三章の閑話 食べ物の恨みは恐ろしい

 僕の名前はバッブス=アンドリュー。ちょっとした商人の三男坊だ。年齢は三十歳目前だ。家の使用人や知り合いからは放蕩息子と言われているが、そこまで放蕩息子ではないんだ、失礼しちゃうよね。


 僕の趣味はいろいろな場所を見て回る事だ。先日も王都まで行って様々な場所を見て来た。でも家のあるブールに着く直前、大きな鳥の化け物に襲われ、命からがら逃げ回っていた。


 まぁ、旅の人がやっつけてくれたから無事だったんだけどね。


 それを親父に話したら、”いい加減に嫁でも貰って落ち着け!”って言われてしまった。ごもっともだけど、僕の所に嫁に来てくれる奇特な人なんかいないと思うんだよね。うんうん、自分で言っててちょっと悲しくなったよ。


 それで、いまはキール自治領のラルナって街に来ているんだ。えっ?お前はブールに居るんじゃないのかって?親父に怒られたら、いつの間にかいたんだよ。自分でも不思議だと思っているよ。


 ラルナに来たなら噂を確かめなくちゃいけないと思ってる。そう、噂だ。とある場所で川魚なんだけどラルナでしか食べられない魚があるらしいと聞いてね。


 食べ物、それは人を形作る根幹。

 そして、見つけたんだ、それを。


 ラルナの街の一番北、横にラルナ長河の川口が見える場所にあるちょっと変わったお店だ。そこは屋根に瓦と言う土を固めてレンガの様にした黒い物体を乗せているんだ。壁は白く、いや真っ白くペンキでもない何かが塗られていて周りの風景に溶け込まず浮いているんだ。

 これはこの大陸の遥か東の国から来た料理人がこだわって建てたらしい。建物だけ見れば綺麗なんだけどね。

 この店はある魚を料理してくれるただ一軒のお店なんだ。獰猛な魚を捕ってきては時価で食べさせてくれる。ああ、考えただけでもヨダレが出て来るよ。早く食べたい。


 僕はお店の入り口をくぐった。テーブルが見えないから聞いたら靴を脱いで一段上がれと。なんで靴を脱ぐのかわからないけど、綺麗好きなのかな?

 低いテーブルが置いてあって、その内の一つに通された。


 メニューを見ると、目的の料理を見つけた。ピラゲーターの料理を。

 このフルコースを頼んでみた。


 時間がかかるらしく、一時間くらい待ったかな。お腹と背中がくっ付きそうだったよ。もうお腹ペコペコだ。

 運ばれて来たピラゲーター料理は見事に飾ってあった。驚いたのは頭だ。

 ワニの様なくちばしを頭ごと柔らかく似てある。くちばしは骨で食べられないけど、それ以外はにゅるんとしてて、女性は大好きな食感だと思う。僕はこれ好きだね。


 内臓も食べられるらしい。透明な塩味のスープに内蔵の一部分だけ入ってる。キモスイって何だろう。でも美味しい。この内臓もコリコリしてて、何だろうな獣肉の軟骨を食べている感じだ。


 胴体の一部はパイ生地に乗せられデザート替わりになっているって。これはデザートだから最後だね。他には切り身を焼いたり、パンくずを付けて油で揚げたりしてとても美味しい。このサクサクとした食感がたまらない。


 火で炙って、白いプチプチした粒が固まった上に乗せた食べ物もおいしい。口の中で白いプチプチした粒がパァっと広がって溶けてしまったみたい。


 最後に先ほど後回しにしたパイ生地のデザートだ。

 ほぐした身が全体に行き渡り、脂が解け落ちた生地はどのパイにも負けない。


 最後に、水を張った鍋が出てきて、余った食材をそこに全部入れちゃった。火にかけしばらくするとぐつぐつと煮立ち、覚ましたパスタを入れた感性だって。

 パスタを一口食べると、今まで食べたすべての味が凝縮されて、満足どころか昇天しちゃいそうだった。


 こんなの食べたの初めてだった。




 さて帰ろうと会計を済ませようとしたら、


「お会計は金貨三枚です」


 え、三枚?銀貨じゃなく、金貨で?ほんと?うそでしょ。

 この魚はそれだけの価値があるって?いやいや、それは無いでしょう。

 これ以上駄々をこねると官憲隊に突き出すぞって?脅したって駄目ですよ。

 え、金額かいてあったって?それを見て頼んだのだろうって。その通りだけど、

 はいはい、払いますよ。美味しかったですからね。


 財布を覗き込み、全財産をカウンターの上ですべての硬貨を積み上げて行くが、


「えっと、金貨二枚分しかない……」


 って、止めて、ちゃんと払うから、皿洗いでも何でもするから。

 助けて~!!




 バッブス=アンドリューはその腕を両側から押さえられ、引きずるように官憲隊の事務所へと届けられる。


 その後、官憲隊の事務所からは”誤解なんや~~”と大声が数日間聞こえたとか聞こえなかったとか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る