ep.23 継ぐ者

「……失礼しました。エクスさんが勇者様だと気が付かず……」


椅子に座って小さくなるティエラに苦笑しながら、エクスは軽く手を振る。


「気にしないでください。僕も勇者というのがどういうものが良くわかってないので…」


それで、とエクスは続ける。


「これを返したくて、教会まで呼んだんだ」


そう言うとポーチから一振りの杖と指輪を取り出す。


「これ、君の師匠のだよね?僕のポーチに入ってたんだ」


そう言うとティエラの前に近付けた。


「これは……はい、確かに師匠の物です」


付いていた傷、長さも間違いなかった。

手に取り、もう居ないのだと実感する。


大事そうに抱き締めるティエラを見て、エクスは安心した様に息を吐く。


「良かった……渡す事が出来たよ。それで、もう一つ話があるんだ」


その言葉を聞くとティエラは大事そうに仕舞い込み、また一つ決めていた事を伝える為に覚悟を決める。


「ありがとうございます……私からもお話があります」


ティエラから予想しなかった言葉を聞き、エクスは目を丸くした。


「ほんと?……じゃあ、先に聞かせて欲しいな。僕のはその後でいいよ」


そう言うと同時に、ティエラの背後にある扉が開く。


「すまん、待たせたな童子。……っと。ティエラ殿もいたのか…話をしてる所、済まなかったな」


そう言うと、トーフェが部屋を出ようとする。


「お待ち下さい。トーフェ様にもお話があるのです」


ティエラが声を掛けると、トーフェは動きを止めた。


「……私もか?童子だけではなく……?」


不思議そうに声をあげるトーフェに肯定すると、トーフェは壁に寄り掛かる。


「……ふむ、なら聞かせて頂こう」

ありがとうございます、と礼を言うとティエラは覚悟を決める。


「お二人にお話したいのは、魔王討伐に関する事です」


その言葉に、一瞬部屋の空気に緊張が走る。


「………魔王討伐に関して……?」

「はい」


少し、間を置きティエラが話始める。


「……私の師匠、ラグリアは魔王討伐に選ばれた者でした」


「………君の師匠が?……でも、人族だったと思うけど…」


「確かに師匠は人族でした。けれど、魔王討伐の為に名乗りを上げ、獣人族のお抱えの僧侶として選ばれました」


ティエラの脳裏に在りし日が蘇る。


悪戯に笑う師が、『獣人族から選ばれたのが人族って聞いたら驚きますかね?』と嬉しそうに話す姿を。


「獣人族の中で、反対する者は誰一人として居ませんでした。そして、勇者様と合流するまでの間に、最後に教える事があると、私も同行する事になりました」


魔王討伐に出れば、無事に戻れる可能性は殆ど無いだろう。ならばその前にと、そう考えていたと思う。


話す師の姿は優しい瞳だったが、覚悟を決めて話していた。


「……結果として、師匠はあの場で私を庇い、死にました」


自分を庇い、それでも優しい笑顔を浮かべていた姿を思い出す。



そして今、貴方に救われた命を持って、貴方が成し遂げようとしていた事を私が継ごう。


「……つまり、何が言いたい?」


次に言う事を何となく予想し、トーフェの声が冷たくなる。


「……師匠は私の所為で死んだも同然です。だから、私はあの人の意思を絶やさぬ様に、継ぎたい」


深呼吸をして、言い放つ。





「……私も、魔王討伐に同行させて下さい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る