王城への旅にて 懐かしい事と若かりし頃

 出発の朝になった。出発するのは僕・四体・ラカムタさん・父さん・母さん・兄さん・姉さん・リンリーにサムゼンさんとヨナさんだ。父さんと母さんはともかく、まさか兄さん達がギリギリの辛勝とは言え狩人かりうど達に勝てるとは思わなかったね。


「よっしゃあ‼︎ 城へ行くぞ‼︎」

「そうね‼︎ 途中で怪しい奴がいたらぶっ飛ばすわ‼︎」

「私も全力で怪しものを消します‼︎」

緑盛魔法グリーンカーペット鎮める青リリーブブルー


 三人は一晩過ぎても狩人かりうどに勝った余韻が抜けずに興奮しっぱなしだったので、反動で体調が崩れるのを防ぐために落ち着かせた。


「……ヤート、悪い」

「騒ぎすぎだったわね……」

「すみません……」

「兄さん達が狩人かりうど達に勝ったのが嬉しいのはわかるし、落ち着いてくれたらそれで良いよ」


 僕の発言を聞いた兄さん達に負けた狩人かりうど達から次は勝つという意思が伝わってくる。兄さん達に負けた直後は愕然として動けなくなっていたけど、僕が治療した後から一晩経ち前向きになってくれて良かった。出発前にやり残した事は…………無い。周りのみんなを見回しても特に何か心配してる人はいないので、僕が村長むらおさを見るとうなずいて近づいてくる。


「お前達、何事もなく村へ戻ってくるようにな」

「うん」

「当たり前だぜ‼︎」

「もちろんです」

「わかってます」

「それとヤート……」

「何?」

「地形を変えるのはできるだけ我慢するんじゃぞ」

「…………うーん、必要と思ったら絶対にやるから約束はできないかな」


 村長むらおさがラカムタさんの方を向いた。それと兄さん達や四体にサムゼンさんが覚悟を決めた表情になってる。


「ラカムタ、くれぐれもくれぐれも頼んだぞ」

「ああ、必ず俺達で敵を倒してみせる」

村長むらおさの念の押し方と、みんなの表情は何?」

「ヤートは気にするな。俺達に任せてくれれば良い」

「そうなの?」

「そうだ‼︎」

「そうよ‼︎」

「そうなんです‼︎」


 兄さん達の後に四体からも任せてほしいと言われて説得される感じになってるのは何でだろ? …………まあ、やり過ぎるなっていう事だと思って納得しておこう。その後、僕らは少し話した村に残るみんなに見送られて村を出発した。




 村を出て順調に進み大神林だいしんりんを出たんだけど、そこで懐かしいけど問題が起こった。原因は四体と、サムゼンさんとヨナさんの移動手段となる黒曜馬オブシダンホース六足馬デミ・スレイプニルのにらみ合い。前に王城に行った時も大神林だいしんりんを出たところで同じようになってたから懐かしいね。ただ、今はあの時以上に移動に時間をかけていられない。僕は腰の小袋から赤い実を六つ取り出す。そしてものすごく静かに聞いてみる


「何してるの?」

「ガアッ‼︎」

「ブオッ‼︎」

「申シ訳アリマセン‼︎」

「…………ワルカッタ」

「「ヒヒンッ‼︎」」

「次はないから」


 四体と二頭がシュバッと離れたので今回は赤い実を腰の小袋に戻して、僕達は移動を始めた。ちなみに移動の陣形は、サムゼンさんの乗った黒曜馬オブシダンホースとヨナさんの乗った六足馬デミ・スレイプニルが並んで先頭を走り、次に僕とリンリーが乗った破壊猪ハンマーボアと兄さん・姉さんが乗った鬼熊オーガベアが続き、その後にラカムタさん・父さん・母さんが横並びで走り、最後尾がディグリとミックになっている。


 しばらく移動して思う事は、やっぱりラカムタさん・父さん・母さんの脚力と持久力がすごいって事だ。かなりの速度なのに三人は息も切らさず魔獣の速さに並走してる。さりげなく界気化かいきかした魔力で三人の体調を確認してみても本当に何の問題もない。……どれくらい鍛えたら、ここまでやれるんだろ。僕だと身体を魔法で強化しないといけないから、結局は魔力不足で遅れてしまうのが現実だよね。


「ヤート」

「母さん、どうしたの?」

「ヤートはヤートだから、気にしなくて良いわよ」

「…………うん、そうだね」


 母さん達を意識してたのが気づかれてたみたいだ。


「俺からも言うと、自分の納得できるやり方を見つけていけば良い。何事も慌てる必要はないぞ」

「うん、わかってるつもりだよ。父さん」

「俺も改めて言っておくべきか。ヤート、考えすぎるなよ。何かあったら、とりあえず俺にでも言え。物理的に解決できる事は協力できるからな」

「…………おい、ラカムタ。何で、俺にでもと限定した? そこは俺達にでもで良いだろ?」

「村以外だと俺が一番ヤートに同行する事が多いからだ。単純な事だろ?」

「…………」


 あれ? 何で父さんとラカムタの間で、いきなり空気が悪くなるの? というか父さんって、こんなに張り合う性格だったんだ……。僕が首を傾げてると母さんが走りながらススッと近づいてくる。


「昔からマルディとラカムタは、ガルとマイネみたいに事あるごとに張り合ってたわね。あまりに張り合い過ぎて建物を壊した時は、村長むらおさとかヘカテ爺にボコボコにされた事もあったわ」

「…………そうなんだ」


 僕だけでなく兄さんと姉さんも驚いた顔を父さんに向けたら、父さんは僕達から目をそらす。


「おい、エステア。昔の事は良いだろ。あれはラカムタが無駄に俺に突っかかってきただけだ」

「は? マルディ、ふざけた事を言うなよ。お前が俺にケンカを売ってくるから仕方なく相手をしてやってたんだろうが」

「「…………」」


 父さんとラカムタさんの間でバチバチと火花が散る感じになり、父さんが顔をクイっと動かす。ラカムタさんは首や肩をゴキゴキ鳴らした後にうなずいた。そして二人はバッとその場からいなくなる。


「ラカムタのおっさん⁉︎」

「父さん⁉︎」

「あそこね」


 走って移動してる最中に突然いなくなった二人に兄さんと姉さんが驚いてると、母さんが遠くの方を指差した。見たら遠くで土煙が上がってるのが見える。…………父さんとラカムタさんはあそこまで跳んでいって戦い出したの?


「マルディもラカムタもしょうがないわね。たぶんいっしょに行動するようになって昔の感覚に戻ったんだと思うわ。私達は先に進みましょう」

「エステア殿……?」

「本気でじゃれ合ってるだけだから、満足したら追いついてくるわよ」


 何でもない事のように言ってる母さんに全員が困惑気味だったけど、父さんとラカムタさんの事を一番知ってるのは間違いなく母さんで、その母さんが問題ないって言ってるんだから大丈夫だろうと無理やり納得して僕達は先を急いだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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