闇の使い手 モーリス

 三階まで来た。明るく、ポップなカーターの階とはまたがらりと雰囲気が変わって、薄暗く、古い洋館のような造りになっていた。



「うぅっ……ちょ、ちょっと怖いなぁ」


「何いってるんだよ! そんなこと言ってたら先に進めないぞ!」


「ポロンの言う通りだな。シャキッとしろ、シャキッと」


「シャッキーン……」


「声すらシャキッとしてないぞ」



 それにしても暗い。暗視のスキルを持ってるからこそこれだけの範囲が見れるけど、アリアさん、どれくらい見えてるんだろう。



「アリアさん、周り見えます?」


「正直なところ、さっぱりだな。音でも聞こえれば別なんだが、何もわからない。

 ……対象が見えないままジャッジメントは危ないもんな」


「おいらは見えるよ!」


「うん、僕も見える。けど……」



 誰もいない? そんなまさか。

 螺旋階段はすぐ目の前にある。ちらちらと周りを見渡して、行ってみようと言いかけたその瞬間だった。知らない声が背後から聞こえた。



「陰影」


「っ?! しまっ――」



 突然、背後の闇から現れた無数の手に、動きを封じられてしまう。もがいてみるが、実体がないせいなのか、べっとりとまとわりついてきて、全く逃げることが出来ない。



「やられたな……」


「アリアさん……!」



 この中で光魔法を使えるのはアリアさんだけだ。そのアリアさんまで身動きがとれないとなると……かなりマズイ!



「……ローレンとカーターを破ったやつらだ。もう少しは、俺を楽しませてくれると思ったんだが」



 真っ暗な闇の中から現れたのは、頭の上から爪先まで、真っ黒な人だった。黒いローブ、黒い靴、黒い手袋。髪も瞳も、唇も黒くて、唯一皮膚だけが異様なまでに白かった。



「いや、挨拶をする前にすまないな。俺はモーリス。キルナンス四天王の一人にして、闇の使い手でもある。……以後、お見知りおきを」



 そういうとモーリスは腰に挿していた剣をゆっくりと引き抜く。真っ暗な空間の中、その刃だけが気味悪く光る。

 ……こ、これ、鑑定できるのかな? いや出来たところでどうするって話なんだけど。とりあえずやってみるか。鑑定!




名前 モーリス


種族 人間


年齢 29


職業 魔術師


レベル 60


HP 7500


MP 6900


スキル アイテムボックス・暗視・剣術(上級)・体術(中級)・初級魔法(熟練度6)・炎魔法(熟練度5)・水魔法(熟練度4)・土魔法(熟練度1)・闇魔法(熟練度8)


ユニークスキル 魔力向上・陰影


称号 キルナンス四天王・闇の使い手・黒




 読めたぁ! 黒っていう称号に若干突っ込みたくもあるけど、今はそれどころじゃない! 魔力向上も持ってるのか、こいつ……。とりあえず、さっき使われたと思われる『陰影』を鑑定だ!



陰影……闇を操る。影を意図的に操作できる。闇の強さは自身のレベルと消費MPに比例。耐久性は強いが、光に当たると消えてしまう。



 やっぱり光か! モーリスは目の前にまで迫ってきてることだし、ダメもとで一発やってみるか!



「ライトっ!」



 何も起こらない。不発だ! やっぱり!



「俺の闇に捕らえられながら光魔法を唱えようと? しかも初級。話にならないな。闇に捕らえられている間はどんなレベルのやつでも魔法は使えなくなる。もちろん、ステータスがあがっていてもな」



 それヤバくない!? 詰んだ?! 詰みなの!? 王手っていってよそれならぁ!

 モーリスは僕らの目の前まで来ると、剣の切っ先をアリアさんに向ける。



「お前は高く売れそうだ。傷つけられたくなければ、大人しくしているんだな」


「誰がっ……!」


「……おや、そういえば」



 ふとモーリスが切っ先を下に向け、呟く。



「――裏切り者が一緒じゃなかったのか?」


「え?」



 言われて見渡すと、ポロンくんがどこにもいない。アリアさんは暗視が使えないから分からないだろうけど、僕の目にポロンくんの姿は一切映らなかった。



「どういうことだ? 逃げたのか……?」



 そうして、モーリスが後ろに振り返ったその瞬間、



「ライトっ!!!」


「なっ――!?」



 その目の前にポロンくんが現れ、光魔法を唱える。威力があがっている初級光魔法をもろに受け、モーリスは目を押さえ、僕らを拘束していた影の手も消えた。



「っし、今だぜ!」



 アリアさんはポロンくんの光をたよりにモーリスを見つけると、右手を上にあげた。



「ジャッジメントっ!」



 モーリスの頭上に魔方陣が現れ、そして、白い閃光が落ちる。それがおさまる頃にはモーリスは床に倒れ、それから、アリアさんもガクッと膝をついた。



「アリアさん!?」


「だ、大丈夫かよ!」


「……はは、大丈夫。大丈夫だ。これ、体力の消費が、半端ないな……。

 アイリーンのおかげか、MPは減っていないが……これを笑顔でうてるとか、ある意味、化け物だな…………。MPはある。だが、悪いが、もう一回は無理だ」


「……うわぁ」



 あの人、『ジャッジメント~』的な感じでほわわっとやってたけど、やっぱり半端ないっすね。



「威力は二時間程度気絶するようにしておいた。にしても……ポロン、お前、どうやって……」


「ん? あぁ、おいらは『窃盗』ってスキル持っててさ。なんかヤバイのが来るって分かったから、それで気配消して、隙をうかがってたんだ」



 そっか。そういえばそんなスキルを持っていた。あの手も気配を消したことで対象を見失ったのかもしれない。



「ナイスだね! ポロンくん!」


「ふふーん。もっとほめてくれてもいいんだぜ?」


「……ともかく、次だな」


「動けますか?」


「あぁ。でも……あまり激しくは動けない。それくらい体力の消費がすごい。次は任せっぱなしになるかもしれないな」


「大丈夫だよ! おいらに任せとけ!」



 僕らは、螺旋階段をのぼっていった。

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