住宅街

 僕らは改めて挨拶をしてから、お城をあとにした。宿を取ったあとに住宅街に向かって、メロウちゃんとサイカくんの家にいってみる。



「えーっと、宿は……お、ここでいいか?」



 住宅街に向かう道の途中、アリアさんが一つの宿屋を見つけて指差した。あんまり大きくはないが、素朴で、綺麗なところだ。



「いいんじゃねーの? きれいそうだし、おいらはいいと思うよ!」


「私もいいと思います! ウタさんがよければ、ここで決まりですかね?」


「僕も、いいと思います。否定する理由もないし」


「じゃ、決まりだな」



 アリアさんはそこの宿屋の扉を開いてなかに入る。カランカランと心地のいいベルの音が響いて、中にいたおばさんがこちらを見て柔らかく微笑む。



「まぁまぁいらっしゃい。冒険者さんかしら?」


「あぁ、しばらくの間泊まらせてほしいんだが」


「もちろんですよ、部屋は」


「四人部屋があればそれで」


「アリアさんっ!」



 いやいやいや! 今回は二つって言うと思ってた!



「船の中では、部屋がないのでまぁしょうがないとして、今は二つ用意してもらいましょうよ!」


「なんでだ?」


「なんでっ……て、アリアさん、男が、その、」


「大丈夫だ! お前のことは男として見ていない!」


「いつかと同じ台詞ぅ!」



 それからアリアさんはふっと微笑み、僕に言った。



「仲間としてみてる」


「…………え」


「だから、一緒だと落ち着くんだ。

 ……で、えーっと、四人部屋あるか?」


「ありますよ。お布団になっちゃうんだけど、大丈夫?」



 ……複雑な気持ちで一杯だった。仲間としてみてくれてるから、だから、大丈夫だと言うのは素直に嬉しい。

 でも、だからといって僕は男に間違いないんだから、あんまり無防備になられても困る。主に僕が。



(……でもまぁ、)



 こんなのも、旅の醍醐味……なのかな。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「住宅街っていうのは、ここてすね」



 フローラが辺りを見渡しながらいう。至って普通の住宅街。パッと見、7、8軒の家がまとまって建っているらしい。この中で、奥から二番目の家がそうって話だったけど……。



「この家じゃねーの? ほら、表札に『メロウ、サイカ』って書いてある!」


「あ、本当だ。……人の気配は、しないね」


「そうですね……」



 二人の家と思われる場所は、全くといっていいほど、人の気配がしなかった。まるで、何日も何週間も家を空けていたみたいに……。



「でも、変だな。ハルさんの話によれば、サイカと連絡がとれなくなったのは一昨日だって言うじゃないか。

 これじゃまるで、それより前からいなかったみたいだ」


「それに、メロウちゃんはここに住んでいたはずですよね?」



 ……確実になにかがおかしい。

 と、ポロンくんがぽつりと言う。



「……わざと、気配を消していったのかもしれない」


「え?」


「気配を消すって言うのは、わりと簡単に出来るんだい。キルナンスでは……人身売買で売られる人をさらったあと、その場からその人の気配を消していっていた。

 そうしたほうが、その人の気配を追って人が来ることがないから」



 そのことを話すポロンくんは、ずっと伏し目がだった。……無理もないだろう。昔は、自分が奪う側にいた。そのせいで『窃盗』というスキルも手に入れて……。便利なスキルだけど、望んで手に入れたわけではないのだろう。

 だから、今回自分が関わっていなくても、少なからず、責任を感じてしまっているのかもしれない。



「……そうか、なかなかいい情報だな」



 アリアさんもそのことに気がついているのだろう。笑ってそういい、ポロンくんの気をまぎらわそうとしている。そして、あっと思い出したように僕らに言う。



「そういえば!」


「そういえば?」


「なんか違和感あるなーって思ってたら、ハンレルに来てから私たち、まだおさくに会ってないぞ!」


「あー、確かに」



 そういえばそうだなぁ。大体、街に入ってしばらくするとひょっこり現れて、情報を教えた後に、高額なよくわからない商品を売り付ける、という、いつものルーティーンがないのだ。



「でもまぁ、おさくさんにはおさくさんの事情があるでしょうし」


「いたらいたで『うわっ!』って思うんだけどな、いなかったらいなかったで『あぅー』って感じになるんだよなぁ」


「伝わりそうで伝わらない表現方法」


「でもどうしましょう。情報もこれ以上ありませんし、一度、街のなかを歩き回ってみますか?」



 フローラが冷静にそう提案する。……そうだなぁ。情報ゼロで下手に動き回るわけにもいかないし、街を探索しつつ、情報収集かなぁ。

 実のところ、このいかにも京都な町並み、気になる。



「そうだね、街、まだちゃんと見てなかったからね」


「そうだ。なんなら、ライアン様が言っていた店にいってみるか? これからどんなところに向かうかも分からない。武器は新調しておくのもいいだろう。

 あと、ちょっとした防具ももう少しいいのを買おうか。依頼をこなして、少しはお金に余裕も出たし」


「そうですね……。よし! じゃあ向かってみますか!」



 お店は街……つまり王都の中央にあると言っていた。一番目立つ大通りを通って、それらしき建物を発見した。……発見した、のだが。



「……見間違いかなぁ?」



 看板には、『Good Ocean Field』と書かれていました。

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