異世界ダンジョン経営 ノーマルガチャだけで人気ダンジョン作れるか!?

渡琉兎

第1章:ダンジョン経営

第1話:プロローグ

「――はぁ、今回も楽しかったなぁ」


 海外旅行帰りの飛行機の中、大学二年生の三葉廻みつばめぐるは欠伸をしながら呟く。

 窓の外には青い空が広がり、下方からは白い雲が流れていく。

 旅行――それも海外旅行が趣味の廻は二十歳ながら様々な国へ訪れており、それぞれの土地で多くのことを経験をしてきた。

 この経験を将来の糧にして自分の未来を切り開いていくのだと漠然と思い描いていた。


 そんな矢先である。


 ――ガタンッ!


「えっ?」


 突然の浮遊感、頭上から降ってきた酸素マスク、明滅する室内灯。

 様々な言語で悲鳴や怒号が飛び交い、客室乗務員の説明をかき消すほどである。


 何が起こっているのか、頭の中がパニックになりながらもとりあえず酸素マスクを口元に持っていく。

 窓の外に目をやると、下方に見えていたはずの白い雲が上方へと流れていき、気づけば雲を突き抜けて下方には青々とした海が広がる。


「――あっ、死んだ」


 グングンと加速する落下速度、浮遊感が強くなり飛んでいく荷物とシートベルトをしていなかった人間達。

 シートベルトをしていたとしてまず結果は変わらないので、一度は飛んでみたいかもと場違いな考えが浮かぶのも死を直感したからだろうか。

 窓に迫る光を浴びて煌めく水面。


 そして――。


 ※※※※


 虚ろな意識の中、海に浮かぶのとは異なるフワフワとした浮遊感を感じ取った廻は、自分が死んだのだと確信を得る。


「……あぁ、ここが死後のせか――」

「あのー、すいませーん」

「ひやあっ!」


 自分が死んだのだと思っていた廻は、突然話しかけられたことで意識を一気に覚醒させた。

 不思議なことに浮遊していると思っていた自分の体は、自分の意思通りに動いている。

 周りに目を向けると、そこは真っ白な世界。雪国というわけではなく、眩しいということでもない。本当に何もない、ただただ真っ白な世界がそこには広がっていた。


「……ここ、何処?」

「ここは次元の狭間でございますー」

「ひやあっ!」


 誰かに話しかけられたことをすっかり忘れていた廻は再び声を上げて驚いてしまう。

 辺りを見回すが何処にも姿はなく、益々不安にかられてしまうが、不意に下の方から声が聞こえてきた。


「こっちだよー、こっちー」

「へっ?」


 視線を下に向けると、そこには三十センチくらいの小さな少女と思われる生物が宙に浮いたままこちらを見つめて微笑んでいた。


「やーほー」

「……や、やっほ、えっ、ええええぇぇっ!」

「驚き過ぎだよー、メグルちゃん」

「な、なな、なんで私の名前を知っているんですか!」

「だって、私は神様だものー」

「…………か、神様? こんな小さいのに?」

「小さい言うなー!」


 両手を振り上げてブンブン振り怒っているが、童顔の神様では小さな女の子が駄々をこねているようにしか見えない。

 和んでしまいそうな空気だったが、廻は慌てて首を左右に振り現実と向き合う。


「い、いやいやいやいや、神様もおかしいけど、ここ……次元の狭間ってどういうことですか!」

「どうもこうも、そのままなんだよねー。ここは生と死の狭間の世界、メグルちゃんはねー、死んだんだよー」

「私が、死んだ? いや、まあ、それは理解できますけど……」


 飛行機が墜落したのだ、奇跡的に生きている可能性もなきにしもあらずだが、そんな可能性は天文学的な確率とかその程度だろう。

 仮に生きていたとしてこんな世界が地球に存在するわけもなく、自分が死んだという事実をすんなりと受け入れることができた。


「私は、あの飛行機事故で死んだ皆様を迎えにきた神様なのですー」

「……そっか、それじゃあ貴方は本当に神様なんですね」

「そうですよー。他の皆様はすでに輪廻転生、つまり生まれ変わりの準備に入っていますー」

「それじゃあ、私も生まれ変わ――」

「メグルちゃんは異世界でダンジョンを経営してもらいますー」

「………………はい?」


 何を言っているのか理解できなかった廻は数秒の間をおいて疑問を口にする。


「だからー、メグルちゃんは異世界でダンジョンを経営してもらいますー」

「いや、だからとかじゃなくて、私も輪廻転生して生まれ変われるんじゃないの?」

「他の皆様はそうですよー。でもメグルちゃんは違うんですー」

「なんで!」

「なんでって……あれ? なんでだっけー」

「私が知るわけないでしょうが!」

「あうあう、怒らないでくださいよー」


 神様を怒鳴りつける廻の口は止まらない。


「怒るわよ! 死ぬのは仕方ないとして、なんでいきなり異世界? ダンジョン? それも経営? 全部が意味分からないんですけど!」

「えっと、あの、あー、あれですあれです」

「あれって何よ!」

「メグルちゃんには異世界に向かうための適性があったんでしたー」

「その適正って何よ?」

「えーっと……なんでしょう?」

「知るかー!」


 頭を抱えて蹲る廻に、神様はオロオロし始める。

 何故こんなに怒られているのかが神様には分からないのだ。


「お、おかしいです、異世界に行けると聞けば誰もが喜ぶと聞いたのにー」

「それはそういうお話が好きな人だけですよ! 私はゲームとかそんなにやらないし、普通に暮らして普通に家庭を持って普通に死んでいければそれで良かったの!」

「人生を達観してますねー」

「黙れ!」

「ひいいいいぃぃっ!」


 怯える神様だったが、突如として真っ白な世界に異変が起き始めた。


 ――ゴゴゴゴゴゴッ!


「こ、今度はなんなのよ!」

「あー、私が関与できる時間が迫ってきたようですー」

「ちょっと、こっちはまだなんの説明も受けてないわよ!」

「話を聞かないメグルちゃんが悪いですー」

「ふざけているんですか!」

「ひええええぇぇっ! と、とにかくメグルちゃんは異世界でダンジョンを経営するのですー! これは決定事項なのですー!」


 輪廻転生の枠から外れた廻は、どうしようもないと悟ったのか神様に詰め寄った。


「それじゃあ、私はいったい何をしたらいいのよ!」

「い、異世界でダンジョンを経営――」

「具体的な話をしてよ!」

「モ、モンスターを配置して冒険者から人気を獲得してくださいー! そうすれば収入がガッポガッポなのですー!」

「モンスターを配置して、人気を取るのね!」

「はいー!」

「モンスターはどうしたらいいの!」

「それは、ガチャというシステムで――」

「ゲームか! それはどうしたら引けるの!」

「ギ、ギフトとして毎日三回は無料で引けるですー! あ、後はあっちで確認してくださいー!」

「あっ! ちょっと、逃げるなー!」


 天高く飛んで逃げた神様は大きな安堵の吐息を吐き出すと、最後にこう付け加えた。


「ちなみに、あちらでダンジョンを経営している人は全員が転生者なので、心配はいらないですよー」

「はあ? 何よそれ、もっと有益な情報をよこしなさいよー!」


 そう言い残した神様の姿は一瞬で消失した。

 その直後、真っ白な世界に黒いヒビが広がると、轟音とともに崩壊。廻は何もない空間から真っ逆さまに落ちていく。


「ま、また落ちるのねええええぇぇっ!」


 あまりにいい加減な神様によって告げられた異世界ダンジョン経営。

 廻の異世界生活はここから始まった。

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