「力」の正体

「……さて、やることはわかってるよね? Unfinishedの皆様?」



 ジュノンは意識を失ったアリアをウタの隣に寝かせれば、そういい、残った四人を見る。『やること』は、Unfinished全員、理解していた。

 今、無防備に寝ているアリアと、その隣で息絶えているウタを、守らなくてはと。今精神はウタの中にいっているとはいえ、肉体を破壊されたらもちろん死ぬ。二人が無事に還ってくるまで、守り抜くのだ。


 例えウタの力で一時的にディランの力が押さえ込まれているとしても、すぐにまた取り込まれる。そうなれば、殺しに来る。

 そのときは、すぐにくる。



「……なぁ、フローラ」



 ポロンが、フローラに声をかける。フローラはその声に振り向けば、声をかけられたその意味を知る。……そして、ぎゅっとその手を握った。



「……大丈夫だよ。私も同じだから。ね? ポロン」


「…………おいら、こわいんだ。だっておいらは、ウタ兄とアリア姉がいなかったら……帰る場所、ないんだ」


「……私だって、コックスさんはいるけど…………でも、アリアさんもウタさんも、一人しかいない。だからね……すごく、怖い。信じてるけど、でも、もしも帰ってこなかったらって……」



 孤独な二人。その隣でまた別の二人が、似たようなことを話していた。似て非なることではある。共通しているのは、『あの二人を失いたくない』ということだ。



「……ウタたち、帰ってくるよね?」


「……きっとな」


「絶対って言ってよ」


「…………」


「…………ごめんね、ドラくん。ドラくんだって、不安なのに、僕ばっかり……」


「いや……気にするな」



 人ではない二人は、空を見上げながら、ぼんやりと、そんなことを話していた。主人を失えば、途方にくれる。主人が帰ってきたとしても、もう一人がいなければ、今まで通りとは言いがたい。


 幸せな、とはとても言えない人生を送ってきた四人は、今のこの幸せを失うのがあまりにも恐ろしく、前を向こうにも上手く向けず、上を見上げるか、俯くかしか出来ない。

 そんなUnfinishedを見つつ、個性の塊'sはちらりと顔を見合わせる。


 ――来る。



「ガーディア!」



 テラーがバリアを張り、第一打を防ぐ。それをきっかけに、再び激しい攻防が始まる。ディランは再び光を失い、剣を振りかざし、魔法を放つ。

 ポロンはディランの剣をナイフで受け止め、なんとかやりすごす。……と、死角から、闇魔法の槍が飛んでくる。それを避けることは、彼にはできなかった。



「ポロンっ!」



 フローラが、ポロンを庇おうと飛び出そうとする……が、その背後に、ディランが立つ。

 気づいたときにはすでに遅く、剣がフローラに襲いかかった。



「ガーディアっ!」



 テラーの声が響く。しかし間に合わなかったのか、ガーディアを張ることが出来たのは、ポロンの方だけであった。ガーディアを張れなかった代わりに、フローラへの攻撃は身を挺して守った。剣はテラーの肩を貫いたのちにその手に握られていた短刀に弾かれた。



「てっ、テラーさん!」


「あー、大丈夫大丈夫。これくらいは余裕だからさ」



 そう誤魔化すように笑いながら、立ち上がる。傷は深いが、個性の塊'sにとって大したダメージはなく、ケロッとしている。

 そして、回復魔法を唱えようと、その傷口に手を当て、「ケアル」と一言詠唱した。


 その瞬間、テラーは驚いたような顔をしてその場に崩れ落ちた。その場にいたフローラとポロン、そして、瞬時に異変に気づいたジュノンが、テラーに駆け寄る。



「テラーさん……?!」


「お、おいテラー!?」


「……喋れるよね?」



 ジュノンが話しかければ、テラーは小さく呻きながら顔をあげる。そして、苦しそうに微笑んで見せた。



「テラー、チョコレートいるー?」


「…………ちょっと、待って……」



 テラーはチョコレートを受け取らず、ゆっくりと息をする。そして、



「……はは、こりゃ参ったね…………」


「…………分かりやすくいうと?」


「回復魔法が逆効果……」


「…………」



 個性の塊'sの中では、若干予想していた部分ではあった。魔王が扱う『力』は、人間誰しもが持っている感情。すなはち、『生きたいと思う気持ち』なのではないか。もしもそうならば、『生きたい』と思って使った魔法は、すべて、魔王の思うままにされてしまうのではないかと。



「……バリアが大丈夫で、油断したね……」


「ん……まさか、回復魔法使えないとはね、ぇ……」


「……ちょっとだけ、休ませてほしい、かな……」


「いいよ? アリアさんたちの隣に行って……あー、魔法いける?」


「それくらいはね」



 テラーがその場から消えれば、いよいよジュノンは頭を抱えた。あちらと違い、こちらは回復魔法なしだ。回復薬はあるものの、数が決まっている。



「完全なる消耗戦だなぁ、これ」



 こちらが消耗し終わる前に、二人が帰ってこなければ、敗けは確定する。そして世界の終わりも、破滅も、絶望も。



「ウタ兄たちは、帰ってくるから……!」


「…………」


「おいらたちは、それを信じて戦うだけだいっ!」



 ……あぁ。

 負けたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る