意気よ!! 約束だからねっ!!」

「おうよっ!! ヒト、ウソツカナイ!! ……おしっこチビるほどスゲェ~、『人間様の闘争たたかいい』ってヤツを拝ませてやるともっ!!」

「ウワーイッ!! かっこいいですぅ~!! がんばりましょ~、はにゃこしぇんっしぇ~!!」

 今泣いたヘビクイワシがもう笑った。




『人間は感情の生き物である』とは、誰の言葉であったか……?


 だが、フレンズは人間以上に「感情の生き物」か……。

 呑気にも、そんなことを一瞬考えた。







 アードウルフの指摘したとおり、あの崖から流れの速い「大きな川」へと落ちていったヒュドラ・セルリアンが、触手から水を噴射させて、そのジェット水流の勢いで崖を登っている途中だ!


 カンムリヅル、ダチョウ、ニシキヘビ、ナイルワニら……他のフレンズ達も、セルリアンを再び落下させようと交戦中だが……その巨体を押し戻すことはままならない!




「お、ハナコ殿、おぬしケガは大丈夫なのか?」

 ホバリング飛行しながら、私たちのほうを振り返るホオジロカンムリヅル。


 だがそこにセルリアンの触手の二連撃が襲う!


 だが、その初撃をかのような、後ろヅメでの「踏み付け」で捌き! そして一撃目の影から迫る追撃の触手を、初撃を踏み台にしてジャンプしてからのキャッチ! 体操の鞍馬あんばのように!

 そこへ接近零距離からの膝をたたき込むッ! 飛び回し膝蹴りで迎撃ぃッ!!


 名付けてこのフェイバリット・ホールド! 鳥フレンズ閃光魔術「シャイニング・ウィ」だっ!


「や、やりますねぇ……!! もうセルリアンの扱いにゃあ慣れたもんですねっ!!」

「フレンズらぶ!」

 着地して、両手の指を例のクチバシのように形づくって、鳥類の両翼を広げる威嚇のようなポーズ(あるいは武藤敬司のようなポーズ)を取るカンムリヅル。

 なんだそりゃ?


「や~、あんまりではないがのう……。で、何だかでモメてたようじゃが、片付いたか?」

「ま、まあ……無事うやむやになっというか――」

「だいじょぶだ! 全然問題ない!」

 歯切れの私に代わって、カラカルが返答した。




「お~師匠、ケガは平気ですかあ?」

 と、そう言うダチョウに迫るセルリアンの攻撃!


 触手の振り回しの連続攻撃をダチョウは……最初をバックステップで避け、しゃがんで二段目を回避!

 さらにそこから地面に手をついての低い姿勢で……!


「でりゃあぁ~~ッ!!」

 低めの軌道を描いて斜め下に撃ち込まれる触手を、アクロバティックな上段後ろ回し蹴りで、上方へとベクトルをはじき反らしての迎撃!


 カポエイラの「メイア・ルーア・ジ・コンパッソ」、あるいはムエタイの「センチャイキック」のような……。


 フレンズ達のエネルギー「サンドスター」の虹色の残像が、技の軌道として残る……。長い脚が、まるで長い首のように見える……ダチョウのシルエットを思わせる蹴り技! なんと美しい……。


 やや荒っぽすぎるキリンやカンムリヅルの足技や、テクニカルなヘビクイワシのそれに比べて、流麗さの点においてはダチョウが一番なのだ!

 華麗すぎるぞダチョウさん!




「こいつぁすごいぜダチョウさん! もお私、そのステキすぎるに大興奮ですよ!!」

(けっしてハイキック時にセクシ~めなパンツが見えてるからではないぞ!)


「おほめいただきの限りですが……。でもどうにもこーにも、このセルリアン、さばんなでもめっちゃつおいキリンさんですら勝てない、とかいう相手ですからねえ……。私のの実力では、触手をどうにかするのが精いっぱい……。どーしましょー師匠? 良い『ネタ』はないですかあ?」


 ……え、師匠ってやっぱり私のこと?

(私、なんか師匠っぽいコトとかしたっけ? ……やはり頭部負傷による記憶障害か?)




「作戦ならありますとも。あの『カルガモのバス』に乗って、ギアをニュートラルにして、坂を下ってあのセルリアンに自滅覚悟で突っ込む玉砕作戦――」

 と言うと、カラカルとヘビクイワシが厳しい表情をして、じろりと横目でにらむ。


「――ぇ~……。イチかバチかだけど、川に沈んだ『バッテリー』をどうにか拾い上げて、それでバスを動かすことができたら、車を操れれば、勝機はあるかも……って思うんだけど、やっぱりムリかなぁ。動かないかもしれないし……」


 と、私が言うと……。


 ざっぷ~んっ!

「マナティーにまかせてちょうだいなの!」

 川の中から陸に上がってきたアマゾンマナティーが名乗りを上げた!


 ばさばさっ! ぴちゃぴちゃ!

「川の中の探し物! ぜひともお願いされたいうーっ! 鵜匠の頼み事なら、なおさらだう!」

「そうよね! お魚捕まえるよりもカンタンなんじゃないかしら!」

 水中から飛び上がって、地面で羽をバタつかせて乾かし、ウミウとカワウも頼りになることを言ってくれる!







 ……というわけで、「ばってりー引き上げサルベージ」作戦の開始だ!

「車のバッテリー」の外見の特徴を伝えて、マナティーとウのフレンズの三名が川に潜り、その回収に赴く!


「よし! 私たちはあの子ら『潜水組』の援護をしよう! 何か飛び道具で、河岸のセルリアンの注意を引こう!」


 だがここで問題点!


「……でも拳銃程度じゃなぁ……。弾弓で石っころ飛ばしてもたかが知れているし……。さっき車から降ろしたMG42マシンガンを持ってくるか……?」


 私が悩んでいると、ダチョウがパッとタマゴをどこからか取りだして言った。

をぶつけましょう!! ダチョウのタマゴは分厚くて硬いのですよぉ~!」

「え? いいのソレ? ダチョウさんが、自分でお腹を痛めて生んだタマゴを……?」


だからだいじょーぶです! 挿入れてされなければ、なんだそうですぅっ! 博士が言ってましたあ!」

「ぶフゥっ……!! なななな……!! おおおッ、女の子がそういうこと言っちゃいけませんッ!!」


 ダチョウさんの唐突な謎セクハラ発言に戸惑うんだけどぉ~……。


「このダチョウにお任せくださいっ! だちょ~……きいぃーーっっくぅっ!!」




 無精卵ボール相手のゴールセルリアンに、シュウゥゥゥ~~~ッッ!!

 超!! エキサイティン!!


 サッカーやアメフトの精密なシュートの如く!! ダチョウの「タマゴ・ロングパス」だァッ!!


「すげぇぜ……ダチョウさん! さあ、追撃で二発目のタマゴを!!」

「あ……今から……ちょっと(ヌギヌギ)……待っててくださいね……」

 唐突にタイツを脱ぎ始めるダチョウなのだ!


「ウワ~ッ!! ちょちょ……!! こんなところでそんなっダメェッ!!」

「産ませてよ!! あの日のように産ませてよ~っ!!」




「ヒッ! ヒッ! フ~ッ!」

「がんばれがんばれ!」

「ダチョウさんがんばれー!」

 ラマーズ法ふうの呼吸をしながら出産するダチョウと、応援するフレンズ達……。

 なんとシュールな光景……。


 こういう時は、男が出る幕は無いものだ……。

 いや、一応女の子だけどな私……。




 彼女を尻目に、私は他のフレンズ達と協力して、さらなる作戦……「セルリアン大砲」作戦を実行に移す!




 フレンズ達にブイセルリアンと例の『鉄の殻』をあつめてもらい、私も導火線の準備をする。

「それは『バクハツセルリアン』ですね。さっきのように『硬い殻』につめて、バクハツで攻撃するのでありますか?」

 ヘビクイワシが尋ねる。

「いいえ……もっと効果的な使い方……! ヌートリアさん、あそこの川岸の、丘になっている地面を下さいッ! お願いします?」

「ぬ~?? なんだか分からないけど、水辺の穴掘りなら、わたしにお任せ~!」




 ヌートリアが掘ってくれたのは、製鉄遺跡の古来の「野だたら」を思わせる横穴……硬い地質の土だが、よく重機のように掘れるものだ。つくづく思うのは、驚嘆すべきフレンズのパワー!


 丘を貫通する形の横穴の少し奥に、「硬い殻」に「ブイセルリアン」を詰めたものを、小柄で(さらに狭い所が好きだと言う)アードウルフが配置する……。

 しかし今回は、殻の一ヶ所を……。底につまようじで穴を開けたようなタマゴのような形状である。


 先刻のように、ブイセルリアンの身体に導火線をセットして……その先端を穴から出してから、大きな石を運んできて、穴を塞ぐ。


┏━━━━━━━━━

┃◎         → → → ●

┗━━━━━━━━━


 位置関係はこんな形になるかな?

 穴の片方がふさがっていて、そこの行き止まりに導火線とガス爆発セルリアン。

 もう片方が開いていて、その開口部の先には敵――ヒュドラ・セルリアンがいるという……。




「燃焼材、殺傷用の『硬い殻』、長い筒……。火薬、弾頭、銃身! つまりこれは『銃』なんだよ!」

「うわー、『じゅう』って、こんな仕組みだったんですねぇ~!」

 私が説明すると、顔を土で汚したアードウルフが感心して言った。




 シタツンガ、ウォーターバックの水辺フレンズコンビが――キリンから「足」を返してもらってから――カラカル、ヒロラ、ニシキヘビ、ナイルワニとともに走り回って、セルリアンのオトリになる。

 キリンと私とでセルリアンの動きを観察し……「発射口」から直線状の、ちょうどいい位置にヤツが着た瞬間……カンムリヅルが「ケェェェン!!」と、ひときわ大きな「ツルの一声」での合図を上げる!


「オトリ組」はこれを合図に、セルリアンをその場に居付かせる。

 丘の「発射口」の反対側にいるヘビクイワシは、「セルリアン砲弾」の導火線に「火縄」で着火! 石のフタをしっかり閉める!



「ドッッグォォォン!!」と、フレンズ皆がけもの耳を塞ぐ大音響の「銃声」とともに……「横穴」の銃身ロングバレル内を進む際に、燃焼ガスによって十分に加速してから、ヒュドラ・セルリアンに放たれる「セルリアンの銃弾」!!!!


 まるで魔法の銃弾!! 爆発力が逃げる方向を一点にしぼった分だけ、先ほどの「手榴弾」よりも、はるかに凄いパワー!

 あのセルリアンの鋼鉄の装甲をぐにゃりとへし曲げ、弱点の「へし」を深々と突き刺し、数メートルほども押し出すその威力の凄まじさ!




「ウワーッ!! すっごーいっ!!」

 キリンが喜びと感嘆の混じった歓声を上げる。



「よしっ! まだまだセルリアンと『殻』があるから、さらに追い撃ちだ! ……こいつらには何の罪も無いが、……!」

 ひとりごとのように、ブイのセルリアンにそう語りかけたが、連中は相変わらずの無表情な視線を私にむけるばかりであった……。


「つみれおにくで、ひをおにくまんじゅう、よ……」

「なんだキリン、そのは? あいかわらず間違って覚えてる……」


「私たちみんながだから……あなただけが、そんなに気に病むことはないわよ……」

「……慰めてくれて、ありがと……」




 フレンズたちそれぞれにを負わせた、この「共同作業」は、セルリアンに大きなダメージを与えているぞ!


 あの装甲を可能な限り傷つけてから、川に突っ込ませて、浸透圧で破裂させて殺してやるッ!

 身体を膨らませて苦しんで溺れ死ねッ!!


 さあ、そのためには、さらなる攻撃をっ!




 と、そこへ、ダチョウが空気を読まずに駆け寄ってきた。

 小脇には、ラグビー選手のごとくタマゴをかかえて……。


「ハナコさぁ~ん! 生まれましたぁ! たまのように元気なですよう! むせいらんっつーのは、オスののぶっかかってねェタマゴのことですよぉ!」

「し、知ってるわい、そんなの! えっちな発言は、だめですよっ!」


「認知してよ! コンドルに乗せてよ!」

「『ごっつええ感じ』ごっこは、もういいですってばぁっ! どこで覚えたんですかそんなのッ!?」

ですよお~」


 光明が差し込んできた戦いの行方と正反対に、私の中の「フレンズ文化の謎」は深まるばかりであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る