メグル・ゲームミュージック

痩身

プロローグ

 ――それは一目惚れに近い感覚だった。


 それまでに見たこともない優美さ、ある種近寄りがたい絶対的な存在感。

 その指が織りなす音は、バンドという音の単位の中でさえはっきりと響き渡り、鍵盤上の典雅な挙措は、他が背景に過ぎないかの如く目を奪い去った。


 セミロングの流れる黒髪が映えて煌めく、誰もが美少女と認めるような……。

 しかしそれ以上に、演奏者としてのその姿は、自分の知る全ての形容表現を駆使しても語りつくせない。

 それほどの美しさだった。


 不毛に感じていた新入生勧誘PRイベント、そのトリを飾る軽音学部のバンド演奏。

 大講堂の檀上から聴衆の全てを魅了したそれは、それまでの団体が前座であると確信させ程の、至高のパフォーマンスだった。


 それでも、その中で燦然と輝いた鍵盤奏者のその人。

 導くフレーズ一つ一つが、まるで永劫に続くソロであるかのように頭の中を廻り、たった一人に全てが支配されたかような気さえした。


 大学一年の春、新生活に寄せた期待を遥かに超えたそれ。

 人生の中で初めて本気で囚われた人。


 ――何もせずに逃したら一生後悔する、そう思うほどに劇的な出会いだった。

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