青の村への旅にて 青の老竜人の絶技と僕なりの戦略

 次々と竹が生え舞い落ちる葉の数も増えていく。順調に陣地を作り直せた。僕が右手を動かすと、その動きに合わせて舞い落ちていた竹の葉は自在に竹林の中をかけぬける。竹の葉って結構鋭いから竜人族りゅうじんぞくの大人が全力で投げた石くらいの速さだと、かなりの切れ味になるね。


「ヤート殿に感心させられるのは何度目でしょうか」


 僕の様子を見ていたタキタさんのつぶやきが聞こえて見ると、タキタさんが嬉しそうに笑いながら左足を前に出し横向き気味になって腰を少し落とした。僕とタキタさんの勝負が始まってから初めてタキタさんが構えてくれた。


「構えてくれるとは思わなかった」

「わしの足下の土中の事を考えれば当然ですよ」


 やっぱりバレてたか。タキタさんは地ならしの時も地中を進む根の動きを完璧に把握してたから、わかっててのおかしくもないと納得して僕は一番近くの魔竹に触れた。


「お願い」

「「「「「「なっ!!」」」」」」

「これはこれは……、心してかかるとしましょう」


 僕の対タキタさんの戦法はさっき言った通り『自分の陣地を作ってタキタさんを迎え撃つ』だけど、この一手は違って竹林の外にいるタキタさんの周りにも魔竹を生やして竹林を広げた。つまりタキタさんが僕の陣地に入ってくるのを待つんじゃなくて、僕からタキタさんを僕の陣地に巻き込んだという事だ。


「それじゃあ攻めさせてもらうね」


 僕が両手を広げたら竹林に舞い落ちていた葉全てが滞空し動きを止める。そして僕が両手をタキタさんに向かって振ったら竹の葉がタキタさんに殺到していく。確実に緑葉群帯リーフベルトよりも数が多いからタキタさんでも簡単には対処できないはずだけど……。


「ホッホッホ、これだけ動くのは久方ぶりですな」


 うん、多少は予想してたよ……。予想はしてたけどタキタさんの身体が高速で激しくブレて、それと同時にタキタさんに近づく竹の葉が全部粉々に打ち砕かれていくのはおかしい。何をどうやって動いたら視界を埋め尽くすような数に対応できるんだろ?


 ……このままじゃ攻めてる意味が無くなるからやり方を変えよう。まずはキッチリとしたタキタさんに攻撃を当てれる状況作りからだね。僕は竹の葉の動きをタキタさんに向かうものからタキタさんの視界を遮るものへと切り替える。


「ほう、今度はどんな事で、わしを驚かせてくれるのか楽しみです」


 タキタさんの周りを旋回する事で視界を遮ってるし、高速で動く竹の葉から出るザアアアっていう音で僕の声や音は聞こえてないはず。でもタキタさんの様子が奇襲を仕掛ける状況を整えられたのに変わらなさ過ぎてどうしようか悩む。


 …………もしかしてタキタさんは僕の魔力を感知してるとか? でも、欠色けっしょくの僕の魔力量は少ないし魔竹の魔力が周りに満ちてるからわからないはずだけど、相手が底知れないタキタさんだから竹の葉で視界が遮られ葉の動く音で聴覚を邪魔されても僕の事がわかってる前提で動くべきと思い直し、僕は腰の小袋から赤い実を取り出してタキタさんに向かって投げた。


緑盛魔法グリーンカーペット刺激する赤シャープレッド


 旋回してる竹の葉を抜けた時に魔法を発動して赤い煙を発生させる。固体だとタキタさんに迎撃されるけど気体なら対応に困るはず。さらに目立つ刺激する赤シャープレッドに紛れるように旋回していた竹の葉を再びタキタさんに殺到させる。


 パンッ!!!


「え?」


 突然大きな弾ける音が聞こえて、タキタさんに殺到していた竹の葉と刺激する赤シャープレッドの煙が爆風と共に吹き飛ぶ。反射的に僕は音と風から顔を腕で守った。魔力は使ってないはずなのに何が弾けたんだ? 風が弱まり腕を少し下ろしてタキタさんを見たら右掌を地面に向かって突き降ろしていた。


「これを使うのも久々ですね」

「何をしたのか聞いても良い?」

「簡単な事です。掌で空気を打って弾けさせただけですよ」


 発勁はっけいって事? そんな前世の世界でいう武術の達人みたいなマネができるわけが…………タキタさんならできてもおかしくないか。何より目の前で実際に吹き飛ばしてるんだから事実だって認めないと。


「隙ありです」


 いつのまにかタキタさんが僕の横にいた。唖然として少しだけ考え込んだだけでこれか。でも、これはしょうがないって割り切り覚悟を決めると同時にグアンって視界が動く。当然タキタさんに投げられたわけだけど今回は投げが不完全だった。なぜなら……。


「今度はわしが何をしたか聞いても?」

「見たままだよ。絶対にタキタさんが突破して僕に近づいてくるって思ってたから、服の下を通して魔竹の根を身体に巻きつけて固定してただけ」


 僕が身体を固定してたためタキタさんは、腕を振り抜けずに僕の肩に手を当てた状態で止まっている。この機を逃さず僕の方からタキタさんに触りにいくとタキタさんがサッて離れたけど甘い。


「なっ!!」


 おっ、タキタさんを驚かせる事ができた。さすがに僕が魔竹の根を巻きつかせたままタキタさんの方に根を伸ばして身体ごと移動して追ってくるとは思わなかったみたいだね。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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