海辺の白昼夢

枕元にある水。

誰かが置いていつたのだらう。

今はもう、気にならない。


濤声とうせいがきこへる。

そちらへ目を遣るが、ここから見ることはできない。


この場所で、どれ程の時を過ごしているのだらうか。

近くに置いている時計に視線をうつすけれど、

十分やそこらしか経つていない。


なんといふ虚無。


ドロドロのゼリィが机にまだ残されている。

昔、私はそれが好きだつたけれど、

何が美味いか、さつぱり見当がつかない。


刺さつていた匙でグルグルと混ぜて、硝子の器を倒した。

赤とも青とも、紫とも云へないやうな、妙な色で、

奇麗に光を反射して私の眼へと入つてくる。


「とても遅いなア」


何を待つていたのだらうか。

人びとは、いつでも、待つ時間は酷く長いものだと云ふ。


外ではまだ、波が打ちつけている。

喧しいからと耳をふさぐ。

情景があつてこそ美しいのだ。

私は無音の世界へ、今は身を投じたい。


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