閑話 突っ込み不在の恐怖

 唐突ですが、高熱を出しました。

 おかげさまで次の国に移動できません! 宿屋セアムのベッドで寝込んでおります。

 うー……つ、辛い…………。インフルエンザってこんな感じだっけなぁ…………。



「う、ウタ兄! 大丈夫か!?」


「あはは……お花畑が見えるよぉ……。眠い……」


「ね、寝るなウタ! 寝たら死ぬぞ!」


「そ、そうですよウタさん! 寝ないでください!」


「寝かせてよ……」



 聞くところによると、アリアさん、ポロンくん、フローラ、みんな誰かを看病したりとか、そういう経験はないらしい。まぁ確かに、なさそうだけどさ。

 あとでテラーさんが手伝いに来てくれるとか言う話だったけど、三人とも落ち着きがない。



「さ……寒いなぁ…………」


「お風呂入りますか!? あったまりますよ!」


「あー……うん、いいかもねぇ……」


「う、運動するか!? ほら! 走ったら体あったまるだろ!?」


「そうだね……うん、そうだねー……」


「火、つけようか!?」


「さすがに火事……はは……うっ」


「ウタ兄ぃぃぃ!」



 ……えー、看病に慣れない三人の奮闘は、やがて暴走に変わります。どうか、あたたかーい目で見守ってください。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「……まず一つだけ言わせて。ウタくん、悪化してない?」


「あは……ははははは……。頭がぐわんぐわんするよぉ…………」


「……何か間違えたな」


「だな」


「ですね」


「いやいや! 間違えたって範囲じゃないでしょ! え!? 何があったの!? 一から百まで全部説明しなさい!」



 あれから一時間後、ようやくテラーさんがやってきた。お店の方でお客さんがいたんだとか。まぁそれはいいとしよう。……なんかもう、僕疲れたよ。



「何があったって……まずほら、ウタが寒いって言ったからさ」


「うん」


「お風呂に入れて」


「待って! この状態でお風呂入れたの!?」


「えっ! ……だ、ダメでしたか?」


「熱があるからダメってことじゃないんだけど、こんな意識朦朧としてる人、水につけたら危なくない!? 万が一、気失ったらどうするの!?」


「た、確かに……」


「……はぁ、それで? なんでウタくんの首にほうれん草巻かれてるの?」



 大きくため息をつきながら、テラーさんが言う。そう、今僕の首にはほうれん草、右腕に氷、左手にゆたんぽ、頭にスラちゃんだ。

 ……うん、説明してて思ったけど、どういうことだ?



「な、なんかさ! 野菜を首に巻くといいっていうじゃねーか!」


「野菜ならなんでもいいわけないだろ! ネギだよネギ! しかもそのまま巻くんじゃなくて、こう、ぶつ切りにして! タオルに巻いて! これじゃあほうれん草で首絞めてるみたいじゃん!


 そして! ネギは巻くより食べるのがグッド!」


「お、おう」


「体をあっためたいんですか? 冷やしたいんですか? ゆたんぽは足元! 氷は頭! スラちゃんはどく! なぜそこにスラちゃん!」


「ぷるぷる……(心配だったんだもん)」


「で、なんでウタくん泥まみれなの!?」


「走ったからな」


「走ったぁ!?」



 そこまでくると、さすがにテラーさんも壁に手をつき、頭を抱えた。



「は……走ったって……走ったって…………。熱があるのに、フラフラしてるのに、走ったって……」


「え、えっと……」


「ちなみに、その心は?」


「さ、寒いって言ってたから……」


「あったまるまえに倒れるだろ!

 ……はぁ、もう…………。私、どちらかというとボケ要員なのに……突っ込みは他のみんなに委託してるのに……突っ込ませないでくれよ……」



 壁際で頭を抱えぶつぶつと何かを言い始めたテラーさんに、アリアさんがそーっと近づき、手を合わせた。



「なんか……ご、ごめんな?」


「アリアさんも気づいてよ! 個性の塊's困らせるって、どういうことか分かるよねぇ!? ね!?」


「あぁ、うん……そうだな」


「…………っていうか、普通に回復魔法使えばいいだけの話ちゃうんかい!」



 …………あー、



「確かに」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 ネギが入ったあったかいうどんを食べつつ、僕はテラーさんに謝罪した。テラーさんの回復魔法で、体力こそゴリゴリ削られた僕だったが、なんとかいつもの調子を取り戻すことができた。

 ……まぁ、取り戻してから辺りを見たら大惨事だったわけで。



「なんか……すみません、僕が熱を出したばっかりに」


「私はボケなんだよ……個性の塊'sのれっきとしたメンバーなんだよ……。個性で負けた感じがするよ……」


「あ、あはは……。というか、珍しいね、ポロンくんまで暴走するなんて」



 と、ポロンくんは顔を真っ赤に染めて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。



「う……ウタ兄が悪いんだい! 変に心配かけたりするから……。お、おいらだって、心配だったんだい! 悪いか!」


「ヤバイすごく嬉しい」


「なんで!?」


「ツンデレポロンくん、唐突のデレがかわいくて嬉しくてかわいくて」


「かわいくて二回言ったな!?」



 ……そんな僕とポロンくんの様子を見て、テラーさんがホッとしたように僕らに言う。



「そうそう、そうやっていつもみたいに突っ込んでよポロンくん。フローラって意外と天然だから」


「そうなんですか?」


「そうなんです。だから、突っ込みがいなくならないように! 本当にお願いしますよ! 突っ込みって大事なんだよ!」


「は……はい!」



 突っ込みの大切さを知った(?)僕らであった。

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