迷子の少女
「わ、私……お兄ちゃんを探しに来ただけなんですぅ……」
「お兄ちゃん、だぁ? そいつはいくつだ?」
「じゅ、13、です」
「じゅうさんー? そんなガキが、こんなギルドにいるわけねーだろってんだ。とっとと失せろやゴラ」
「でも! お兄ちゃんはB級の冒険者で」
「まだ言うかおらぁ!」
「ひぃぃぃっ!」
……どうやら男性は酔っているようだ。真っ昼間からお酒を飲んで酔っぱらって、あげくのはてにあんな小さい子に絡むなんて、どうかしている。
「アリアさん、僕止め――」
止めてきますよ、と、アリアさんの方をみて、思わず固まってしまった。今までとはまるで違う表情。……怯えている。
普段なら「なんだあいつ、ちょっと言ってくるよ」くらい言ってもよさそうなのに、今はその男を見つめて、震えたまま動かない。
(……サラさん、元々アリアさん、男が苦手だったって言ってたな。それなのにミーレスのことがあって……当たり前か)
そして、僕が男に声をかけにいこうとした瞬間だった。
「あっ」
とフローラが声をあげる。と同時に、ポロンくんが僕の横をスッと通りすぎていき、男と女の子の間に立ち塞がった。
「ふぇ?」
「なんだぁ? てめぇ。ハッ、ガキを助けに来たんがガキだってのは、おもしれぇギャグだなぁ」
「ポロン……!」
アリアさんはポロンくんを助けようとするが、身体が動かない。僕が動こうとすると、ポロンくんはこちらを見ていい放つ。
「おいらは、大丈夫だよ」
すると、男が急に暴れだす。
「てんめぇ、ガキが大人をなめてんじゃねーぞぉ!?」
そして、ポロンくんに殴りかかる。……が、そこにポロンくんはいなかった。それに驚いたのか、キョロキョロと辺りを見渡す男の背後に、ポロンくんが現れ、手を拳銃のようにして男の背中に突きつけた。
「あ……?」
それ以上男の言葉が続かなかったのは、ポロンくんから言い表し難い『殺気』を感じたからだろう。
普通の男の子には、決して現れないような殺気――。キルナンスという、殺すか、殺されるかの世界で生きていた頃の名残である殺気――。
その鋭い殺気を向けながらも、ポロンくんは武器を向けなかった。……それだけで安心してしまう、単純な自分がいた。
「……ガキだからってなめてると、いつか痛い目みるよ、おっさん」
「……なんなんだ……てめぇは…………」
「おいらがもし、ナイフを握っていたら、おっさん、死んでたよ?」
男の顔が、分かりやすく血の気を失う。さぁっと青ざめる男を嘲笑うようにポロンくんは突きつけた手を離す。
「ま、おいらは殺す気なんてないよ。でもさ、おいら……お前みたいに、弱いやつをいじめて生きてるようなやつ、大っ嫌いなんだよ」
「…………あ」
「もういいから、とっとと消えてよ。おいらたちの前からさ。迷惑なんだよ、てめぇみたいなやつ」
「くっ……そ……!」
男はそれを捨て台詞に、逃げるようにどこかへいってしまった。ポロンくんは一つ、大きく息を吐き出すと、固まったまま佇んでいる女の子に優しく声をかける。
「大丈夫か? おいら、そんなに怖いやつじゃねーからな!」
「……あ、うん…………」
「ダメかぁ。フローラぁ! ちょっと!」
「あ、うん!」
ポロンくんに呼ばれて、フローラが女の子の方へいくと、僕はまだ少し震えているアリアさんの肩をぽんぽんと叩いた。すると、アリアさんはハッとしたようにこちらを見て、そして、申し訳なさそうに笑った。
「……ごめんな、私。その……また男がダメになってるみたいだ」
「しょうがないですよ。そんなことで気負わないでください。それに……」
僕はちらっとポロンくんたちの方を見る。女の子に優しく笑いかけるその顔は、もうお兄ちゃんお姉ちゃんの顔だ。
「二人だって、僕らのれっきとした仲間ですから、僕らと一緒にいるときは、強くなくてもいいと思いますよ」
「…………そうか、そうだな!」
にっこり笑ったアリアさんに安心して、僕は女の子の方に歩み寄る。すると、その僕の行動に気がついたポロンくんが、あっと声をあげた。
「ウタ兄! この子のお兄ちゃん、冒険者なんだけど、一昨日から家に帰ってないらしいんだ! それで、この子……えっと、メロウっていうんだけど、メロウがギルドにいるかもって探しに来たんだって!」
そして、フローラが僕に軽く詰め寄る。
「ウタさん、どうにかしてあげられませんか? お兄ちゃんと基本二人暮らして、ご両親は働きに出ていることが多いらしくて……。
お兄ちゃんがいないと、ひとりぼっちなんです、この子」
……探すの、手伝ってあげたいな。
僕が思うとほぼ同時に、後ろからついてきていたアリアさんが前に出てきて、優しくいう。
「いいんじゃないか? 手伝ってやろうよ、お兄ちゃん探すの」
「…………いいの?」
メロウちゃんは驚きと不安が混ざった表情で僕らを見上げる。それにたいして、アリアさんはメロウちゃんと視線を合わせ、にっこりと微笑んでうなずいた。
「あぁ、一緒にお兄ちゃん探そう」
メロウちゃんの表情がパッと明るくなる。それを見て安心していると、
「おい、お前たち」
「はい……?」
後ろから声をかけられ振り向くと、キチッとした身なりの、できる女性、って感じの人が立っていた。灰色の髪に金色の目が映える。
その人は僕らを見るとこう言ってきた。
「私はここのギルドマスター、ハルだ。ヤナギハラ・ウタがリーダーのパーティーだな?」
「え、あ、はい」
「その子供と話すのもいいが、10分程度時間をもらいたい。着いてきてくれるな? そいつにはここで待っててもらえ」
「…………」
本当は一緒に連れていきたかったけど、仕方がない。僕らはメロウちゃんにここで待つようにいって、ハルさんについていった。
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