決戦にて 仮説と照れ

◎前書き

 ギリギリ年内に間に合いました。


 2020年を通して読んでいただき、本当にありがとうございます。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「「「「「「…………」」」」」」

「…………」


 みんなが僕を見たまま固まっている。うーん、特に悪い事をしたわけじゃないんだけど、何か気まずいね。話の流れとはいえ、今まで言ってない事をポロッと言ってしまったのは失敗だった。さて、どうやって説明しようかな。


『オアアッ‼︎ オアアアアアアアアッ‼︎』

緑盛魔法グリーンカーペット純粋なる深緑を纏うディープグリーンインパクトフレーム魔弾ショット

『オガアッ‼︎』


 僕とみんなの気まずい空気に割り込むように、地面をのたうち回ってたあいつが起き上がり僕へ高速で突撃してくる。あいつの存在自体は迷惑極まりないけど、今だけは感謝しながら新たな魔弾を生み出し、前の魔弾と合わせて迎撃した。問題なくあいつの身体に魔弾が直撃し、あいつの殻を飛び散らせながら吹き飛ばす。…………うん?


「みんな、あいつの身体から飛び散った殻に注意して」


 僕の警戒を聞いたみんながあいつから離れると、僕の魔法で砕かれて飛び散ったあいつの殻の破片がボコボコ泡立ち膨れ上がっていく。はあ、一つ二つの破片が変わるならまだわかるけど、まさか全部の破片が変化するとは思わなかった。しかも、その破片の変化したものが、僕の見た事ある奴だからうんざりする。


「おい、ヤート……、何であいつの殻の破片が魔石になるんだ……?」

「僕に聞かれても困るよ。ただ、あいつは芋虫の状態から、この世界の外に出て殻で覆われた蛹の状態で戻ってきた。つまり、この世界の外には魔石のもとになるものか、魔石そのものが存在してるんだと思う。あいつの巨体をごく短時間で覆えてる事を考えて最悪を想定するなら、この世界を埋め尽くすぐらいの魔石がいてもおかしくないかも」

「…………ヤートが生きてた世界にも魔石はいたのか?」

「それは今聞かなくても良いんじゃない?」

「どうなんだ?」

「うーん……、たぶんいなかったはず」

「はっきりしな言い方だな」

「前の世界の僕は重病で十二歳くらいで死んでるから、病状が落ち着いてた短い期間に見た本とかの情報しか知らないんだ」

「…………すまん」

「何で謝るの? ラカムタさんが気にする事じゃないよ」

『オアアアッ‼︎』


 僕の魔法で吹き飛んだあいつが叫ぶと生まれた全ての魔石が僕を見た。また物量で攻める気みだいだけど、僕の魔法で殲滅されてるのを理解してないのかな?


緑盛魔法グリーンカーペット純粋なる深緑を纏うディープグリーンインパクトフレーム光線ライトレイ

『『『『『『『『ギギャアアアーーーー‼︎』』』』』』』』

『オガアアアアアアアアーーーー‼︎』

「あ、そういう事か」


 魔石達が世界樹の葉から放たれた光線に貫かれて崩壊していく中、あいつは世界樹に突撃していく。相変わらず怒りとか憎しみの感情は僕に向けつつも、魔法の起点になってる僕じゃなくて魔力源の世界樹を優先したみたい。


「世界樹、魔法を連発してるけど大丈夫?」

『まだまだだ。我の全てを好きに使え。遠慮も加減も無用だ』

「ありがとう。シールはどう?」

『私も問題ありません。主人の望むままにどうぞ』

「わかった。それじゃあ、世界樹の間合いにあいつを叩き潰すよ。緑盛魔法グリーンカーペット・超育成・純粋なる深緑を纏うディープグリーンインパクトフレーム樹根槍ルートランス百枝槍ブランチランス

『オアッ‼︎』


 僕が世界樹の杖をあいつに向けながら詠唱をすると、世界樹の数多い枝と根が槍と化しあいつへ殺到する。そして枝と根の槍が突き刺さる寸前で、あいつは影に沈んでいき消えた。


「またか‼︎ 今度はどこに行った⁉︎」

「さっきと同じで地中にはいないよ。どういう条件で消えれるのかはわからないけど、この世界の外へ移動したみたいだね」

「ちくしょう‼︎ このままだと逃げられるぞ‼︎」

「ラカムタさん、あいつは逃げないから大丈夫」

「……何でだ?」

「うん、どうあっても僕を殺したいみたいだから絶対に、また力をつけて攻めてくる」

「だが、こちらの攻撃から逃げられて、あいつが強力になるなら、いつかは食い破られる‼︎」

「そこは考えてる。今はあいつを痛手を与えてるだけで良いよ」

「……大丈夫なんだな?」

「ラカムタさん」

「おう」

「前世の僕は病気でまともに生きれなかった。でも、今の僕は普通に話せて食べれて動けて優しい家族がいて頼りになる仲間がいる」

「そうだな」

「今の生活を気に入ってるから、それを壊すあいつを逃がすつもりはないし、負けるつもりもまったくないよ」

「…………わかった。俺達も全力をつくす‼︎」


 ラカムタさんが気合を入れると他のみんなも一段集中力が高くなり、万全の状態であいつを待った。




『オアアアアアアアアアアッ‼︎』

『『『『『ギ、ギャギャギャギャッ‼︎』』』』』


 あいつが空間に穴を開けて戻ってきた。でも、ただ戻ってきたわけじゃなく、大霊湖だいれいこ大髭おおひげ様に勝るとも劣らない巨体を覆っていた殻が、さらに分厚くゴツく攻撃的な見た目になっている。この世界の外側に出たら魔石由来の物質に触れて力を増すっていう僕の仮説は正しかったみたいだね。それと今まてで一番多い数の魔石を引き連れてるから戦力としても増している。


 さすがに、このまま攻められるわけにはいかないので大規模魔法で、あいつら一撃を与えるつもりだったけど……。


「「「「「「「はあっ‼︎」」」」」」」

「ガアッ‼︎」

「ブオッ‼︎」

「消シ飛ビナサイッ‼︎」

「…………シネ」

『『『『『『ギッ……』』』』』』


 僕が魔法を発動させる前に放たれたみんなの遠距離攻撃は、魔石の群れの中で教団本拠地を吹き飛ばしたような大爆発を起こし僕達の近いところにいた魔石達を消滅させる。なんか僕抜きなのに爆発の規模が大きなって思いみんなを見ると、みんなは首や肩や手をゴキゴキ鳴らして、今にも残りの魔石へ襲いかかりそうになっていた。


「ヤート‼︎」

「何? ラカムタさん」

「魔石は俺達に任せて、お前はあのデカブツに集中しろ‼︎」

「良いの?」

「当たり前だ‼︎ そもそもヤートが前世の記憶を持ってたのは驚いたが、考えてみたらそれがどうしたって話だからな‼︎」

「気持ち悪くないの?」


 僕はラカムタさん達が僕の前世っていう突然の話をあっさり飲み込めた理由がわからないので聞いてみる。すると僕の方を向いた母さんは優しく笑った。


「むしろ納得したわ」

「納得?」

「ええ、ヤートは欠色けっしょくの今よりも厳しい人生を一度経験しているからこそ、欠色けっしょくの自分を受け入れられたのね」

「受け入れるというか僕にとって欠色けっしょくは問題でも負担でもなかったっていうだけで、もし前世より悪い状況だったらどうなってたかわからないよ」

「そうかもしれない。でも、だからこそ、今のヤートが大好きよ。私の子供になってくれてありがとね。それじゃあ、先に行くわ。ラカムタが言った通り魔石は任せて」

「あ、うん……」


 母さんは魔石の群れへ走って行った。こういう時に、どう返事をしたら良いのか答えを出せずにいたら父さんがため息をつく。


「……まったく、エステアの奴、恥ずかしくなって逃げたな」

「え……? 母さんが?」

「普段言わない事を言ったら誰だってそうなる。全部が終わったら少しずつでも返事をしてやってくれ」

「わかった」

「ところで、俺もな欠色けっしょくって事は関係なくヤートが自分の子供で嬉しいぞ」

「えっと……ありがとう」

「…………確かに、これは照れるな。俺も行ってくる。魔石は任せろ」

「待って」


 父さんも走り出そうとしたから止めた。


「どうした?」

「みんなだけは魔石の数が多いから危ないよ」

「大丈夫よ。ヤート君」

「ナイルさん?」

「もうすぐ合流地点で待機してた子達が参戦するから私達も数はそろうわ。もちろん戦闘面でも負けるつもりはないから安心して。…………ああ、それとね」

「何?」

「初めて会った時に私へ言ってくれたヤート君の言い方を借りて言うわ」

「うん」

「この世界の人族を全部合わせると、かなりいるから一人くらい前世の記憶を持ってる子がいてもおかしくないわよ」

「あ……」

「ヤート君がヤート君らしくいてくれれば誰も気にしないわ。さて、ここまで全然活躍できてないから行ってくるわね。あなた達、何体倒せるか勝負よ‼︎」


 みんなが走っていって魔石相手に戦い始めた。…………僕は僕で良い、か。


『良い関係だ』

「そう……かな?」

『ああ、羨ましいぞ』

「今少なくとも僕とはつながってるし、他のつながれる相手はこれから作れば良いよ」

『……そうだな。大神林の世界樹とも話してみたいものだ』

「近い内にできるよ。絶対にね」

『そうか、それならば楽しみにしていよう』

『オアアアアアアアアアアッ‼︎』


 穴を開けて戻ってから、敵意や殺意はそのままジッと僕を見ていたあいつが叫んで突撃してきた。さて、みんなが張り切ってるんだ。僕も気合を入れて戦うとしよう。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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