第40話:ランキング

 カナタ達がジーエフを離れてからというもの、今までの静寂が嘘のように多くの冒険者が訪れてきた。

 宿屋も満室となり、時にはロンドやアルバスの家に泊まることもあった。

 ロンドの家には比較的新人に近い冒険者が泊まり、アルバスの家には中堅からベテランの冒険者が泊まる。

 女性冒険者がいる場合は優先して宿屋に泊めていた。


 話を聞けば、発見されたばかりのダンジョンではよくある光景らしく、冒険者からも不平不満の声は聞こえてこなかった。

 持ちつ持たれつが暗黙のルールでできている冒険者は、ある意味でとても真面目な人なのかもしれないと廻は思っていた。


 そして、廻が一番気になっていたのは都市の評判である。

 人気ダンジョンを作ることが目的なのだが、ニーナと話したことでダンジョンだけでなく、人の良さも大事にしなければと考えている。

 都市で受けたおもてなしがどうだったのか、そこを冒険者の口から直接聞きたかった。


 廻は自身が経営者であることを名乗り、その上で忌憚のない意見を求めた。

 最初は困惑する冒険者達だったが、廻の見た目も影響したのだろう。多くの冒険者から率直な意見を聞くことができた。

 おもてなしは上々で、宿屋の料理は絶品なのだとか。

 さらに、アルバスがいることで中堅やベテラン冒険者も様々なアドバイスを受けることができると、こちらも喜んでもらえた。


 意外だったのは、ロンドに対する評価である。

 新人とは思えない身のこなしでダンジョンに潜る同じ新人達を助けて回っていた。そのことが高評価につながったらしい。

 新人に近い冒険者がロンドの家に集まったのも頷ける結果だった。


 最後にダンジョンの評価である。

 こちらは──概ね良い評価を得ることができた。

 新人からは難易度が高いという声が聞こえてきたが、配置しているのはレア度1のモンスターがほとんどで、最高でもレア度2である。

 そのことに気づいていた中堅冒険者からは、新人達がお叱りを受けていた。これも冒険者の心得にあたるらしく、先輩からの洗礼だと叱っていた冒険者は笑っていた。


 中堅やベテラン冒険者からは、発見されたばかりのダンジョンにしては手応えがあったのだと喜んでもらえた。

 だが、レア度が低いためにドロップアイテムに期待ができないのは改善が必要だとも言われてしまった。

 そこはガチャ運次第でもあるが、最高でもレア度3しか出てこないことは知っているので難しいところである。

 レア度の低いモンスターをこつこつと育てては、昇華と進化を繰り返さなければならないだろう。

 後は、何とかしてレアガチャ券を手に入れる。これが一番早い解決方法だろうとも思っていた。


 後は施設についての声も上がった。

 多かった声が、やはり酒場である。

 ダンジョンから戻ってきたら、酒を飲んで盛り上がりたいのだが、宿屋の食堂ではそれも難しいらしい。

 ニーナの雰囲気もあるのかもしれないが、食堂だと酒を飲まない客もいることから冒険者達はそこまで騒げないのだとか。

 それと、ロンドが口にしていた鍛冶屋についても声が上がった。

 武具の整備は冒険者の命に直結するとあって、絶対に必要だと念を押されたのだ。


 総合的な評価として、出だしは好調だったと言っていいだろう。

 当面の目標としては、酒場と鍛冶屋を造ることになる。

 レア度の高いモンスターに関しては、どうしても時間が掛かってしまうので保留となった。


 ※※※※


 そして今、廻は経営者の部屋マスタールームに足を運んでいた。ニャルバンから呼び出しを受けたのだ。

 何事かと思っていたら、ニャルバンが少し興奮ぎみに理由を教えてくれた。


「新しいダンジョンランキングが更新されたのにゃ!」

「えっ! そうなの!」


 ダンジョンランキングは二週間に一度更新される。

 誰がどのようにしてランキングを決めているのかは分からないのだが、そのランキングによっては得られる情報が増えたり、神様からのプレゼントが貰えることもあるので、なるべくなら早く上がりたい。

 廻はウインドウを開くと、ジーエフの情報欄を開いてニャルバンも顔を寄せ遭いながら確認した。


「……あ、上がってる!」

「本当だにゃ! 上がってるにゃー!」


 ジーエフを開放した直後のランキングは1025位だった。

 廻以外にもダンジョンを開放させた経営者がいたということなのだが、現在のランキングでは──


「1013位!」

「二桁も上がってるのにゃ! メグル凄いのにゃ!」

「やったー! ニャルバン、ありがとね!」

「僕はなにもしてないのにゃ! これは廻の成果なのにゃ!」

「ううん、違うよ。私一人じゃあ、こんな成果を出せなかったよ。ニャルバンと、みんながいてくれたからの結果なんだ! だからニャルバン、本当にありがとう!」


 改めて言われて、ニャルバンは耳に手を当てながら照れている。

 その姿が可愛かったのか、廻はニヤニヤしながらその姿を眺めていた。


「そうだ! 目標の1000位はどうなってるかな?」

「そうだにゃ……あれ? 変わらずオレノオキニイリなんだにゃ」

「ここって、私が開放する前からこの順位だよね? まさか、狙ってやってるとか?」

「それは難しいと思うのにゃ。他のダンジョンもランキングを上げるために頑張ってるんだから、向かれれば下がるのにゃ。きっと、多少は上下しているはずなのにゃ」


 だとしても、この順位ばかりを上下しているとなれば、あまり成長を感じられない気がする。

 それこそ最初に感じた違和感そのままなのではないだろうか。

 気になりオレノオキニイリの情報を確認すると案の定、鍛冶屋や武具屋が多く、住居が極端に少ないままだ。というか、その差がさらに広がっているのだから驚きである。


「この二杉ふたすぎ礼央れおって人は何を考えてるんだろうね」

「どうなんだろうにゃ。本当に、自分好みの都市にしている意外には考えられないのにゃ」

「ここまでやられると、住民も大変でしょうね」


 だが、廻からすると気になる点も一つある。


「これだけ鍛冶屋があるんだから、職人の一人くらいこっちに来てくれないかしら?」


 鍛冶屋は冒険者から話が出ていた中でも優先順位の高い施設である。

 どうにかして勧誘できないかニャルバンに聞いてみると、それは難しいという答えが返ってきた。


「ロンド達みたいに意識を連れてくることも今はできないのにゃ。冒険者から噂が広がって、鍛冶師が自発的に来てくれることを祈るばかりなのにゃ」

「そっかぁ。……それじゃあ、誰かオレノオキニイリに行く冒険者がいたら、声をかけてもらうってのはありなのかな?」

「それはありなのにゃ! だけど、過度な勧誘は相手側から抗議されることもあるから注意が必要なのにゃ」


 過度に勧誘を続けてしまうと、住民を奪ったと難癖をつけられることがある。

 自主的に移住してくれれば一番なのだが、目的の職種を連れてくるならば、やはり勧誘が一番早いのだ。

 無理矢理にならないよう、注意できる冒険者にお願いしなければならなかった。


「その辺はきっと大丈夫よ」

「どうしてなのにゃ?」

「んー、なんとなく? 話を聞いてたら、中堅さんやベテランさんなら、その辺りをいい塩梅でやってくれそうだものね」

「そんな単純じゃないのにゃ。本当に、気をつけて頼むのにゃ!」

「了解したわよ!」


 こうして廻のダンジョン経営は始まった。

 ダンジョン開放と冒険者来訪でいくつか神様からのプレゼントも手に入っている。

 レアガチャ券はなかったが、見た目を豪華にするアイテムだったので、その辺りはまたみんなで配置を決めていくことにした。


「さーて、明日もガチャをしながらダンジョンを経営するわよ!」


 まず目指すはランキング1000位。廻はそこを目指し、毎日欠かさずガチャを引くのだった。


 第1章 完

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