王都にて その後の現状と潜むもの達のやり方
ゼビリランを主軸とする王都に存在していた教団の支援者達は一掃されたわけだけど、七日が経過しても王様達は一息もつけず忙殺されていた。捕縛者が数十人・誘拐監禁されていた被害者が数十人・亡くなっている犠牲者が数十人・ゼビリラン達に脅迫されていた人達が数十人とくれば全容解明には時間がいくらあっても足りないだろうからしょうがないね。
ちなみに被害者達の現状だけど体調が安定してる人達も衰弱していた人達も、徹底的に調査され健全だと判断された別の教会に移されて療養していて、王都に着く前に僕達を襲ってきた人達も今は静かに教会で眠っている。
それとゼビリランの専用区画の隅に無造作に積まれていた犠牲者達の遺体や骨は、僕が同調や
次に被害者達が療養してる教会に移動して各人の体調を確認していく。…………うん、確認した全員の体調は治療した時よりも良くなってきてるね。なかなかに重い事件だったけど、こうやって元気になっていく様子や家族の再会を見れたらホッとするな。
ただ……、一つ解せないのは僕がある一人の体調を確認してると周りで寝てる人達やその家族が僕を祈ってくる事。何で僕に祈るんだろ? 僕の護衛を兼ねてる兄さん達やミックが、まあしょうがないなって感じなってるのも気になりつつどんどん体調の確認を進めていき、他の被害者達より関わりが深い家族の体調を確認する番になった。
「ジーンアリスさん、旦那さんとお子さんの様子はどう?」
「ああ、ヤート殿。二人は落ち着いてるよ」
「それは良かった。でも、一応確認させてもらうね」
「よろしく頼む」
…………うん? ジーンアリスさんが気になるけど、まずは本題が先か。僕は寝台の端に座っているジーンアリスさんの旦那さんに触り同調で体調を確認して、次に寝台に寝ているジーンアリスさんのお子さんに触り同じく確認する。…………よしよし、他の人達と同じく順調に回復してるね。ジーンアリスさんが僕の様子を食い入るように見てるから二人の体調を調べた結果を伝える。
「二人の体調は回復してるよ。でも、精神面の衰弱はまだまだ残ってるから、ゆっくり休んでもらって」
「もちろん、そのつもりだ。…………ヤート殿」
「何?」
「私達家族は……いや、この部屋にいるものは全員ヤート殿に救われた。改めて心より感謝を申し上げる」
ジーンアリスさんだけじゃなく身体が動かせる人達も頭下げて、意識があっても身体を動かせない人達は顔を僕の方に向けて真剣な目で見てきた。…………これはどう反応するべきか悩むけど、とりあえず僕の考えを言っておくか。
「たまたま僕が植物達の力を借りてみんなを治せる方法を持ってたっていうだけで、そこまで僕自身に感謝される事じゃないよ。治せなかった人達もいるしね」
「それでも今日こうしていられるのはヤート殿のおかげだ。必ずこの恩は返させてもらう」
「そういうのは気にしなくて良いよ」
「……ふふ、バーゲル王の言った通りだな」
「うん? 王様?」
「そうだ。バーゲル王や宰相達は言っていたよ。以前の恩を返す前にさらに恩ができてしまった。これを返すには国を明け渡すくらいしか方法がないけれど、そんな事をヤート殿は決して望まないとね」
「確かに国なんてもらっても困る。誰かの上に立ちたいとも思わないし僕にとっては邪魔なものだよ」
周りで僕とジーンアリスさんの会話を聞いていた人達が驚くのを感じる。国なんてもらっても面倒くさいだけなのに、いらないって言うのはそんなに変かな? たぶん兄さん達も僕と同じような意見のはずだと思うから、あとで聞いてみよう。
じっくり時間をかけてゼビリランの被害にあった人達の体調確認を終わらせた後に、お世話をしてくれている教会の人達にあいさつをして教会から出る。するとジーンアリスさんが待っていた。
「ジーンアリスさん、どうしたの?」
「ヤート殿達は王城に戻るのかな?」
「うん、今日はもう予定がないからそうだね」
「迷惑でなければ同行させてもらいたいのだが、どうだろうか?」
僕が兄さん達を見ると兄さん達は何の反応もしない。うーん……、僕に任せるって事かな? それなら……。
「良いよ。いっしょに行こう」
「ありがとう」
僕達は連れ立って王城へ向け歩き出す。ちょうど会話の時間もできたし、ちょっと気になってる事を聞いてみようかな。
「そういえばジーンアリスさん」
「何かな?」
「働き過ぎてない?」
「うっ……」
「やっぱり」
「いや、その……、今回の全容解明には当事者である私が尽力するべきだと考えて……」
「…………家族が元気になってきてるのに、ジーンアリスさんが体調を崩すのは変な話だよ?」
「だが‼︎ あのゼビリランのやり方が判明した今、他国に潜在しているだろう教団の支援者どもを殲滅するために動かねばならんのだ‼︎」
「確かに、あれだけの執念深い根の張り方をされるのは嫌だし、すばやく壊滅させる必要があるのもわかる」
「……ヤート、そんなに変なやり方なのか?」
「うーん……、変というか目的達成のためには時間と労力を惜しまないって感じだね」
そう、あれから僕が読み取ったゼビリランの記憶をもとに調査が行われて、ゼビリランの背景やこの国でどんな風に誘拐監禁などの犯罪を重ねていたのかがわかった。
まずゼビリランは決して裕福な家の出身ではなくむしろ常に困窮しているような生活環境だったらしい。そんなゼビリランはある時、教団の支援者から接触があり立身出世の後ろ盾となる代わりに自分達に従えという言われてこれを受け入れる。どうやら教団の支援者は自分達でどんどん勢力を広げていたみたいで、ゼビリランのように後先のない人達を取り込み英才教育を施していろんな組織に送り出していたようだ。
ゼビリランの場合は教団の支援者の後ろ盾を受け、この国のある教会に所属した。その後、ゼビリラン自身の外面と知識に加えて教団の支援者による裏工作により瞬く間にこの国の教会関係の頂点である大神官にまで出世している。そんな磐石な地位についたゼビリランが次に実行したのは自分のいる王都の総本山とも言える教会の改築で、目的はもちろん教会の拠点化。
ここで疑問となるのは、なぜ王様達が今まで教会を拠点化するという大規模な動きを察知できなかったかだけど、理由は単純でこの国に前からいた教団の支援者とその支援者達に脅されたり買収された人達が行ったからだ。さすがに作業内容がまったく外部へ漏れないように仲間内で設計・建材と人集め・改築まで迅速に完了されたら察知しろっていう方が無理だね。
「我が家に入り込まれていたのは一生の不覚だ。今はどの家も新たな人材の確保と身辺調査の方法に頭を悩ませているよ……」
ある日突然ジーンアリスさんの旦那さんとお子さんが誘拐監禁された今回の事件でも、旦那さんとお子さんにそれぞれついていた従者の内の一人が犯人で、巧みに旦那さんとお子さんが一人になる状況を作り出し誘拐役の仲間に伝えていた。そして二人は一度も目撃されずに教会まで運ばれ、誰の目にも触れない秘密の通路を通って教会内部に監禁されたというわけだ。
本当に有能な敵は面倒くさいね。しかもその敵が目立たず静かにすばやく行動するから、さらに厄介だ。……まあ、今回の事で王都に存在していた教団の支援者の協力体制は消滅できたから王都は大丈夫なはず。それに捕縛された奴らを調べて行動を辿れば地方に潜んでる奴らもあぶり出せると思う。
あとはこのまま勢いよく教団へ殴り返すだけ。絶対にゼビリラン達をトカゲの尻尾切りにはさせないし、裏にも影にも闇にも潜らせはしない。僕は警戒を緩めないために
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューもお待ちしています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます