一狩り行こうかのぉ

 夜、僕らはポロンくんが連れていかれた洞穴の前に戻ってきていた。入り口のところには見張りと思われる人物画二人。その奥の方にわずかに灯りが見える。



「なるほどのぉ。確かに、ポロンが言っていたのは正しいようじゃ」



 不意に先帝が呟く。



「全部で11人か。二人が見張り、四人が寝ていて、五人が商品の見張りか。捕らえられているのは30人程度か?」


「な、なんでこそまで分かるんですか?」



 僕が訊ねると、先帝は自分を指差した。



「鑑定してみればいいじゃろが」


「あ、していいですか?」


「もちろんじゃ」


「私も気になるな、先帝のステータス」


「よし……鑑定!」




名前 ヒョウ


種族 人間


年齢 64


職業 元将軍


レベル 92


HP 27000


MP 10600


スキル アイテムボックス・透視・暗視・威圧(超上級)・剣術(超上級)・体術(中の上級)・初級魔法(熟練度8)・闇魔法(熟練度5)・炎魔法(熟練度7)・雷魔法(熟練度6)・土魔法(熟練度4)


ユニークスキル 斬擊


称号 元将軍・亀の甲より年の功・喫茶五月雨隠れファン




 ……頼む、突っ込ませてくれ。亀の甲より年の功はまだいいとして、



「え、先帝! 喫茶五月雨好きなんですか!?」


「あそこの栗羊羹がうまくてなぁ……! 城を抜け出してでも食いに行きたいわい! そうそう、姫たちと会ったときも、実はその帰りだったんじゃ」


「なんという自由さ!」


「元将軍なんだから国にいてくれって言われるんじゃが……好きなものくらい食べたいわい!」


「というか、どうして五月雨の存在を……」


「たぶん、会合の時に私たちが出したからだろう」


「うっそ」



 彰人さんの羊羮、あらゆる皇室御用達じゃないですか。とにかく、えーっと、知らないスキルが二つある。先帝が洞窟の中のことを知ることができた理由になりそうなのは……透視だな。折角だから斬擊も見てみよう。



斬擊……刀を使った攻撃のダメージが三倍になる。



 おお! 刀を使う先帝にぴったりのスキル! で、透視は……、



透視……あらゆるものが透けて見える。対象の選択が必須。



 やっぱり透けて見えるスキルなのか。



「鑑定、暗視、透視は目を使うスキル。しかもMP消費がない。あると便利なスキルトップテンに確実にランクインするな」


「透視を使って、壁を透けさせて、その奥を見たってことですね!」


「なんでも透けさせられるんですか?」


「視界ではそうじゃ。安心せい! 女性の服を透けさせたりなんてしてないからのぉ!」


「さすがにそれしたら、いくら先帝でも変態エロじじいって呼びますからね」


「ウター! 同じ男じゃないかぁ!」


「一緒にしないでください! 僕はそのスキルを持ってたとしても、そんな考え一切浮かびませんから!」



 すると、先帝は僕の耳元でそっとささやく。



「……隣でアリア姫が超無防備で眠っていてもか?」


「何てこと言うんですかぁ!」


「それで、いつ行きますか?」



 フローラが冷静にそう訊ねる。すると、先帝の表情がわずかに変わる。



「……もう少し待て。見張りの交代が、二人、もうすぐ来る。そうしたら四人まとめて仕留めようか」



 それから数十秒経ったあと、先帝が言った通り二人の男が奥からやって来た。僕らが前に出ようとすると、それを手でスッと制される。



「……さて、一狩り行こうかのぉ」



 そして、どこからか杖を取り出すと、それをつきながらよたよたと前に出ていくと、ふらっとして男の一人にぶつかった。四人とも先帝に気づくが、暗いせいか、顔はわかっていないようだ。



「あ? んだこのじいさん」


「おおお……すまないのぉ。よぉ見えなくてなぁ…………っと!」


「んぐふっ?!」


「……あ、え、先帝!? それでいいのか!?」



 何が起こったか説明すると、先帝に気がついて近寄ってきた男の……その…………ぅん、な、部分を、杖の先っぽで思いっきり下から叩いたのだ。見るも鮮やかなクリーンヒット……あ、あれは痛いぞ……。

 のたうち回る一人を見て、残りの三人は先帝に詰め寄る。



「おいじぃさん? 俺らのことなめてんのか?」


「悪いのぉ。……まさか、こんな程度であれだけ痛がるとは思わなくてのぉ」


「あぁ?! バカにしてんのか!?」


「じいさん、お前も男だろ!? あれは痛いぞ!」



 そんなに煽らなくても……と、思ったが僕は気がついた。先帝は煽りながらだんだんと後ろに下がる。入り口から遠ざかっているのだ。

 それに詰め寄っているから、自然と男たちも入り口から離れていく。10mほど離れたとき、先帝が不意に立ち止まった。



「……ここでよいかのぉ」


「あ?」



 そういうと先帝は杖を握り直し、体型を安定させる。と同時に杖の端の方を握って引く。

 杖と思っていたそれは、刀だった。先帝が攻撃体制に入ったのを見て、男たちも構える。……が、おさくさんと対等にやりあうだけの相手だ。動きが追い付かない。



「――ちぃと痛いぞ。我慢しろ」



 先帝は刀の切っ先を下の方に向けると、正確に男たちの足の腱を斬った。



「いっ……だぁぁぁぁ!!!」


「あああああっ!!!」


「離れておいて正解だったのぉ。聞こえて中のやつらを起こしてしまっては面倒じゃ」



 先帝は、自分の足を抱えて地面に転がる男たちを見下ろしながら、にこりと微笑んだ。



「弱きものを弱いと愚弄した罰じゃ。生かさず殺さず、苦しめてきたんじゃろう? ……お主らも、しっかりと苦しめ。――ダークネスエレキテル」



 紫色をした雷が男たちの上に落ちる。彼は体をピクピクと痙攣させ小さくうめくと、やがて気を失ったようだった。そして僕らの方を見て、何事もなかったかのように笑ったのだ。



「ほれ、いくぞ」


「あ……は、ハイ」



 この人、強いです(確信)。

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