第9話 汚れっちまった悲しみに★♀▲
【パンデモニウム(英:Pandemonium)】
大混乱,狂騒,無法地帯;伏魔殿,地獄,悪魔の巣窟
――17世紀の英国の詩人、J.ミルトンの造語
満月の夜の下、狂気の沙汰の人間裁判はもうちょっとだけ続く。
ああ……それにしても、妙なことになった。
「ヤギのハナコ! はよオシッコ出せ! 飲むから!」
「いやだ!」
今まさに、裁判官キリンの手によって……いや、口によって、被告の証拠が採取されようとしている……私の貞操が窮地に追い込まれんとする。
「いやがるとこがますますあやしい! あ、確かアナタ毛皮が取れるんだったわね。よし、お尻のを取ってやる!」
「やめんか変態! ド変態キリン!」
「わたしは虫じゃないわよ!」
「うるさいバカキリン!」
「犯人に告ぐゥ! みんなの前でバカよばわりやめなさいっ! むだなていこーはやめて出て来るのよ! しんみょーにおなわにつけいっ!」
衆人環視の飲尿プレイはご遠慮願いたいのですがっ!
あっー……。
頼みの綱のカラカルは……案の定、面白いものを見るように目を闇夜に輝かせ、私たちの絡みを高みの見物としゃれ込む予定らしい……。ヘビクイワシもやはり同様に静観し、自説が証明される過程を眺めるつもりだ……。アードウルフはオロオロとどうすべきか迷っている様子で……。他のフレンズは、しげしげと我々を観察するものもいれば、興味無さそうにしているものもいる……。
ご存知のようにキリンの膂力には類稀なるものがあり、下半身の脱衣を余儀なくされるのであった……。
「……不思議ね。ハナコ、シッポが無い。……なんかここ、すべすべしてるのねえ……」
「やめてよ……汚いから……」
「気にしないで、私は気にしないから。んー……ここがおしっこ出る穴かしら……? 舐めれば出てくるの?」
……そっちは出す穴じゃなくて……むしろ入れる……いや、やっぱり出る穴かな……?
……いや……いったい何を考えているんだ……私は……?
予期せぬ展開に対して、思考が混乱している様子。
「ダメだってばぁっ! そこは……その穴にはトゲあって危ないんだよっ!」と、私は混乱ついでにおかしな出まかせを言った。
ちなみに……歯が生えた穴「ヴァギナ・デンタータ」という神話的概念は世界中の文化圏に存在し、精神分析学においても重要な意味を持つらしいが……この時の錯乱した私がどういった心境で、こんな意味深な嘘をついたのかは、定かではない。
「……針と糸の密室トリックね? トゲ……望むところ! アカシアの木のトゲで慣らした、私の舌さばきを見せてやろうじゃないの! ヨォーシ!」
ヨーシじゃねえよ!
ああっ! 乱暴はやめて! このけだもの!
まあ、実際けだものですもの……。
「はいはーい。キリン、そこまでにしときなさい」
……闇夜に紛れ、いつの間にか背後に回り込んだカラカルがそう言い放ち……私が制止する暇も無く、気づけばすでに、キリンの後頭部に攻撃を加えていた……。
言うなれば、空手の掌底打ち下ろし――指を折り畳んだ手の形での手首の骨「手根骨」による打撃――平たく言うと、肉球ネコパンチだ。
「がりでぶゥっ!」と悲鳴をあげて、舗装されたアスファルトへと顔面から叩き付けられるキリン。
だ、大丈夫か? キリン……受け身も取れずに、やばい倒れ方したけど……。
カラカルさん……あなたもキリンほどではないにせよ……たいがいパワーあるから……。
まあ、キリンだから別にいいか……。
「あいだだだ……なな、いきなし何するのよぉっ、カラカル!」
あ、良かった……キリン、生きてるね。
「あたしも面白そうで見てたクチだから、エラそうなコトは言えないけど……泣いてる相手を乱暴に、ってのは、やっぱり良くないんじゃないかしら?」
「……!?」キリンが私の方を振り向く。
「あ……」
……必死すぎて気が付かなかったけれど……手のひらで顔を拭うと、そこには水分が残っていて、サバンナの夜の乾燥した風を受けると、ひんやりと冷たくなる。
……涙も鼻水も出っぱなしで、大層みっともない風体じゃないか。ついでに下半身は脱げてるしな。
「ハナコ、人前でオシッコするの恥ずかしいんでしょ。あんた昼間に『といれ』で出会った時も、そんな風にしてたから」カラカルが私に語り掛ける。
そういえば、今朝そんなこともあったな……。色々な事が起こりすぎて、ずいぶん前のように思えるが……。
「つまり何かを隠してるワケじゃなくて……たんにイヤだっただけなのよ」とキリンに向き直って解説するカラカル。
「え……そうなの……ハナコ? カラカルの言うこと、本当?」キリンが先ほどと打って変わって、自信が無さそうに尋ねる。
「ハイ……ああされるのが、嫌だっただけで……」
「すごくイヤがってたから、すごくアヤシイと私はにらんだんだけど……」
「それは単に、すごく嫌だったから……」
「うもおおおおーっん!! ごめんなざああいいーーっ!!」
うわっ!! キリンが突然ものすごい大声を張り上げて泣き出し始めた。
「や、やめて……。お願いだから、泣かないで。私はもう気にしてないから……」私はひどく面食らってしまった。
「でもっ、でもでもぉっ!!」
「私はもう大丈夫だから……。ね、夜も遅いし。キチンと『嫌だ』って言わなかった私も悪いんだから、ね。泣かないでよ。キリンもぶっ叩かれたから、これでおあいこだよ……」
「ずびっ!! ……そ、そう? ホントに気にしてない?」
「ハイ。本当に気にしてません」
「わ、分かったわ! 私、泣くのは止めて、ハナコにおしっこを飲ませる!」
は……!?
「さあ、お尻の毛皮を全部取ったわよ! 好きなだけ舌で舐めてちょうだいっ! がんばって出すから!」
「いやいやいやいや!!」
見せんでいいから!! 早く履いて!!
「私がしたように、同じことをするのよ! じゃないと私の気が済まない! おしっこ出すから飲んで!」
「どういうことか、全然わからん!!」
「げっひっひ! あんたら、すっごーいおもしろ!」
カラカルがカラカラと笑っている。
……そういえば……。
「ちょっと待て、キリン! ……キリンが私を脱がす、カラカルがキリンを叩く……とすると次は、私がカラカルに何かするべきでは?」と、私は建設的な?提案を思いつく。
「あっはっは、なにそれー? 全然わかんなーい!」
「……カラカルさん……アンタの尿を飲ませてもらおうっ!」
「わあー、あはは、やめてよー」
「ヨォーシ! ハナコ、手伝うわよ! それ捕まえたっ!」キリンの加勢だ! 頼もしいぞ!
「おのれカラカルもうゆるさん! 脱げー! おしっこ飲んじゃうぞー! がおーう!」
「うわぁー、二対一なんて汚いわようー! くすぐったあいっ!」
「よいではないか~!」
「あ~れ~!」と、キリンと私に服を引っ張られて、くるくると回転するカラカル。
私たちはカラカルのスカートを脱がすために帯を……帯を……回し……え……? 帯なんて無いけど……今、何を引っ張って回してるんだろ……?
……どうして回転してるんだろ……? どういうことなの……?
いや、わからん!
まあいいか!
「あの~……お取込み中、もうしわけないんですがぁ~……」と、後ろからアードウルフの気弱な声である。
なんですか? 今忙しいんだけど?
アードウルフちゃんも回されたいのかな~?
あれ、なんか私、すっごいキモくね……? 満月にあてられたせいか?
「いやー……あの、『さいばん』のほうが……」
あ……すっかり忘れてた。
「うげぇ!! きもちわるっ!! げろっぴ!!」
「ぎゃあ!!」
「グエっ!!」
「きゃー!!」
カラカルが回りすぎてネコゲロった!!
私と、キリンと、とばっちりでアードウルフは、虹色の洗礼を受けるハメになった。
……で、結局、討議の結果、もちろん私は気は進まなかったが、草むらの陰でビニール袋(例の民家から拝借してきたシロモノ)に採取したサンプルを、キリンの舌で分析してもらうハメになったのだが……。
「どうですか? 『にょー』のせいぶんに『はつじょう』のちょーこーは見られますか?」ヘビクイワシが興味津々に尋ねる。
「……うーん……じつを言うとね、よく分からないの……何でかしら? 同じキリンのことじゃないと、分からないんだと思うわ。つまり、『ハナコはキリンではない』ということは確実よ! 裁判は一歩前進した!」
……さんざん話を大きくしといて、得られた結論がそれかい!
かくして「被告人がヒトか否か」の議論は振り出しに戻った……。
「口から火をはいたりできる『かばんさん』と同じヒトでしょ~? にしてはよわそーすぎじゃないー?」
「うーん。でも、アードウルフも『ハイエナのなかま』だけど、よわいからね」
「ハ、ハナコさんはわたしと違って、強くてたくましいフレンズなんですよっ!」
セーブルアンテロープとスプリングボックとアードウルフが、こんな会話をしている。
……それって『カバンサン』が、アメコミ並みに超人類すぎるだけだと思うが……。
「『ヒトが良いか悪いか』というのは、『サバンナハナコが良いか悪いか』とは、かならずしも同じモンダイではないと思います」と、ヘビクイワシがもっともな事を言う。
「『良い動物か、悪い動物か』はともかく、ハナコは『面白い動物』だと思うわ!」
「うむ。我もそれに同意だ」
体調が回復して法廷に復帰したカラカルの発言。バーバリライオンと意見が一致したらしい。
ね、ねこじゃらし的存在かい……私は……。
あと、さっきから「頭突き」かましてくるのはやめて、ふたりとも……毛がふさふさして気持ちいいけどね……。
「やはり、『ひこく』は『おしりが好き』という点が見逃せません……」と、自説にこだわるヘビクイワシ。
「ヨシ! カモノハシ! 見せてあげなさい!」
「まかせて! 私のシッポらけっとを見て!」
キリンの一声により、スカートをめくって尻尾を見せてくるテニスウェアを着たフレンズ……水鳥じゃなくて、カモノハシだったのか……。
「あれえ? なんで興奮しないんですか?」怪訝な顔をするヘビクイワシ。
そう言われてもねぇ……それは見せパン。アンスコでしょ。
ハートにキュンキュンこねえんだよな。
「次! 行きなさい、グラントガゼル!」
「さばんなを走って、きたえまくったお尻だよー!」
アワワ、アワワワワ!! グ、グラントガゼルのスカートの中身が!!
ワワ、アワワワワ……か、可愛い顔して……過激すぎる下着……Tバック……!!
こいつぁ……刺激的すぎる……。
うーん、ばたん。
「あっ、びっくりして倒れちゃいましたよ」
「全然お尻が好きじゃないわよ。むしろ怖がってるじゃない。『死んだふり』トリックかしら?」
ヘビクイワシとキリンが反応に困っている。
いや、怖いよ。怖いですよぉー。
まんじゅうこわーい。スベスベマンジュウガニは目に有毒。
「面白いわねえー。こういう子と遊ぶのがイイのよね。……ほんと、フレンズの身体になって、食べて寝て遊ぶのは、楽しいわねえ」
「おう。人生
カラカルとバーバリライオンが、私を手でふみふみ――パンをこねるような動きをして遊んでいる……。
く、くすぐったい!
あっ、そこは揉んでも、何も出ないよ!
「あれ? ハナコはなんでフレンズなのにオッパイ無いの?」
うるせぇバカヤロー! 知らねえよっ! そんなん私が聞きたいわ!
「だ、大丈夫ですか、ハナコさん! はなぢ出てますよ!」
い、いや……大丈夫でない……今日生まれたばかりのおこさまフレンズには、ちょっと刺激が強すぎて……。
このようにして……法廷での流血試合は佳境を迎える……狂気、狂乱、狂騒、ここに極まれりといった混沌の様相を呈し始めた。法廷が「無法地帯」とはこれいかに……。
「うにゃっ! フギィ! ふぎゃあああっ!」
「ぎゃあぎゃあっ! ぐがぁああ!!」
クロアシネコとラーテル……あいつらまた喧嘩してるのかよ……。
今夜は満月。その影響だろうか、フレンズ達はテンションがやたら高くて(私も含めて?)、収集がつかなくなってきた……。誰か、この大混乱の裁判に、終止符を打ってくれるものは、いないのだろうか?
いや、いるにはいたのだが……それは動物でもフレンズでもない、法廷への闖入者に他ならなかった……。
「……! ……これは……! デカいのが来たわ……! 血の臭いが凄い……!」
「……くんくん……
今までじゃれ合っていたのとは別人のように、カラカルとバーバリライオンが豹変する。
瞳孔を可能な限り丸く拡大させ、深淵の闇の中の、同じ方を向き直り、私に見えないものを一心に探る。またその大きな耳もせわしなく動かしながら、さらに敏感な鼻も駆使し、遠方にいるらしい敵を見つけんとする……。
その大きく開かれた瞳は、文字通り光り輝いている……月の光や大看板の照明の反射ではない……丸い瞳が小さな満月のように発光しているのだ……。
同じくして、夜目や嗅覚・聴覚に優れるフレンズ達が、敵を探知し始める。
「ひっ……あ、あっちに『セルリアン』がいます……! 大きなやつ……!」
アードウルフが私の服にしがみつき、例の単眼の怪物に恐怖している……。
夜行性のフレンズほどは夜目が利かない私でも……遠方に巨大なシルエットが確認できる。すぐそばのアカシアの木と比較すると、相当な巨躯――体高は3、4メートルはありそうだ。
その巨体が月の光に照らされてみるみる大きくなる――高速で近づいて来る!
どうやら裁判は判決が出ないままおひらきのようだ……。
アフリカニシキヘビとナイルワニが驚愕している。ふたりには、熱を探知する能力があるらしい。ヘビがそうだというのは聞いたことがあったが、一部のワニもそんなことができるのか。
「やつが『ピット器官』の間合いに入った……セルリアンの身体に張り付いて冷たくなったものは……形からすると……シマウマやレイヨウの子供だったもののようだが……だが、これは一体……」
「どういうことだ? ハイエナのアゴだってこんなのは無理だ……どうやったら、こんな身体になるまで……まだ
それを聞いて、グレビーシマウマや、オグロヌーやインパラ達――レイヨウのフレンズが、軽い悲鳴を上げた……。顔が蒼ざめて見えるのは、月の光のせいだけではあるまい。
それから時を置かずして、集まったフレンズ全体に不安と恐怖が伝染していく……。
「ど、どうしよう! せんせい! セルリアンよ! 戦わなきゃ!」焦るキリンは、敵を迎え撃つべきだと主張する。
「いえ、ここには戦えない子もいるし……かといって、バラバラに逃げても、あいつにやられた動物みたいに犠牲がでるかも……それに、われわれのような『やこうせい』でないフレンズは不利……ああーっ、どうしましょう!? ハナコっ、あなたはどう思いますかっ!?」ヘビクイワシが私に尋ねる。
「マズいな……距離が近すぎる……いったん皆で、あの『大看板』の足場に登って、避難しましょう。セルリアンと戦うにせよ逃げるにせよ、まずは様子見です。あの体の大きさなら、高所に登ってこれない可能性が高いし、あいつの様子を明かりの下でよく見ておきたい」
キリンとヘビクイワシはうんうんとうなづいて、私の意見に同意する……。
ジャパリパーク『サバンナ地方裁判所』前の大看板は、とても大きなもので――広告を入れ替えたり、照明器具をメンテナンスするためだろうか――高所に足場があり、人が昇れるように梯子が設置されていた。
私たちはフレンズ達を先導し、足場へと梯子を昇らせる……。
もっとも、ジャンプ力ぅ……でひとっ跳びのカラカルや、手足の裏の粘性の吸盤で壁を歩けるイワハイラックス、頭の羽で?飛行できるヘビクワシなどは、その限りでは無かったが……。
広告照明で、私たちのはるか足元でライトアップされているもの……それは、動物の死骸の赤と白の、不吉で野蛮な文様で彩られた
「きゃあああっ!」
「デカいし、しかもからだが赤いヤツっ! ヤバいっ!」
道中で惨殺した獣たち、シマウマやレイヨウの死骸が、まるで戦車に潰されたように平たくなって、惨たらしく前面に張り付いている……その細かく砕かれた白い骨……息絶えてから間もないことを示す、鮮やかな赤の血肉や内臓……黄色く、どろりとギトギトした網目状の脂肪組織が、ボロボロになってまとわりついた赤い巨躯……照明光と月光で、ぬらぬらと輝いている。
奴が動くたびに、逆さになった頭蓋骨や、ツノや、あちらこちらにぶら下がったヒヅメが揺れて動き、がらがらと寂しげな音を立てる……。
物言わぬ無惨な姿になった動物たちは、暴力的な攻撃で身体を引き裂かれ、一撃で即死したようだ……。
……どうやったら、こんな
セルリアンの、動物で言う背中に当たる部分――身体の最高部――そこに位置する大きく異様な眼球がじろりと動き、上に位置する我々フレンズ達を見つめている……。
「ひいっ……ううっ……おええ……」
「ぐうぅっ……うげぇ……」
スプリングボックやグラントガゼルなど、何人かの草食獣のフレンズが、かつての仲間の辿った、眼下の酸鼻極まる惨状――その唾棄すべき光景に耐えられず、嘔吐し始めた。虹色に光る吐瀉物――吐き戻した胃の内容物には、超物質「サンドスター」がまだ消化されずに含まれているのだろう――が下へ落ちていく。
その硬い甲羅に覆われたその胴体は……サイやアルマジロのように有機的でもあるし、あるいは戦車の複合装甲を思わせるような鋭角じみた無機質さを兼ね備えている。また、数えきれないほどある、ヒトのそれにも見える細い脚の束――ある種の法則性によって、機械仕掛けのような精巧さで、決して絡まることなく、規則的に動いている――その精密な動きは、ダンゴムシのような甲殻類、あるいはムカデやヤスデのような多足類を思わせる。
こいつは、昼間に見かけた青色の大型草食動物セルリアンと同型の個体……だが、体色が赤い点で異なるし……それに一番目を引くのは、その眼球の異常な色彩……満月の暗示する狂気を反映するかのように、怪しく虹色に光り輝いている。
「こいつは、デカいだけの大人しいセルリアンのハズなのに……」とカラカルが訝しがり、ヘビクイワシやキリンもそれに同意する。
この種のセルリアンが、このように動物やフレンズを襲撃するのは、ありえない行動らしい。
……よく見ると眼球のまわりには、血管のような、ツタ植物のような、細い物体が絡みついて繁茂し、眼球部分をメロンの網目の筋のように覆っている。その「細い物体」には、節のように盛り上がって太くなった部位が何か所も存在し、そこにも同じような眼球が存在して、こちらを上目遣いに覗いているではないか……。
まさか、別のセルリアンが取り付いているのか……寄生しているのか……?
そうなのか……この「異常行動」の理由は……?
大型機甲セルリアンは、エビが後ろに跳ねるように……あるいは、戦車がキャタピラを逆回転させて後退するように……器用に素早く後ろに下がっていく……。
どうするつもりだ……こいつ?
いや……そういえば昼間にカラカルから聞いていたこいつの特徴は――。
やばいッ!
「みんなッ、危ないッ!! 伏せて足場の端に掴まれっ!!」
「え? ハナコそれってどういう――」
装甲車両のようなセルリアンは……もし動物であるならば頭部があるべき場所の穴から――そこには、セマルハコガメなどのある種のカメのように、フタがついている――やはり、カメの頭部のような首―――戦車の回転砲塔のようにも見える――を出したかと思うと……。
看板の土台へ向けて砲弾を撃ってきた。
「うわああああっ!!」
「きゃあああーーーっ!!」
耳をつんざく砲撃の轟音とともに、激しく揺れる足場。
体内から何を撃ってきたのかは分からないが、閃光は無かった……火薬によるものではない……だがしかし恐ろしい威力だ!! 下を覗くと、看板の基部が半円形にひしゃげて、同じ形にまわりの地面が吹き飛んでいる!
戦車の砲弾のような投射物か!?
クソッ!! ミスった!! 高い所に登れば安全だと思ったがマズかった!!
これじゃ逃げ場がないっ!!
クヌギの木を蹴っ飛ばしてカブトムシを落とすみたいに、あのくそったれセルリアンは、よおく狙撃できるように後ろにバックして、ああやって看板の根元を撃ちまくって私たちを落とす気だ!!
あるいは、あの威力をかんがみれば、クヌギの木が蹴り倒されるほうが時間の問題かもしれない!!
畜生ッ!! あのセルリアンの野郎は知能が高いと判断していい!!
戦車の
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