恋愛

 包丁をにぎりしめていれば、きみを刺し殺すことしかできない。流れだすまっかな血液が、過去形できみの人生を証明しようとしている。私の胸にも包丁が突き刺さっていて、私の人生を過去形にしようとしている。それでいいよと微笑み。まっかな血液が流れて、私たちの手は同じまっかだ。いま、きみを殺している。

 テロリスト色した魂が朝日にてらされてゆっくりと灰になっていく。手をのばすことをためらっていた日々が堆積して、だからここに立っている。もう違うとは言わなくていい。手をのばせばにぎれてしまう体温が今日もあたたかい。知らなかっただけで、きっとずっとそうだったんだ。

 人殺しが当たり前に賛美される時代に生きて。別にそれが正しいとは思わないけど、ぬくもりにゆるされるため包丁をにぎりしめてしまう。それでいいよと微笑み。いま、きみを殺している。私たちのこれまでは過去形になって、いま、きみに恋をしている。

 

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