偽アクセスポイント作戦


「それでは作戦を開始します」


 号令とともに、高槻さんが、五キログラムのバズーカ砲を肩に担ぎます。このバズーカ砲は、無線LAN用の八木アンテナですが、八木アンテナ特有のムカデのような金属部は円筒で覆い隠されています。虫が苦手な人にも安心ですね。さて、ここから長丁場になりますから、さすがに肩に担いだままというのは大変です。ということで、三脚で固定することにします。


「ねえ、今のバズーカ砲のくだり、意味あったの?」

「自分で担いだのは高槻さんじゃないですか。はやくここに載せてください」


 さて、用意したのは、この八木アンテナの他に、法人向けモデルのアクセスポイント、ルーター、そして模擬攻撃用のノートPCです。


 まず、八木アンテナを無線LANアクセスポイントのアンテナ端子に接続します。ちなみに、自作のアンテナや、異なるメーカーのアンテナを使うと電波法違反になるおそれがあるので要注意。八木アンテナとアクセスポイントは、きちんとメーカー指定の組み合わせで使用しなければなりません。まあ、本物の攻撃者がそんなことを気にするとは思えませんが、我々は本物の攻撃者ではないので。


 つづいて、無線LANアクセスポイントの設定です。電波の周波数は二・四ギガヘルツのみを使用します。SSIDは「00000JAPAN」、暗号化は「なし」に設定します。そして、有線LANポートからLANケーブルでルーターに接続します。



 ルーターにはUSBのLTE端末を接続し、インターネットにつながるようにします。また、ルーターのローカルネットワーク側のインターフェースには、それぞれ社内LANと同じネットワークアドレスを設定します。そのうちの一つはサーバー用のネットワークアドレスとし、そのインターフェースに有線LANで模擬攻撃用のノートPCを接続します。


 ノートPCには、BigBrotherのサーバーと同じプライベートIPアドレスを設定します。ひとまず、これで自作のサーバープログラムで接続を待ち受けてみることにしましょう。


「――これで、このノートPCに接続しようとしてきたPCは、BigBrotherのエージェント入りのPC、つまり社用PCということです」

「接続はまだ? まだなの?」


 そう鼻息を荒くする高槻さんを宥めます。


「……落ち着いてください。研修室なんてそんなに使わないでしょう」

「え、ずっと待つの?」

「はい」

「……暇」


 だから言ったでしょう。ハッキングなんて地味な作業の積み重ねなんですって。


 重苦しい沈黙が訪れます。


 しばらくして、アカネBが助け船を出してくれました。


「災害時の{00000JAPAN|ファイブゼロジャパン}だって、本物かどうか分からないんですよね。こういう風に攻撃されたり、情報を盗まれたりするわけだから、使わない方がいいのかなぁ」

「そんなことはありませんよ。サイバー攻撃の被害に遭うか、大切な情報を得られずに命を失うか、どちらがいいですか?」

「うーん……それは、どっちも嫌だけど、サイバー攻撃のほうがまだマシ?」

「そういうことです。それに、リスクを知っていれば対策もできます。接続したときは、ファイヤウォールをパブリックネットワークに設定する、ブラウザでネットを見るときはHTTPSかどうか確認する。そして、使い終わったら設定を削除するということです」

「……なるほどなぁ」

「一番マズいのは、リスクを知らないってことじゃないかなと私は思います」


 さて、こうして待つ間に、もう一つやらなければならないことがあります。BigBrotherのプロトコル解析です。

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