久しぶりの

「……よし、こんなもんか!」


「おぉー!」


『これなら人を集めれば大丈夫。お手伝いさんもちゃんと住める。助かった』



 まだまだ綺麗とは言えないような有り様ではあるが、取り敢えず歩き回っても大丈夫なくらいの状態にはなった。これでとりあえず一段落つくだろう。



「まぁ、壊したの……だいたい僕かブリスかディランさんな訳だし……」


「我も多少壊してしまったからな」


「まぁ、困ったときはお互い様だ」


「そっか。ありがとう」



 ロインはそう笑うと、不意に時計に目をやった。時間は夕方の5時半を回ったところ。空はだんだんと赤く染まり、やがて闇に落ちていく時間だ。



「Unfinishedは、今日泊まる場所とかあるのかな? もし無いなら僕らのところに」


「いや……な?」


「うん、今日は泊まるところ、決めてあるんだ。さっきスラちゃんに連絡してもらったからアポもばっちり」


『野宿しないならいい。最近ゆっくり出来てなかったはずだから、ちゃんと休むといい』


「そうだな。ありがとうレイナ。そっちもゆっくり休んでくれ。ここを出るときにまた顔を出すよ」


「うん、そうしてくれると、こちらとしてもありがたいです」



 そうして、僕らはクラーミルの城をあとにした。

 ……宿は、泊まるのが目的の施設ではある。実際、僕らも泊まる場所がなければ困ってしまう。しかし、今日向かう宿に行くには、ちゃんとした理由があるのだ。



「……改めて、お礼を言わなくちゃな」


「あのときは逃げるしかありませんでしたからね」


「やっぱいい人だったんだな!」


「私たちからもお礼したいです!」


「そうだねー、お礼するって言うのは大事だと思うぞ!」


「ですよね、やっぱりおさくさんもそう思いますよね……っておさくさん!?」



 いつぶりかの唐突な登場に久々にビックリして声をあげると、その反応に満足したように笑いながらおさくさんはアイテムボックスをごそごそと漁る。



「いやー、最近忙しくて稼ぎがなくてさぁ……」


「もしかして非売品……というか、がらくた……?」


「あったー!」



 そして、おさくさんがバッと取り出したのは……クッキー?



「こちらにありますのはー、何の変哲もないクッキーでございます!」


「…………」


「…………」


「……え、それだけ?」


「うんそれだけ」


「お主のことならこう……食べたらどうなるとか言うかと思っていたぞ」


「ジュノンにシアン化カリウム練り込まれてなくて良かったね!」


「しあ……なんだそれ」



 待て待て待て。アリアさんたちは分かっていない様子だが、シアン化カリウムってあれじゃん! KCNじゃん! 青酸カリだよ! 毒だよ!?



「まー、このクッキーはテラーがタルト焼くときに出た二番生地だからね。変なもの入ってないし普通にいける。なんならチョコおまけにつける」


「……みょうに気前がいいな」


「つけるからこれ銀貨1枚でどうだ!」


「いや高いわ!」



 ちょ、チョコレートとクッキーで1万円くらいってことだよね!? 無理無理! 高い!



「頼むよー整骨院行くお金がぁー」


「いや、あるだろ個性の塊'sになら」


「なんなら貰えそう……」


「うーん、あ、じゃあ分かった! いいことを教えてあげよう!」



 そういえば、グッドオーシャンフィールドショッピングには情報がつきものだった。久しぶりすぎて忘れていたが。



「……まぁこれ、いい情報か分からないけどね」


「え?」


「今から君たちが向かう国、パレル。今から言う言葉を聞いたら、すぐに逃げるように」



 そして、少しだけ怪しげに微笑むと、言葉を紡ぐ。



「一に右足、二に左足、三四は腕で、五は頭」


「…………その言葉は」


「……ドラくん? どうし」


「はい! このクッキー買う?! イエス! オア、シュアー!」


「「しゅ、シュアー!」」


「しゅあー!」


「スラちゃん、私たちはお金無いんだからシュアーもなにも、ないんだよ?」


「ウタに買ってもーらう!」


「えぇっ?!」



 ……ドラくんは、昔パレルで、何かあったのかな?



「…………」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 おさくさんからクッキーとチョコレートを受け取り、僕らは宿へと向かった。そこに辿り着くと、いつかのように、優しく迎えられた。



「アリアちゃんたち! よく来てくれたね! 大丈夫だった?」


「あぁ、私たちは大丈夫だ」


「おばさんこそ、怪我、大丈夫ですか?」


「あの回復薬がすごくてね、すぐに治ったよ」



 そう言ってニコニコ微笑むおばさん。……あのとき、個性の塊's以外で、クラーミル国内で僕らが無実だと信じてくれた、唯一の人と言っていいかも知れない。



「おばさん! 久しぶり!」


「お久しぶりです」


「ねぇ、おばさん! ウタたちのこと信じてくれたんでしょ?! ありがとう!」


「みんな偏見でしか物事を見れなくなっていたからね……。でも、私は君たちが悪い子だってどうしても思えなくてね」


「……おかげで僕ら、また勇気を出せたんです。本当にありがとうございました」



 おばさんはそんな僕らに優しく微笑んで、手招きした。



「おいで。明日にはすぐに次に行くんでしょう? 美味しいものたくさん食べてってね。そうだ、キッシュでも焼こうか」


「ぼく手伝うー!」


「ありがとう。じゃあ、そこで手を洗って――」



 ……どこか懐かしい。久しぶりの平穏だった。

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