第17話:到着
アルバスとの契約を終えて五日が経った。
その日の外は晴天で荒野を歩くにはあまりにも暑い日照りだったのだが、
その人影は廻が今か今かと待っていた人物だった。
「ようこそ私のダンジョンへ! 待ってたわよ、ロンド君!」
一番最初に雇用したロンドが、やはり一番乗りでダンジョンに到着したのだ。
「さすがにこの天気では暑かったですね」
「ごめんね、こんな荒野のど真ん中で」
「いえ、ダンジョンとしては割と立地はいい所だと思いますよ」
「ニャルバンと同じことを言うのね」
「山の頂上とか沼地とかもあるので」
ダンジョンだけではなく、その周辺に主要施設や住居を建てることも考えると、やはり平地になっている荒野は比較的良い立地ということになるのだろう。
「それよりも……まだダンジョンの入口しかないんですね」
ロンドが言う通り、ダンジョン周辺に何もない。それこそロンドが暮らす家すらないのだ。
「そこはニャルバンが説明してくれるから、とりあえずは
「ありがとうございます」
「それじゃあこっちに来てちょうだい」
「ここ、ですか?」
廻に言われてロンドはダンジョンの入口付近で隣り合わせに立つ。
「ハウス!」
直後には視界が歪み、一瞬で真っ暗な空間である経営者の部屋に移動した。
「……なんか、凄いですね」
「私も最初は驚いたけど、慣れるとどうってことないわよ」
「おかえりなのにゃ!」
あっけらかんと言い放つ廻の後にはニャルバンが手を振り出迎えてくれた。
ロンドと交渉をした前回とは違い机と椅子が用意されており、机の上には氷が入ったグラスに水がなみなみと注がれている。
とりあえず椅子に腰掛けた二人はキンキンに冷えた水で喉を潤すと、外で話をした建物についてニャルバンが説明を始めた。
「ダンジョン解放前に契約した人には神様から住居が用意されているのにゃ!」
「か、神様ですか?」
「そうなのにゃ! でもでも、その住居にも種類があるから住む人に選んでもらっているにゃ!」
「間取りってことですか?」
「その通りにゃ! 三パターンあるからロンドに決めてほしいにゃ!」
ニャルバンが取り出した間取りを見てみると、平屋建ての横に広い間取りと、二階建ての縦に長い間取りと、平屋建てで少し狭いけど小さな庭がついている間取りの三パターンだった。
「私は庭付きがいいなー!」
「メグルはここで暮らすから家はいらないのにゃ」
「えっ、そうなの? たまには外で寝泊まりしたいじゃないのー、私にも建ててよ!」
「これはロンドや他の契約者へのプレゼントなのにゃ! メグルへのプレゼントじゃないのにゃ!」
「……ケチ」
「で、できないものはどうしようもないのにゃ!」
廻とニャルバンのやり取りを見て、ロンドは驚きの表情を浮かべていた。
それも仕方なく、経営者というのはたいていが威厳を示して契約者相手に上から目線の人間が多い。それがただ都市で暮らしている住民に対してであればなおさらだ。
ロンドも以前暮らしていた都市のスプリングでは経営者に良い思い出がなかった。そのせいもあり二人の気兼ねないやり取りは意外だったに違いない。
「ロンド君はどの家がいいかな?」
「あの、僕が選んでいいんですか?」
「当然じゃない。ロンド君が暮らす家なんだから」
「……そう、ですか。分かりました」
ニャルバンから提示された間取りをまじまじと眺めて考えること数分、ロンドは庭付きの家を選択した。
「やっぱり庭付きの家はいいよね、憧れだよね!」
「そうですね。それに、庭があれば剣の素振りとかもできるので助かります」
「……えー、家庭菜園とかしないの? お花畑にとかしないの?」
「あの、その、やった方がいいですか?」
「メグル! ロンドが困っているにゃ! 押し付けはいけないのにゃ!」
「おっといけない、そうだったわね。ごめんごめん」
「あ、その、いえ」
そして経営者から簡単にとはいえ謝られることもなかった。
困惑するロンドを置いてメグルとニャルバンは話を進めていく。
「最初は集落だからそこまで大きくなくてもいいのにゃ。だからロンドの家もダンジョンの入口に近い方がいいと思うにゃ」
「でも、これから宿屋や道具屋や換金所も建てるのよ? そういった施設を近くに建てるべきじゃないかしら」
「それもそうだにゃ。だったら少し離れたところにするのかにゃ?」
「うーん、他の都市を見たことがないからなぁ。他にも必要な施設はあるんでしょ? だったらその分はスペースを空けておくべきだよね」
うーん、と唸りながら悩み続ける二人を見ていると、突然視線が廻と交わってしまったロンド。
「……あっ! いるじゃないの、他の都市を見たことある人がここに!」
「……えっ? ぼ、僕ですか?」
「他に誰がいるのよ! ロンド君の意見も聞かせてくれないかな? お願い! 私を助ける為だと思って!」
今までの経営者像とは異なる廻を見て、ロンドは悩みながらも恐る恐る口を開く。
「……い、今言った施設の中で道具屋と換金所はダンジョンの入口近くでいいと思います。ただ、宿屋は近くなくてもいいと思います」
「そうなの?」
「冒険者のほとんどがダンジョンから戻ってきて換金所に寄ると、その足で酒場に行く人が多いんです。その後に宿屋に行きますから、宿屋は多少離れていても問題ありません。しいて言うなら酒場の近くに宿屋を建てるのがベストだと思います」
「他に必要な施設はあるかな?」
「やっぱり鍛冶屋は必要だと思います。武具の整備は冒険者にとって死活問題になりますからね。鍛冶師を雇う予定はないんですか?」
「今のところないわね。ニャルバンが最初に言わなかったから」
「ご、ごめんなのにゃ」
ニャルバンとしては鍛冶師をそこまで重要視していなかったようだ。
「そうですか。なるべく早く鍛冶師は雇った方がいいと思います。ダンジョンを気に入った冒険者がいれば宿屋に泊まって長居したり、そのまま定住したいと考える人もいるだろうし、そうなれば鍛冶屋は必須になりますから。酒場は最悪の場合、宿屋の食堂でも賄えると思いますけど、できればあった方がいいですかね」
「うーん、一人あたり千ゴルを一ヶ月で支払うとして、今雇ってるのが四人でしょ。もう一人雇うとなれば二カ月で一万ゴルがなくなるのよね。……収入がなければ危うい経営だわ」
「だけど二千ゴル余るのも全部なくなるのも同じような気がするにゃ」
「……それをニャルバンが言ったらダメじゃないかしら?」
再び悩み始めた廻を見て、ロンドは更に言葉を続けた。
「鍛冶屋と酒場だったら、絶対に鍛冶屋が必要だと思いますよ。酒場はまだ代替えが効きますけど、鍛冶屋は替えが効きませんから」
その言葉に廻は決断する。
「……分かった! ニャルバン、鍛冶師も見繕ってくれるかな?」
「了解なのにゃ!」
「ロンド君、ありがとうね!」
廻はロンドの手を取りぶんぶんと手を振る。
今までなら驚きの表情を浮かべていただけだろうロンドだが、今回は廻に笑顔を返していた。
「僕なんかが力になれてよかったです」
「それじゃあ、それぞれの配置とロンド君の家をどこに建てるかを決めましょうか!」
話し合いの結果、ダンジョンの入口周辺には道具屋と換金所、そして予定として鍛冶屋が建てられることになった。
宿屋は道具屋の裏に建てられて、さらにその裏にロンドの家を建てる。これはロンドがしばらくは宿屋の従業員として働くからである。
これからやってくるであろう人達もロンドの家の周辺に家を建てる予定を立てて、次の話し合いに移った。
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