王城にて 歓迎とやってきた面倒事
「バーゲル王の入場です」
なんだかんだで僕達は王城に着いて、さっそく王様に会う事になり謁見の間にいる。門で騒ぎが起こるかもって思ったけど、精鋭っぽい騎士の人達が予め出迎えと言う名の警戒体制をしていたから、特に待たされる事もなくすんなり謁見の間まで来れた。
ちなみに
僕がそんな事を考えていると、謁見の間の奥の扉から優しそうな恰幅の良いおじさんと同じくらい優しそうで綺麗なおばさんと、その二人に少し遅れて姫さんと厳しい顔をしたおじいさんが入ってきた。たぶん王様・王妃様・宰相かな。こうして見ると姫さんは王妃様似か。
王様達が入ってきた時にサムゼンさんはじめ
「お主ら王の御前であるぞ。控えよ」
「なんで?」
「なんじゃと?」
「なんで
「無礼な」
「……そう」
僕がラカムタさん・兄さん・姉さん・リンリーを見るとウンザリした顔でうなずいてきた。うん、気持ちは同じか。お互いに確かめると僕達は、謁見の間の入り口に向かって歩き出した。
「どこに行く気じゃ」
「帰るんだけど?」
「なんと!!」
「僕達は特にここに来たくもなかった。だから、文句を言われてまでここにいる理由がない」
「…………」
周りの
「ハズラが気分を害したなら申し訳ない。我らに貴殿らの時間を少しいただけないか」
「…………」
「どうだろう?」
「ふーん」
「ヤート、どうした?」
僕が足を止めて観察していると、ラカムタさんが何か感じたのか頭に手を置いてきた。……なんで?
「ラカムタさん、なんで僕の頭に手を置くの?」
「なんとなくだ。それよりどうした?」
「あのおじいさんが大変だなって」
「どういう事だ?」
「最初に僕らに無礼な事を言った後に、王様が改めて僕らを歓迎する事で王様の印象を良くしてるし、僕らはどういう考えを持ってるかを周りに示す機会にもなる。ハズラさんで良いのかな? そういう流れだよね?」
「…………」
「その感じだと当たらずとも遠からずかな」
なんとなく言ってみた事が当たったみたい。……どうしようかな。周りから微妙にイヤな視線を感じるし、サッサと帰った方が良いんだろうけど、ちょっと興味が出てきた。僕が悩んでいるとラカムタさんが僕の頭をポンと叩いてくる。
「良いだろう」
「ラカムタさん?」
「興味が出てきたんだろ? ヤートは俺達の事は気にせず動けば良い」
「良いの?」
「ああ」
「ありがとう」
「というわけだ。話があるなら聞こう。ただし
「もちろんだ。……そうだな。立ち話もなんだ。貴殿達と来た魔獣が休んでいる庭で茶会をするとしよう」
庭へと移動すると、顔色が悪かった騎士達がさっき見た時よりもさらに顔色が悪くなっていて、ほとんど土気色だった。しかも明らかにフラフラしている。うん、早めに対応した方が良い。
「ラカムタさん、あの人達だけど……」
「……とりあえずあの二体から離して休ませるか」
「今すぐ絶対安静にしないと危ないから、あっちの木陰に運んでほしい」
「わかった」
「ガル、マイネ、あいつらを運ぶの手伝え。リンリーはヤートのそばにいろ」
「おう」
「ええ」
「はい」
僕とリンリーが木陰に移動して治療の準備をしていると、ラカムタさん達が騎士達を肩に担いできた。静かに木陰に寝かせてもらって全員の体調を同調で確認する。……高位の魔獣の近くにいた事が、ものすごい負担だったみたいで全員の胃が激しくボロボロになっている。さらにずっと冷や汗や脂汗をかき続けていたから脱水症状も起こしていた。僕は胃の治療と脱水症状を同時に治療しないとまずいと判断して、腰の小袋から練り薬草を取り出して魔法を発動させる。
「
「
体調が悪い時は栄養をとって十分な休息を取る事が大事というわけでゆっくり眠ってもらう。僕が発生させた薄い催眠性の煙が寝ている騎士達の口に吸い込まれていき全て吸い込まれた頃には騎士達は、寝息を立てて深い眠りに落ちていた。これで目を覚ました時には健康な状態になってるね。僕が騎士達の状態と自分の治療方法に納得していると、ずっとイヤな視線を向けてくる奴らの方から舌打ちが聞こえてきた。
「チッ、恥さらし共め。あれほど普段大きい顔をしておきながらこの有様か」
「それはどういう意味だ? ギメン」
「サムゼン、簡単な事だ。貴様ら騎士は戦うだけしか能がないくせに、いざ必要な時になったら役に立たんという事だ。サムゼン、今のこの状況を見て、どこが役に立っていると言えるんだ?」
「それは……」
「面白い事を言うね」
「何?」
「ヤート殿?」
「まあ、必ずしも見た目で判断できる事じゃないけど、お前は本当に面白い事を言うね」
「貴様は何を言っている……?」
こいつは文句を言うって事がどういう事か知らないみたいだな。
「やって見せて」
「なんだと?」
「聞こえなかった? 大人しくしてるけど実際にはイラついてる魔獣二体のそばで待機して見せてって言ってる」
「そんなくだらん事など私がする必要ない!!」
「……それならなんでお前は文句を言ったの?」
「どういう意味だ?」
「お前、文句を言うって事は不満があるって事だよね?」
「それがどうした。そこの起き上がれない役立たず共の事を言って何が悪い」
「この騎士の人達は少なくとも倒れるぐらい役目を果たしてる。それじゃあ、お前は何ができるんだ? ただ他人の失敗をグチグチ言うだけ?」
「貴様……」
「それにお前とその周りにいる奴らは、王族を守る気もないなんてなかなかヒドいね」
「なんだと?」
「王族がいる場所で魔獣を警戒する事が、お前にとってはくだらない事なんでしょ?」
僕がそう言うとギメンとその取り巻きは明らかに動揺したけど、ギメンはすぐに冷静さを取り戻して自分にとってまずい状況にならないように言い繕う。
「ふ、ふん、そのような事は言葉の綾だ。まともに取り上げる貴様は気が狂っている」
「という事は、お前は王族を守る気はある?」
「当たり前だ」
「ふーん、それじゃあもう一回言うね。お前は王族を守る気があってこの寝ている騎士達より上手く魔獣の警戒ができるんでしょ? やって見せて」
「それは……」
「ちなみに言っておくと、さっきからお前が騒ぐから
僕がさらに責め立てて二体がじっとギメン達を見てたら、ギメンの取り巻きは完全に腰が引けてギメンは口をパクパクしだした。
「…………ふ……な」
「何?」
「ふざけるな!! 汚らわしい亜人ごときが私に指図するな!!」
「汚らわしい亜人ごときね。あのさ、汚らわしい亜人の僕がどういう理由でどういう立場でここにいるかわかってる? 僕はそこにいるお姫さんの命の恩人として、ちゃんと王様に迎えられる客としている。王様の臣下のお前がその僕に汚らわしい亜人ごときなんて言うのは、さっきの王様の歓迎をぶち壊してるよ? それともお姫さんの命を救うのは、お前にとって余計な事だった?」
ギメンが真っ赤な顔してギリギリと歯を食いしばっている。それにギメンの周りにいる奴らも僕の事を刺すような視線で見てくる。完全に嫌われたみたい。…………まあ、こいつらに好かれようとは少しも思わないから別に良いんだけどね。
「お前ら友達いないよね? だってさ、お前らの周りにいるのは、今この庭を囲んでいる奴らみたいな首輪を着けた奴隷だけでしょ?」
僕が言った事を聞くと一気にギメンの顔から表情が無くなった。
「……なぜわかった」
「僕は植物と植物に由来するものの力を借りれるし意思疎通もできる。この庭にある植物に教えてもらった」
「…………貴様は目障りだ」
ギメンがつぶやいて右手を上げると、庭の樹木・茂みの影・周りの建物の屋根なんかから次々と人影が現れて僕達を完全に囲み、元々ギメンの周りにいた奴らも剣や杖を構えた。うん、戦う気満々か。現れた人影を見てみると、
「貴様ら汚らわしい亜人は我らにひれ伏していろ!! その亜人と親しくするものも同じだ!!」
「ああ、お前は
「この世界の支配者は我らのような選ばれた
「…………はあ、面倒くさい。ラカムタさんすごく面倒くさい」
「ああ、そうだな。面倒くさいくだらない奴らだ」
「ヤート、俺達にまかせろ」
「そうね。ヤートが動く必要はないわ」
「ヤート君、大丈夫です。私もやります」
「貴様ら……、この状況がわからんとは所詮は獣と同じか。もう良い。貴様らが我らの言葉を話している事すら許せん。…………殺れ」
ギメンが右手を振り下ろすと、周りを囲んでいた首輪を着けた奴隷達が僕達に襲い掛かり、ギメンの周りにいた奴らは一人を残して他はサムゼンさん達に襲い掛かる。どうやらクーデターに巻き込まれたようだ。…………はあ、面倒くさい。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューもお待ちしています。
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