ep.31 孤独だった魔女
村の中心で炎が燃え盛り、皆が囲む様に眺める。
その炎に近付くティエラは、普段とは違い白を基調とした神官のような服を身に纏っていた。
炎を見つめるその瞳は何処までも澄んでいて、凛としていて。
朱に照らされたその蒼い瞳はいっそ神秘的でもあった。
「───これより、送魂の儀を行います」
その言葉を境に、場の空気が変わる。
幾人かが膝を付き、手を合わせ祈りはじめたのをエクスは視界の端で捉えた。
恐らく、これから送り出す人達に縁のある者だろう事を朧気に察する。
『天に御座す我等が神よ、星々の欠片達よ』
そして、始まる。
『どうか、揺蕩う魂を導きたまえ』
死した者達へと捧げる、別れと祝福の儀式────送魂の儀が。
ルシエラはエクスの隣で、儀式に参加していた。
この罪を忘れない様に。
そして、どうか送る魂に安寧が訪れるように。
儀式が始まり数分程経つと、辺りに不思議な空気が満ちる。
(……?)
ルシエラは視界に薄い何かが飛び回っていることに気が付く。
それはティエラの周囲を、祈っている者達の周囲を飛び回り、炎へと飛び込んでは消えていく。
暫くすると、それは何かを案内するかのように飛び回る。
ルシエラが目を凝らしよく見ようとして尚、それは薄い何かとしか形容できない物だった。
そして、案内していた何かが炎に飛び込んだ少し後で炎の色が蒼く染まる。
そこで、漸く納得した。
(……そうか、あの薄い何かは、魂を導くものだったのか………)
瞬間、鈴の音が辺りに響き渡る。
蒼い炎が、辺りを飛び交う薄い存在が、まるで夢だったかのように、消え失せた。
同時に、ティエラから終わりを告げられる。
「……これで、終わりになります」
炎がふわりと空気に溶けるように、消えていく。
「あ………」
何故か、涙が頬を伝っていた。
「……緊張しましたぁ………!」
へたり込む様に、地面へと座り込むティエラ。
辺りは解散し始め、人影も疎らであった。
「ティエラさん、凄かったですよ!」
「意外な一面だな」
何処か興奮した様にいうエクスと、にまりと笑うトーフェ。
「私は僧侶なんです!!」
何処か自慢げに耳をピンと立てる姿は先程とは似ても似つかない。
「私達もそろそろ寝ましょうか……」
立ち上がり、砂を払っているティエラに歩いてくる姿が一つ。
「ありがとうございます、ティエラ様」
「あ、おばあちゃん…」
先程の厳かな雰囲気が抜けきっていないのか、村長はどこか堅苦しい挨拶になってしまう。
「お陰で、彼等も無事に迷うこと無く向こうへと逝けたでしょう……それで、勇者様達は明日には発たれてしまうのですか?」
「あ、はい。僕達は近くの町で魔族の情報を集めながら進んでいくつもりです」
「次の町……と言いますと、この村から近いのはトットリアの町ですかの」
「はい、取り敢えずはそこに向かおうと思ってます」
そうですか、と頷く村長。
「彼処は倅が店をやっております、どうぞ使ってやってください」
「本当ですか!ちなみに、どんなお店を……?」
エクスが聞くと、嬉しそうにシワを深くしながら答える。
「仕立て屋をやっとる筈です。よく出来た子で……紹介状を出る前にお渡しします」
そう言うと、村長は家へと向かう。
「ルシエラさんも、今日は村長さんの家で泊まるんですよね?」
「ん……あぁ、うん……」
ルシエラは唐突に襲い来る眠気と戦っていた。
今日は様々な事があり過ぎた。精神的に疲れていたとしても無理は無かったのである。
「行きましょう、ほら!」
エクスは変わらず、手を差し伸べてくれていた。
その差し出された手が嬉しくてルシエラは
「………うん」
優しく握り返す。
この世界で孤独だった魔女はもう、一人ではなくなっていた。
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