第72話:イベント開催
ジレラ夫妻に明日のことを説明すると、しばらくは仕事がないことに気づいているので快く了承してくれた。
廻は良い住民に恵まれたと感謝しながら、すぐに宿屋へと向かう。
アルバスの怒声を聞いていたので、冒険者はすぐに落ち着きを取り戻してアルバスも移動しているはずだと判断したのだが、その予想は当たっており宿屋にはすでにアルバスも到着していた。
ジレラ夫妻が了承してくれたことを報告すると、すぐにロンドも潜ると興奮気味に答えてくれた。
「小僧も三人組も、一五階層の
「えっ! そ、そんなあっ!」
珍しくロンドが我儘を言うように声を上げている。
ロンドにはいろいろな経験を積んでほしいと考えている廻だが、冒険者のことではアルバスの発言が正しいのだとも思っている。
アルバスがランドン討伐にふさわしくないと思っているのであれば、安全地帯までで止めておくべきだ。
「死ぬことを覚悟できるなら参加してもいいが、それだと小娘の意に反することになるぞ?」
「ロンド君、絶対にダメだからね!」
「…………はい」
盛大に肩を落として落ち込んでしまったロンドだが、カナタ達も残るのだと言い聞かせてようやく納得してくれた。
廻は忙しなく宿屋を後にすると、次に向かった先は道具屋である。
「ポポイさん!」
「いらっしゃーい! って、メグルちゃんか、どうしたの?」
「この後、もしかしたら冒険者がたくさん来るかもしれないので対応お願いしますね!」
「えっ! そうなの! ひゃっほーい! ……で、何があったの?」
道具屋にこもりっきりだったポポイは外の様子に全く気づいていなかった。
廻がイベントのことを伝えると、ポポイは『お祭りだ!』とその場で飛び跳ねると、すぐに在庫を店頭に並べ始めた。
「ぐふふ、今回は
「道具のことはお任せしますね!」
「まっかせといてー!」
その後は黙々と品出しを行っていたので廻は道具屋を後にする。
その直後から冒険者がぽつぽつと道具屋の方向へ歩いていくのを確認した廻の表情は自然と笑っていた。
※※※※
――時間はあっという間に過ぎていき、ランキング更新前日になった。
すでにダンジョン前には多くの冒険者が集まっており、ダンジョン攻略を今か今かと待っている状態だ。
そこに現れたのが元冒険者ランキング1位のアルバス。
背中にあるのはアークスが研ぎ、斬れ味が甦った
装いはいつものラフな格好からは異なり傷だらけの銀の鎧を身に纏っている。
騒がしくしていた冒険者達が一気に静まり返ると、アルバスはダンジョン入口の前に立ち声を張り上げた。
「野郎ども! このダンジョンには高レアリティのモンスターがいるはずだ! 階層もまだまだ浅い一五階層! ここで稼げなきゃいつ稼ぐんだ! 絶対に討伐するぞ! そして――楽しもうじゃないか!」
「「「「おおおおおおおおぉぉっ!」」」」
アルバスの鼓舞に冒険者達がそれぞれの武器を天に掲げて雄たけびを上げる。
その勢いのまま、アルバスを先頭にして冒険者達はダンジョンへと潜って行った。
※※※※
ものすごい勢いでダンジョンを降りていく冒険者達を、廻はモニター越しに眺めている。
一階層から五階層まではレア度1から2のモンスターを多く配置しているので歯ごたえはないだろう。その証拠に実力が足りないと判断された冒険者が率先してモンスターを討伐している。
実力者の体力温存、といったところだろう。
「それにしても、みんなすごく強いのね」
「冒険者だからにゃ」
「いや、そうだけどさ」
ニャルバンの素っ気ない返事に嘆息しながら、廻は一〇階層までは同じような光景が広がるだろうと予想している。
というのも、ここにいる冒険者達の多くが一〇階層まで攻略しているので道に迷うこともなく突き進むはずだからだ。
さらにアルバスまでいるとなれば、人数が多いので多少移動速度が落ちたとしても二〇分くらいでは一〇階層まで到達するだろう。
「でも、今回は大勢でパーティを組んでいるから安心して見ていられるんだよね」
「少ない人数だったら、こんな大胆に突き進めないのにゃ」
そのことを廻は実際に見たことがある。
カナタ達がダンジョンに潜り、一階層で死にかけた光景を。
そして彼らは、彼女らは知っているのだろう。ダンジョンでは油断してはいけないと。
大胆に進んでいるように見えるが、実際は戦闘をしていない他の冒険者が周囲に注意を払っているのが俯瞰で見るとよく分かる。
だからこそ前線の冒険者は目の前の敵に集中できており、後ろを気にすることなく戦えている。
ソロとパーティ、またパーティでも人数の多い少ないでもメリットやデメリットは存在するが、それらを天秤にかけて自分達の戦いやすい方を、全ての冒険者が選択しているのだ。
そんなことを考えながらモニターを眺めて四〇分が経った頃、冒険者達は一四階層まで進出を果たし、安全地帯で休憩を挟んでいた。
この先にいるのは新しく手に入れたレア度3のアウリーである。
経験値の実を使ってレベルは14まで上がっているとはいえライと比べるとまだまだレベルは低い。
一〇階層でレベル30のライを倒している冒険者からすると楽勝に思えるのだが、モニターの映像を見てどうなるのか楽しみになっていた。
「あっ! ボスフロアに入るみたいだよ!」
「今回は実力が低い冒険者だけで戦うみたいだにゃ」
「ロンド君やカナタ君達もいるね」
総勢七名の冒険者がボスエリアに足を踏み入れる。
念の為だろうか、アルバスも最後にボスフロアに入ると壁際に立って状況を見守っていた。
「みんな、頑張って!」
廻は七名の冒険者にエールを送った。
※※※※
前衛にはロンドとカナタを含む三名。
後衛にはトーリとアリサを含む四名。
ボスフロアに佇むのは可愛らしい見た目のアウリー。
傍から見ると一匹のザコモンスターを複数の冒険者がいたぶろうとしているように見えてしまうかもしれないが、アウリーも紛れもないレア度3のモンスターである。
ただ、七名の冒険者の中でアウリーラウを知っていたのはロンドだけだった。
「お先に失礼するわよ!」
見た目に騙されて先行したのは前衛の女性冒険者――リサエラだった。
「リサエラさん! ダメですよ!」
「ドロップアイテムは討伐した人の物だもんね!」
ロンドの制止を振り切り、手に持つ長槍のリーチを活かしてアウリーの間合い外から横薙ぎを放つ。
軽く後ろに飛び跳ねて回避したアウリーは、着地と同時に強靭な脚力を活かして頭から飛び込んできた。
「ぐふっ!」
「カナタ!」
「任せろ!」
ロンドとカナタが左右からリサエラを挟み込むように駆け出すと、密着した状態のアウリーめがけて先にロンドが上段斬りを放つ。
頭をリサエラの腹部にめり込ませていたアウリーは体の向きを変え、今度は胸を蹴りつけて上段斬りを回避する。
だが進行方向に回り込んでいたカナタが袈裟斬りを放った。
「キュキュー!」
そこに放たれたのはアウリーの最大の攻撃であるおならだった。
アルバスはアウリーのおならを単純に臭いと表現していたが、実際はそれだけではない。
高圧力から放たれるおならは宙に浮いているアウリーの小さな体を、その威力をもって軌道修正することが可能となる。
故に、カナタの袈裟斬りは空を切り、なおかつ間近でおならを浴びてしまい顔を歪ませて咳き込んでいた。
「げほげほっ! く、くっさいなあ!」
「カナタ! 早くその場から離れて!」
ロンドの切羽詰まった声にカナタの体は自然と動いていた。
直後、先ほどまでカナタが立っていた場所で爆発が発生。
何が起こったのか分からないカナタとリサエラだったが、これがアウリーの仕業だということだけは理解していた。
「アウリーラウのおならは可燃性のガスなんです! おならを浴びてしまったらその場に留まらず、すぐに移動してください!」
「お、おう!」
「……分かったわよ!」
リサエラだけはあまり納得していないようだったが、自分が突出したことでカナタが爆発に巻き込まれそうだったこともあり渋々返事をしていた。
「今度は三人で連携を取って仕掛けます! アリサさん達はアウリーラウの逃げ道を塞ぐようにして魔法をお願いします!」
「分かったわ!」
前衛の三人はすでにトーリから支援魔法を受けている。
速度向上に加えて、アルバスから指摘を受けていた耐久向上。
ドラゴンテイルに戻っている間、トーリは必至に支援魔法の勉強をしており、ジーエフに戻るギリギリで耐久向上を習得していたのだ。
トーリの支援魔法があったからリサエラは最初の一撃で膝を折ることはなく、またカナタも爆発から逃れることができた。
今回の後衛はトーリ以外は全員魔法師だ。
故に、ロンドの指示を的確にやってみせた。
正面からロンド、左からカナタ、右からリサエラがアウリーへと迫る中、後衛の男性魔法師――アボットが土魔法を発動する。
「アースウォール!」
アウリーの背後に土の壁がせり上がり後ろへの逃げ道を塞いでしまう。
「グリーンウィップ」
次いでもう一人の女性魔法師――ルエンが伸縮自在の茨を何もない地面から作り出してアウリーの左右に茨の壁を形成する。
「ファイアボール!」
最後にアリサが威力を向上させたファイアボールを頭上へと放ち上への逃げ道を潰す。
「
正面から迫っていたロンドが退路を断たれたアウリーにタイミングを合わせて一瞬で迫り、すれ違いざまの横薙ぎを叩き込むと、態勢を崩してその場にへたり込む。
間髪入れずにカナタが上段斬りを振り下ろし、最後にリサエラの刺突がアウリーの胸部を貫いて勝負あり。
アウリーは白い灰になり、その中にドロップアイテムが転がり落ちていた。
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