王都にて 顔役の強引さと地下にあったもの

 隠し通路を少し進んで地下へと降りる階段を見つけたから降りてるんだけど、わかった事がある。それは暗い・カビ臭い・空気が澱んでるという三要素が合わさったら、なかなかに辛いという事だ。この閉め切ってた感じからすると、ここにゼビリラン達はほとんど入ってないみたいだね。僕は腰の小袋から種を一つと乾燥した薬草の葉を四枚取り出して立ち止まる。


「ラカムタさん、父さん、サムゼンさん、ちょっと待って」

「ヤート殿、何か異常があったのか?」

「そういうわけじゃないけど、対策をしようかと思って」

「対策? …………ああ、臭いとかか」

「うん、ラカムタさん達は平気?」

「我慢できる範囲だな」

「我慢を続けた後で変に慣れて感覚が鈍ったらまずいよ」

「……確かにな。それならヤート、頼む」

「任せて。緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ灯草ライトプラント緑香面ハーブマスク


 僕が魔法を発動させると、種は僕の掌の上で成長して花を咲かせあたりを照らし、四枚の薬草の葉は、ぞれぞれが僕達の口辺りに浮遊して来ると僕達の口と鼻を覆うように変形した。…………はあ、良い匂いだね


「スー……、ハー……、どう? ずいぶん楽になったと思うけど」

「ヤート殿、さわやかな匂いで頭の中がスッキリしたぞ」

「本当だな。ここまで鈍ってるとは思わなかった」

「俺達竜人族りゅうじんぞくでも経験した事のない環境は負担になるってわかったのは収穫だ。ヤート、ありがとうな」

「うん。それじゃあ灯草ライトプラントの光で足もとも見えやすくなったし、どんどん降りていこう」


 僕が言ってまた階段を降り出すと、ラカムタさん達もうなずいた後に階段を降り出した。




 その後僕らは折り返しながらニ百段くらい降りて重厚そうな両開きの扉の前に立った。僕の身長の倍くらいの大きさの扉の見た目がゼビリランの専用区画の入口になってた扉に似てるから、もしかしたらゼビリランの専用区画を作られた時にこの場所も作られたのかもしれないな。このまま観察しててもしょうがないので、僕は扉に触って扉と扉の向こうの空間を同調と界気化かいきかした魔力で感知して確かめる。…………あれ?


「ヤート、何かわかったか?」

「扉に仕掛けはなくて鍵がかかってるだけで問題はこの扉の向こうだね」

「中がどうしたんだ?」

「この扉の向こうには、空気中のどこにでもあるはずの魔力がない」

「魔力がない? ヤート殿、それはどういう……?」

「サムゼンさん、そのままの意味だよ。僕の界気化かいきかした魔力でも、この扉の向こうの魔力の流れを感知できない」

「…………ヤート、扉を開けても大丈夫か?」

「それは大丈夫。もし、この扉の中が危険ならゼビリラン達は真上の屋敷に集まってないし、何かしらの封印とか結界を施してると思う」

「それは…………そうだな。よし、開けるぞ」

「いや、ラカムタ殿、鍵がないから開ける事は……」

「鍵なんてものは……」


 ラカムタさんは両開きの扉の合わせ目の部分に両手の指をめり込ませ強引にこじ開けていく。おおーー……、どう見ても分厚い金属の扉が布みたいにひしゃげて、あっという間に僕達が通れる隙間ができた。


「こうすれば関係ないだろ」

「ラカムタ、それは開けるとは言わん」

「そうか? まあ、これで通れるんだ。細かい事は気にするな。行くぞ」

「まったく……」

「「…………」」


 僕とサムゼンさんが唖然としてると、ラカムタさんと父さんは隙間を抜けて中へ入っていった。


「僕達も入ろうか」

「……そうしよう」


 ラカムタさんがこじ開けた扉を抜けた先には部屋があって、全面が石造りで扉よりも高い天井と十人くらいの大人が走り回れるくらいの広さだ。何も知らない人が、この部屋をだけを見たら地下倉庫って答えそうだけど絶対に倉庫じゃない。なぜなら部屋の真ん中の台座に置かれている黒い立方体があり、その立方体には教団の紋章が刻まれているからだ。僕は同調と界気化かいきかした魔力で立方体の性質がわかったから近づいていくラカムタさんと父さんを呼び止める。


「ラカムタさん、父さん、その黒い箱には近づかないで」


 ラカムタさんと父さんは僕が呼び止めた瞬間に僕とサムゼンさんの近くへ移動した。


「ヤート……、あれがどうした?」

「この部屋の中に魔力を感じられない理由がわかった。その箱は魔力を吸収してる」

「それはヤートが使う宿り木の矢ミストルテアローのようなものか?」

「吸収量が小さい、対象を選んでないっていうを除けば似たようなものだね」

「そのようなものが、なぜここに……?」

「ゼビリランが自爆するためのものだね」

「ヤート、説明してくれ」

「あの箱は時間をかけて周囲の魔力を少しずつ吸収してて、ゼビリランが遠隔で起動させるかゼビリランに異常があった時に爆発する仕組みになってる」


 僕の説明を聞いてラカムタさんは首をかしげた。


「……だが、何も起きてないぞ?」

「ゼビリランは広間で僕の宿り木の矢ミストルテアローを受けたでしょ? あの時に宿り木の矢ミストルテアローがゼビリラン自身の魔力と箱自体に吸収されてた魔力を根こそぎ吸い上げたから爆発できなかったんだ。この箱がゼビリランと魔力的につながってたから良かったよ」

「ヤート殿、この箱は無害と考えて良いのか?」

「今はそうだね。でも、このまま魔力を吸収させ続けるのはまずいから無力化する」


 僕は腰の小袋から別の種を取り出し箱に向かって投げ魔法を発動させる。


緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ宿り木の抱擁ミストルテラップ


 箱に触れた種から根が伸び箱を覆っていく。そして箱の外側が根で見えなくなった後に発芽し箱から魔力を吸い上げていった。


「これで、この箱には魔力が溜まらないから大丈夫」

「ヤート、壊すのはダメなのか?」

「王都内にある間は壊さない方が良いよ。それにこの箱は教団が王都に細工したっていう証拠だから王様達に見せないと。そうだよね? サムゼンさん」

「ああ、そうしてもらえると我らも助かる」

「そうか。ヤート、動かして良いんだな?」

「うん、その箱は頑丈だから多少雑でも問題ないよ」

「ラカムタ、俺が運ぶぞ」


 父さんは黒い箱に近づき重さを確かめるようにゆっくり持ち上げる。


「それなら俺は運び出せるように隙間を広げるか。ヤートは少しでも異常を感じたら教えてくれ。それとサムゼン殿は先に地上へ戻ってもらいたい」

「わかった」

「了解した。台車の手配をしておく。また上で」


 僕がうなずいた後にサムゼンさんは地上へと走っていき、ラカムタさんはサムゼンさんが通り抜けた扉に近づいて片側の扉をつかむとためらいなくむしり取り部屋の隅へ無造作に投げ捨てた。…………ラカムタさん、それは隙間を広げるじゃなくて壊すだよ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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