危ない

 ポロンくんが調べてきた場所の辺りに行ってみると、そこは薄暗く、じめじめした空間だった。

 確かに殺人鬼が住み処にしていそうではあるが……僕はそこから、ドラくんの気配を感じることができなかった。



「ここじゃないのかなぁ……?」


「いや、ポロンが手にいれた情報は正確だし、ポロンが情報を読み違えたってこともないだろう」


「……昔はいたけど、今は別の場所にいる……とかですか?」


「…………いや。でも……」


「ウタ?」



 僕はその場を、少し歩き回った。……人のいる気配はまるでない。ということは、そもそもここは人通りの少ない場所のはず。ニエルが隠れ家にしていたくらいだ。もしかしたら、人が通るのなんかまれで、いつもは来ないのかもしれない。



「……ねぇ、リードくん」


「なんだ?」


「この辺りって来たことある? 通ったこととか……」


「いや……ねーよ。こっちの方は大人が行くなって言うから」


「……だよね」


「だとしたらどうなんだ? なにかあったのか?」


「……これ、見てください」



 僕が指差したのは、地面だった。そこは舗装もされていないような土の地面で、まだ新しい足跡があった。僕らのものとは違う足跡。このタイミング……。



「足跡……か」


「……ドラくんのかな」


「分からないけど、可能性は高い気がする」


「でもここにはいないんだろ?」


「うーん……。でも、ここには来たっぽいんだよなぁ…………」



 僕がそんなことを悩んでいると、不意に、アイテムボックスから何かが飛び出してきた。それを手に取るとそれは……歩くマンだ。



「単語帳じゃないんかい……」



 しばらく触れていなかったそれを開くと、画面に『アップデートデータがあります』と表示された。



「アップデート……?」


「なんだ、あっぷでーと……って?」


「中身が新しくなるってことですかね、簡単に言えば」



 何がどう変わるのか全く読めないが、とりあえず、アップデートボタンを押してみる。すると、端末の再起動が起こり…………。



「……なんじゃこりゃ…………」



 『おみくじ』アイコンが追加された。



「おみくじ……?」


「ウタ兄、おみくじって、くじ?」


「あー、うん、まぁくじ……かな。

 神社とかに行くとやっててね、引くと大吉とか中吉とか凶とか書いてあって、それで運勢を占うんだよ。アドバイスみたいなのも書いてあって……」



 瞬間、僕はまさかと思った。

 まさか……引いたおみくじに応じてヒントがもらえるとか……そんなシステムじゃないよね?



「……とりあえず、引いてみます」


「ウタさんが何を思ったのかすごく分かりました」



 僕は、おみくじのアイコンを選び、押してみる。すると、『おみくじを引く?』『はいorイエス』という文字が。……引けと。

 はい、を選んで押してみると、一瞬画面が暗くなった後に、テテーン! という効果音がして、おみくじの内容が表示される。


『今日のあなたの運勢は~小吉!』


 微妙である。


『探し物……遠くにあるでしょー! あ、でももしかしたら近くかもしれないねー! ラッキーナンバーは749と31! 忘れないで、グッドオーシャンフィールドを!』



「……なんだこれ、ヒントか?」


「ヒント……ってほどのヒントでもない気がしますけど」


「探し物は以外と近く……それになんだよ、この数字」


「数字だけのヒントとか……分からないな」


「まぁ、普段から分かりづらいヒントばっかりなんだけどね」



 実質的なヒントは数字が二つのみ……。これ、どうしたらいいんだろう。



「…………あ」


「ん? どうしたの、フローラ?」


「いや、前にも数字のヒント……ありませんでしたっけ?」


「……あったか?」


「さぁ…………?」


「南に50、東に90って……」


「……あ」



 そうか、そういえばそんなのがあった。ハンレルで、人身売買の現場を突き止めるのに、歩くマンの位置情報を使って……。



「……歩くマン」



 僕は、半信半疑で位置情報確かめる。



『ひっさびさに開いたねー。たまには遊びに来てもいいんだぜ?

 グッドオーシャンフィールド本店までは北に24、西に745!

 グッドオーシャンフィールドは常に良い商品を揃えております!』



 数字も近い……これは、間違いないかもしれない。北に31、西に749の場所……もしかしたらそこにドラくんが…………。



「……行ってみるか」


「はい、行ってみましょう。リードくんは……」


「お、俺?」


「戦闘の心得、あるかな?」


「炎魔法と、剣術は使える」


「……いざとなったら逃げる。または助けを求める。この約束でならついてきていいよ。置いていってもついてくるんでしょ?」


「う、うん! 俺ついていくよ!」



 それじゃあこれからそこに向かってみよう……そう思った僕は、ふと気がつく。

 昔の場所に、彼はいなかった。そして、ドラくんもここに来た形跡がある。……しかし、ドラくんは歩くマンを持っていない。それでもニエルに辿り着いた……と仮定すると、一体、どうやってそこに行けたのだろうか。そんなスキル、ドラくんは……。


 ……ドラくんのスキル、鑑定したこと、なかった。

 『龍王の加護』って、なんだ? それは、ニエルの場所が分かるようなスキルなのか? それともまた別物なのか?


 ……ふと、歩くマンに文字が表示された。


 『早くしないと危ないよ』と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る