ep.26 誤算とエクスの提案

ルシエラの言葉に反応をしたように、先程よりも更に周囲を破壊していく魔力。


その一部がルシエラへと向かい───


「はっ!!」


一瞬でエクスはルシエラの前に移動し、光を剣に纏わせると真上へと弾き飛ばす。


「一気に行く!着いてきてくれ!」


そう言うとルシエラは魔力の力場へと走り出し、周囲に不思議な紋様を展開する。


『魔術回路起動、侵蝕待機』


次いで、人差し指で魔法陣を描く。


走りながら描かれたソレは一切の歪みも無く、正しく発動する。


しかし再びルシエラに破壊の一撃が降り掛かろうとし


『────加速しろっ!!!』


瞬間、隙間を走り抜けエクスが叩き落とすと同時に魔法陣が効果を発揮させた。


魔力による破壊が一瞬停止し、ルシエラとエクスに掛かっている魔法が消え失せる。


「──魔力の動きを一瞬だけ止めた!また動き出す!」


その隙に力場へと辿り着き、その中へと侵入しようと試みるが、弾かれる。


「くそっ……!やっぱり弾かれるか……!エクス君!」


その言葉の先を読んでいたかのように、ルシエラに追いすがり、大きく踏み込む。


そして、魔力が再び動き出した瞬間。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


光の魔力を纏わせた剣で、空間に裂け目を作り出しそのまま転がる様に力場と二人は侵入する。


『────侵蝕開始!!!』



変化は一瞬だった。



力場に侵入した異物に反応し、破壊しようと迫り来る魔力が消え失せると、空間に凪が訪れる。




「……これで、破壊は無くなるはずだ……」


そう言うルシエラの表情は優れない。


「問題は、この魔力が私の中に戻らなかった事だなぁ……どうするか……」



ルシエラは、力場に入り侵蝕が終わった時点で魔力を一部取り込める筈だった。


その上で取り込めなかった残りをこの森に流し、先程自らの体質により吸収した魔力をこの森の回復に当てようとしたのだ。


しかし、侵蝕をした魔力は取り込めず弾かれる。


これは自らの封印後の魔力の許容量が予想以上に少なかった為である。


また、使った傍から封印された魔力の器から流れ出し回復していく為、使った分の魔力ですら取り込めない状態であった。




「なら、この力場の魔力を圧縮した上で空に飛ばす事って出来ますか?」



エクスの提案に、目を丸くする。


「できるが………何でだい?」


「えっと、さっきトーフェさん達に会えたんですけどその時に………」




話はルシエラを救い出す少し前に遡る。






『森の外で、待ってて貰いたいんです』



エクスの言葉に、トーフェは手刀を落とす。

鈍い音がエクスの身体に響いた。


『うぐぅ……』


『阿呆が!あの魔力はどうするんだ!今この場は何とかなっているがアレは辺りの魔力も吸収してるぞ!』


『吸収だけなら多分何とか出来ますから……!それに、森の外から斬撃に魔力を乗せて飛ばせば、あの魔力の力場を散らす事が出来るかとおもって……』


『……仮にあの吸収を何とか出来るとしてだ、散らすには木が邪魔だ。外からは無理だな』


『……空ならどうですか?』


『それなら出来ると思うが……森の中でやった方が良くないか……?』


トーフェの提案に、エクスは首を横に振った。


『森の中からだと、魔力を放出出来ない可能性があります。それに、近付けば近付くほど魔力を吸われて、切り散らせる程の魔力が無くなるかも知れないので……』


確かに、今はトーフェの放った斬撃により一時的にこの空間だけが吸収を免れているが、しばらくすればまた元通りになってしまう。


『成程な……しかし、上空に飛ばせるのか……?』


『多分……?』


首を傾げながら言うエクスに溜息を付く。


『はぁ……なら、良い。ティエラは連れて行くぞ』


『元から、一緒に連れて行ってもらうつもりだったので良いですけど……』



エクスの視線は何故なのかと問い掛けていた。


『私は魔力が圧倒的に少ないからな。あの力場を散らすなら私の魔力量じゃ役に立たん』


その言葉に、ティエラは納得する。


『だから先程も……?』



そんなティエラをひょいと小脇に抱えるトーフェ。


『そんな訳だが、童子はどうするんだ?』


抱えられたティエラが状況を理解し、恥ずかしさから抜け出そうと試みるが、諦めて力を抜く。



『僕は、あそこに居る人を助け出します』


『彼処に人が居るのか…!?』



『はい。助け出した後で、森の外から攻撃して欲しいんです』


『分かった。……気を付けていけ』


エクスは力強く頷き、立ち上がる。


『魔力の吸収が無くなってから10分したら、お願いします』


そう言うと、エクスは森の奥へと走り出す。



『……という訳だ、しっかり掴まれよ?』



『ちょっ……待ってくださ……』



トーフェはティエラを抱えたまま、その場を走り去っていった。





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