ep.24 もう一度手を
「エクスさん……!起きて下さい……!」
聴こえてくる言葉に応えるように、エクスは目を覚ます。
「よかったぁ……!大丈夫ですか!動けますか!」
「ん………大丈夫みたい。トーフェさんもティエラさんも、魔力は大丈夫ですか?」
起きたばかりのエクスは、先程見た記憶の欠片から今の状況にある程度のアタリをつける。
「私は結構減ってますけどまだ大丈夫です……って、今何が起きてるか分かってるんですか?」
「うん、ある程度。それで、魔力が流れてきてる場所を知りたいんだ」
トーフェはエクスの目を見詰めながら、確信しているかのように問う。
「童子は、アレを何とか出来るんだな?」
ティエラがトーフェの方へと振り向き、エクスは力強く頷いた。
「はい、恐らく」
驚愕したようにティエラはエクスへと向き直す。
「アレをですか……!?何か手伝える事は……!」
二人の顔をしっかりと見据えながら、エクスは心の中で思う。
(二人共、僕を心配してくれて、それでいて信頼してくれてる……今まで気付かなかった、僕が腑甲斐無いや……)
「うん、お願いがあるんだ……!」
際限なく辺りの魔力を吸い続け、その身を蝕む。
やがて魔力の流れはルシエラの周囲を渦巻く様に動きを変えた。
「うぐ………魔力が………爆発する………っ!」
周囲の空間に亀裂が走り、魔力の余波は木々を薙ぎ倒し、地面を抉る。
(……これで、私も終わりかな……)
覚悟を決め、ルシエラは一つの術式を展開させる。
自身が編み出した、術式魔法と魔法陣を組み合わせ、完成させた複合魔法。
流れ落ちる血の雫を気に止めることも無く、ただ一つの魔法を完成させるために指を踊らせる。
やがて周囲の魔力がパキリと音を立てながら、結晶へと少しずつ変わる。
同時にルシエラの身体が少しずつ結晶へと変化していく。
(あぁ、こんな時でも思い出すのはお母さんでもお父さんでもない)
視界に映る景色は何処までも破壊的で、自らの魔力が全てを無に還していくその景色を見ながら、その脳裏では過去に起きた出来事が過ぎ去っていく。
その中で何処までも輝かしく、暖かい気持ちになるその記憶はまだ新しい。
(君の事だなんて)
照れくさそうに、騎士になれる様に頑張りたいと言ったその姿が。
見せてくれた人懐っこい笑顔が。
(あぁ、どうやら私は君の事が…)
─────好きだったのかもしれないね……
「………ルシエラさんっ!!!!!」
声に驚き、振り向く。
「なん………で……」
傷だらけになりながら、それでもエクスは立っていた。
荒い息を整え、エクスは叫ぶ。
「っ………!助けに、来ました!!!!」
それは、ずっと求めていた言葉で。
それでもきっと無理だからと諦めていた言葉だった。
だから今も。
「っ!そんな事っ!出来るわけない!!これ自体は魔法じゃ……」
「知ってます!!」
遮るように、叫ぶ。
「魔力吸収体質のことも!それでずっと苦しんできた事も!!!だから助けに来たんです!!!」
エクスの言葉に驚き、魔法の制御を手放した瞬間、更に魔力が密度を上げる。
同時に結晶化が解けるが、ルシエラの身体には更に負荷が掛かり、膝を着く。
「ぐぅあっ!!」
「ルシエラさん!」
近付こうとするエクスを、密度の上がった魔力が全てを拒む。
その姿を見て、ルシエラは内心安堵した。
(……巻き込まずにすむ)
「ここは、危険だから……っ!早く逃げてくれ………!お願い……っ!」
「嫌です!」
弾かれた魔力の層に、エクスは強引に腕を差し込む。
押し出そうとする魔力と、それに反発するエクスにより、空間が軋んでいく。
「ルシエラさんっ………!手を………っ!」
バチりと反発した魔力により、エクスの腕から血が噴き出す。
「やめるんだ……っ!君まで巻き込んでしまう……っ!」
「もう、一人は嫌ですよね……っ!」
ビクリと体を震わせるルシエラ。
「ずっと、一人で怖かったんですよね……っ!いつか、災害を起こしてしまう事が………っ!一人で死んでしまう事がっ!!!」
顔を上げ、エクスを見る。
「僕が………っ!助けますからっ……だからっ………一緒に……行きましょうっ!!」
再び、エクスはルシエラに手を差し伸べる。
今度は、弾かれないように。
「魔王を討伐したら……僕と……世界を見ましょうっ……!沢山、色んな人と関わって、楽しく生きましょうっ……?」
ルシエラの世界から、音が消える。
「あ………」
震えた声で、尋ねる。
「ほんとう………?」
怯えた様に、震える少女にエクスは腕に走る痛みに耐えながら笑顔を作る。
「本当です……っ!」
ずっと待ち侘びてたその言葉に滴が一つ、また一つと頬から零れ落ちていく。
「……たすけてくれる、の?」
「ずっと、苦しかったんですよねっ……、!」
恐る恐る伸ばす手を、エクスは優しく。
確かに握りしめる。
「うん………うんっ………!こわかったんだ……!ずっとずっと……!」
強引に引っ張り上げ、エクスは抱き寄せると頭を撫でる。
「もう、大丈夫です………っ!」
エクスの手の甲にある勇者の紋が、光を放つ。
『どうか、悲しみに終止符を!』
鐘の音が周囲に鳴り響く。
その瞬間から、ルシエラが魔力を吸収する事はもう、無くなっていた。
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