ダンジョン開放

第24話:ジーエフ

 廻がダンジョンを開放した直後、全ての経営者に新たなダンジョンが発見されたとメニュー画面に知らせが届いた。

 それと同時に都市にも自動的にアナウンスが流れ、都市に暮らす住民や冒険者にも情報が広がっていく。


『――アラタナダンジョンノナマエハ、ジーエフ。アラタナダンジョンノナマエハ、ジーエフ』


 電子音でアナウンスされたその一報に、多くの冒険者が立ち上がり、装備を整え、何処に現れたかも分からない新たなダンジョン、ジーエフを目指して旅立っていく。

 千以上ものダンジョンが競い合う群雄割拠の時代において、新しいダンジョンはどうしても遅れを取ってしまうもので、階層も浅くレアアイテムが出てくることも稀である。

 それでも冒険者が新たなダンジョンを目指して旅立っていくのには、レアアイテムを求めるだけではなく、単純に冒険を楽しみたいという子供心が残っているからだろう。

 そして、冒険者は見極めるのだ。


「――今度の経営者は、良いやつか? 悪いやつか?」


 冒険者の言葉が風に乗って噂となり、いつしか事実として広がっていく。

 ジーエフの経営者がどのような人物なのか、子供心と対を成して、厳しい目で見る大人心をも冒険者は持ち合わせているのだ。


 ※※※※


 ジーエフを開放してから数日は誰も訪れることがなかった。荒野のど真ん中にあるダンジョンなんてすぐに見つかるわけもなく、廻は住民達とのんびり過ごしていた。

 その間にもガチャを引いてはモンスターのレベルアップに勤しんでいたものの、経験値の実を追加で手に入れることはできなかったので劇的なレベルアップには至っていない。

 ただ、モンスターの種類は増えているのでその点だけは廻を喜ばせていた。


「ふんふふーん、ふふーんふん!」

「うふふ、今日のメグルさんはごきげんですね」

「そうなんですよニーナさん! なんと、レア度2のモンスターが当たったんです!」

「やったのにゃ!」

「まあ! それはいいことなのね、良かったわ」


 よく分かっていなかったニーナだが、廻の喜び具合を見て合わせてくれるあたり大人の女性である。

 新たに手に入れたレア度2のモンスターはゴーストナイト。

 中身のない鎧が勝手に動いて攻撃していくるモンスターで、レベルが低いと動きがぎくしゃくして攻撃を当てることがほとんどできないのだが、レベルが上がると人間のような鋭い動きを可能とする。

 余ったゴブリンやスライムを素材にしてレベルは7まで上がっているものの、まだまだ動きはぎくしゃくとしている。

 それでも、四階層のボスをライガーからゴーストナイトに変更していた。やはりレベル上げは冒険者との戦闘で稼ぐ方が効率は良いという結論に至ったのだ。


「それにしても、皆さんお強いのですね」

「本当ですね。アルバスさんは分かっていましたけど、まさかねぇ」

「僕も驚きなのにゃ。まさか――ポポイまで潜るとは思わなかったのにゃ」


 三人が驚いているのは道具屋の店主として契約したポポイである。

 ロンドとアルバス、二人はコンビを組んで暇な時間を使ってダンジョンに潜っていた。

 そこに混じってきたのがまさかのポポイなのだ。


「嬉々として色々なアイテムを使ってましたからね」

「最初の大爆発にはアルバスも口をあんぐりしていたにゃ」


 ポポイお手製のアイテム――火炎瓶フレイムボトルをモンスターに投げつけると、地面が震えるほどの大爆発を起こして炎が乱れ踊ったのだ。

 現役時代に多くのダンジョンに潜ってきたアルバスも見たことがなかったようで、何も言えずにただただ炎を眺めていた。


「まあ、そんなことがあったのね。でも、三人が仲良くなってくれてよかったわ」


 どこかのほほんとした雰囲気でお茶を飲みながらそう口にしたニーナに、廻とニャルバンは苦笑する。


 そんなダンジョン探索だが、開放をしても本来は裏口から入って安全に試す予定だったのだが、アルバスが入口から入って確かめるべきだと主張した。

 それでは怪我をした時に危険だと廻は意見したが、冒険者に怪我を気にせずダンジョンへ潜らせることの方が危険だと進言した。


「冒険者は常に死と隣り合わせなんだぞ。ずっと安全な裏口から潜っていたら、いざ本当のダンジョンへ潜った時に危険と安全の線引きが甘くなっちまうんだよ」

「それは! ……そう、かもしれません」

「小僧に冒険者としての仕事もさせるなら、その線引きだけは間違えちゃいけねえんだ。だから俺も一緒に潜るって言ってるんだよ」


 口は悪いがロンドを心配してのことである。さらに冒険者の心得としても、危険と安全の線引きは先輩冒険者が新人に伝える最初のことなのだと教えてくれた。

 そういうことならと廻も了承して入口からダンジョンへ潜ってもらっているのだが、そこにポポイが加わったおかげもあり五階層までダンジョンを確認することができた。

 四階層と五階層のボスが同じライガーでは楽しみが欠けるという意見が出たのは良かった。実力は違えど見た目が同じだと、どうしても繰り返しの映像でまたか、と思われても仕方がない。

 そこに新しく手に入れたレア度2のゴーストナイトを配置したことで、繰り返しのボスを無くしたのだ。


 そして今も三人はダンジョンへと潜り新しい四階層を試してくれている。

 ロンドの成長につながる三人の探索だが、これはモンスターの成長にもつながっている。

 一階層から四階層までのランダムはレベル1しかいなかったが、いくつかレベルが上がっており、昇華させた名前付きの五匹のモンスターもそれぞれレベルが上がっていた。


「三人で潜るようになってからはライもレベルが上がってくれるし、進化に必要なゴブリンとスライムもレベル10になって昇華してくれたし、ライガ―ももうすぐレベル10になるし、冒険者を雇うとこういったメリットもあるのね」

「人気のあるダンジョンでは冒険者もひっきりなしに来るから別だけど、開放してすぐのダンジョンでは大事なことなのにゃ。だけど、メグルの場合は特別だと思うにゃ」

「そうなの?」

「普通なら、お試しは裏口から入るのにゃ。裏口から入ったダンジョンではモンスターは成長しないのにゃ」

「そっか。アルバスさんが線引きを引いてくれて、さらにポポイさんと三人で潜れているからこそできる芸当ってことね」


 ロンド一人であれば廻も入口からダンジョンを試すようなことはしないだろう。死なないと分かっていても、痛い思いをしてほしくないと経営者の部屋に戻していたくらいなのだから。


「あっ、ゴーストナイトも倒されちゃいましたね」

「あらあら、せっかくメグルさんが喜んでいたのに」

「えっと、ニーナ? 倒されるのは仕方ないのにゃ」

「あらあら、そうなのですね。おほほほほ」


 そうして五階層に潜って行く三人だが、ここが毎回苦しめられる階層である。

 何といってもランダムにスラッチとゴブゴブがいる。ボス以外にも気を付けなければいけないのだ。

 それでもオートを倒すのにはポポイの高火力アイテムが火を噴くので苦にもなっていない。


 ランダムが現れた時にはロンドが主に戦っているのだが、アルバスの指示もあって危なげなく戦うことができており、廻も安心して見ていられた。

 スラッチとゴブゴブの時にはアルバスが戦い方の指南だと言って剣を振るったのだが、片腕で振るうには巨大過ぎる大剣――クレイモアを軽々と振るい打ち合っている。

 そして動きが鈍重かと思えばそんなことはなく、相手の太刀筋を見極めて細かなステップで回避していく。

 冒険者ランキングでトップを争っていたというのは本当なのだと廻は驚いていた。


 そうして進んだ先で対峙したライとの戦闘はロンドがメイン、アルバスがサポートに入って二人で戦っていた。

 ポポイはというと、持っているアイテムが高火力過ぎて単体相手には不向きなため後方に控えている。それもすぐに安全地帯セーフポイントへ下がれる位置にだ。

 さすがのアルバスも離れた位置にいるポポイを守ることはできないので、その対策としての立ち位置である。


「大振りになるな! 機敏な相手には振りを小さく、確実に当てて消耗させろ! 何度も言わせるなよ!」

「は、はい!」

「それと、パーティを組むなら後ろのことも考えろ! 今の小僧の立ち位置だと、何かあった時にターゲットが眼鏡に切り替わるぞ!」

「気をつけます!」

「それと眼鏡も気を抜くなよ! 何をよそ見してるんだ!」

「はいはーい!」


 後ろにも目が付いているかのようにポポイにまで指示を飛ばすアルバス。

 実際にポポイはダンジョンの壁をまじまじと見つめては手で触り、その材質が何なのかを気にしていた。ダンジョンも研究対象として認定されたようだ。


「たくっ! 小僧、さっさと仕留めろよ。俺がそっちに追い込むからな!」

「わ、分かりました!」


 ライめがけて駆け出したアルバスは、ロンドに指摘したように重量のあるクレイモアを小さな振りで何度も振り抜き、ライに反撃の隙を与えない。

 堪らず後退したその先には、回り込んでいたロンドが待ち構えていた。


加速アクセラ!」


 死角からの一撃は、ライの反応を上回り体を両断するに至った。

 ドロップアイテムを回収した三人は、ダンジョン探索に必須の脱出アイテム、ダンジョン入口までテレポートできるエスケイプを使用してダンジョンを後にした。

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