希望を切り開く

 建物の中に入る。するとそこには、魔物がいた。


 ……ここで、よく分からない描写をしておこう。

 三階建てと思った建物は、本当は二階建てで、アリアさんがいる部屋だけ三階として存在している、という感じみたいだ。めちゃくちゃ広い屋根裏みたいな。

 で、二階はあってないようなもので、階段があり、そこを上った踊り場のようなところ。それが二階だ。

 小さな部屋はいくつかあるようだが、ほぼ無に等しい。二階の階段から、向かい側の階段に移動して、そこから上に上がるとアリアさんの部屋にたどり着く。ほとんど吹き抜けのような造りだ。

 風魔法で飛び上がろうかと思ったが、階段の前には手すり代わりの柵があり、行けなさそうだ。地道に階段を上るしかない。


 どうしてこんなことを言ったのかといえば、たくさんの魔物に紛れ……られてはいないのだが、一階から二階の天井、そこまで届きそうな大きさの小さなドラゴンがいた。

 ……いや、一体なら問題ない。


 5体いた。



「……マジかぁ」



 少し緑色がかった鱗は、見るだけで硬そうで、普通の剣だったなら折れてお仕舞いだろうと思うほどだった。

 前足と翼が一体化し、高らかに咆哮しながら僕を見据える。



(……様子がおかしいな)



 普通じゃない。目に光はなく、虚ろで、ただ暴れることしか考えていない……そんな感じだった。首につけられた鎖が唯一その動きを最低限に抑えている。

 そういえばアリアさん、言ってたな。元々はドラゴンは頭のいい種族で、むやみに人を襲ったりしないって。ってことは……このドラゴンたちも、もしかして……。



「助けられるものは……出来るだけ助けたい。だってそれが、」



 ――への償いと弔いになるはずだから。


 僕はゆっくりと剣を握り直して、一体のドラゴンを鑑定する。




名前 ワイバーン


種族 龍種


年齢 91


職業 ――


レベル 100


HP 150000


MP 80000


スキル 体術(上級)・初級魔法(熟練度10)・氷魔法(熟練度9)・雷魔法(熟練度8)・闇魔法(熟練度7)


ユニークスキル ――


称号 雷の使い




 これまた、なかなかなステータスですね。にしても、レベル100、なのか……。



「…………」



 今のミーレスは、僕とほぼ同じステータスを持っている。無理矢理引っ張り込んできたか、力で黙らせたのだろう。よく見れば、ワイバーンの体にはいくつか大きな傷跡がある。



「これ、助けられるかな……」



 僕はとにかくワイバーンに近づこうと走り出す。ワイバーンは雷を至るところから落としてきて、僕の進路を奪う。

 雷が落ちたところはバチバチとまだ電気を帯びていて、飛び越えないと危ない。


 いくらステータスが上回ってると言っても、さすがにワイバーン五体は骨がおれる。攻撃を避けるので精一杯だ。



「グォォォォォォォっ!!!」


「……っ」



 気がつくと囲まれていた。ワイバーンたちは僕をじっと睨み付け、冷気を吐き出そうとしていた。

 その直前、僕は彼らに向かって声をかけてみた。……龍種はもともと賢いはず。なら、僕の声が届くはず。



「待って! 僕の話を聞いて!」



 聞こうとする素振りはない。僕は構わずに続けた。



「ねぇ、君たちドラゴンはさ、むやみに人を襲わないって聞いたよ。それに、賢くて会話もできるから、争うことは少ないって」



 僕の言葉に、ほんの少しだけ、ワイバーンが反応したように見えた。気のせいかもしれない。だって、正気を失って暴れているのだから。

 それでも、僕はその希望を信じた。



「……ねぇ、君たちも同じじゃないの?! 僕はドラゴンを使役している。ドラくんはね、すっごく優しいドラゴンだよ! 君たちも本当はそうなんでしょ?!」



 僕は彼らを改めて鑑定する。ドラくんの時のように、なにか、目印になるようなものは無いのだろうか……?

 いや、あるはずだ。本当は心優しいドラゴンで、戻りたいと思っているのなら、目印はあるはず。


 ……ふと、ワイバーンの尻尾の辺りが、視界の端で輝き始めた。他の四体もみると、同じように光っている。これが……そうか。そうなのか!



「グォォォォォォォっ!!!」



 一瞬落ち着きを取り戻していたワイバーンが再び暴れだす。そして、僕に向かって、一斉に冷気を吐き出した。



「――ファイヤウェーブ!」



 炎の波でそれらを打ち消し、僕は剣を握りしめた。



「ウィング!」



 そして、風を起こし、天井近くまで舞い上がると方向を変え、剣をぎゅっと握りしめ、そして、強く振るった。



「シャインっ!」



 放射線を描くように現れた光の線はブーメランのように飛んでいき、ワイバーンの光る尻尾に当たる。



「グアァァァァァァァっ!!!」


「ごめんなさい! でもっ! ……シャイン!」



 僕は地面に落ちるより早く、もう一度同じように光魔法を放つ。



「シャインっ!」



 これで三体。

 そこで、バランスを崩して地面に落ちてしまう。僕はすぐに起き上がり、攻撃を仕掛けようとする二体のワイバーンの尻尾に、照準を合わせた。



「シャインランスっ!」



 やがて、ワイバーンたちは雄叫びをあげる。


 光魔法は全体的に、消費するMPと精神力が半端ない。僕は崩れるようにその場に尻餅をついた。周りがどうなっているか確認する余裕もなく、はぁはぁと息を切る。

 ……病み上がりだからかなぁ。なんて、くだらないことを考えていたら、



「…………」



 再び、ワイバーンに囲まれていた。

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